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第二十八話:雫の絆

俺は伝書鳩のスパロー。


ツヤツヤの羽毛を見せつけながら、空を飛んでいます。なぜかって?


…餌として使われています。


「スパロー、もうちょっと低めに!」


セトさん曰く、この辺りには飛行移動に適したペラゴルニスという巨大な鳥がいるそうで。

今、餌としてペラゴルニスを引き寄せる役割を果たしています。


「そうそう、そこそこ!」


俺の後ろには、ペラゴルニスがぴったり着いてきています。本当に怖い。今にも食われてしまいそうです。


セトさんが放った弓矢は見事にペラゴルニスの体を貫通してペラゴルニスを無事テイムすることに成功しました。


「いやースパロー、グッジョブ!」

そんな清々しい顔して褒められても、俺の怒りは収まらない。何なら火に油である。


そんな事はさておき、俺たちが次に向かうのは…


「”雫のほとり”かな?」


地図上では小さな村だが、人口は多い。

この雫のほとりという場所には名スポットがある。


「この場所に泉があるんだよね」


セトさんが地図を指さした場所こそ、名スポットである。その名も『雫の泉』である。


昔、この村を流行病から救ったとされる聖水がこの付近から湧いたそうな。その水がたった一滴でその流行病を打ち消すことが出来たので、その水を”しずく”と名ずけた。その名残りでこの村は”雫のほとり”とされたらしい。


「詳しくは知らないけどね」


これだけ事細かに詳細を知っておいて「知らないけど」は無理がある。知らないことなんて本当に無いのではないか?と疑ってしまうほど彼は博識だ。


「それにしてもペラゴルニスは速いね!」


…?セトさんのセリフを飲み込んで、思考を回す。

俺の頭に序列を表すピラミッドが作られる。



セトさん

ペラゴルニス ⇐New!!

スパロー



「俺はもう用済みですか…」ガクッと顔を下げると、落ち込んだ俺に気付いて頭を撫でてくれた。


「スパローにはペットという仕事があるだろ〜」


そう言って貰えるのは嬉しい半面、役立たずだと言われた気分にもなった。


そんなやりとりを繰り返しつつ、俺たちは雫のほとりに向かって行った。



———




「おとーさん、あのでっかい鳥さん何ー?」

村の子どもの可愛らしい声が聞こえる。


「あれはペラゴルニスだね、何でこんなところまで来てるんだろうね」


俺たちが村に着陸するまでに、わらわらと村の人々が集まってきていた。


「この村の雫を盗みに来たのか!」

「さっさと帰れこの盗人!」


酷い扱いである。人々の必死さを見る限り、この村にとって雫はかなり大切な存在なのだろう。


「いえ、私は盗人ではありません。人探しをしている者です。王族《••》のセト•フォークタルトという者です」


群がった人々はザワザワし始めた。


「王族が…」


「我々は目をつけられたのか…」


「ここには何も無いぞ!」


「帰ってくれ!」



あちこちから安堵の声、憤怒の声が聞こえる。

セトさんも王族と名乗ることで信頼を得ようとしたのだろうが、この村では王族には性悪なイメージが染み付いているのだろう。


「えっと…本当にただの人探しでして…」


「何事だ」

人の群れを掻き分けて、あるご老人が顔を出してきた。この佇まいに落ち着いた声、明らかに村長である。


「儂はここら一帯の山々の管理を務めているゾルというものだ」


村長どころではなく、山主だった。


「ゾルさん…この辺りで銀色の短髪の女の子や黒髪で長髪の女の子を見ませんでしたか?」


ゾルさんは考え込んで顔を上げた。


「知っている…と言ったら?」

「勿体ぶってないで教えろ」


セトさん…顔は笑っているけど言葉遣いに出ちゃっている。確かに、ゾル爺の話し方は妙に馬鹿にされているような気がして俺も腹が立つ。


「まあそう取り乱すな、王族の者よ。我々に協力してくれれば知っていることを話そう。交換条件だ、飲んでくれるかい?」

「先に話せ」


セトさんは遂に笑顔も崩れ出した。


「ここにいる訳では無い、今言ってしまったらお主は行ってしまうだろう?」


それから少しの間。


セトさんとゾル爺は睨み合う。


「…分かった、要件は何だ」


「その鳥はペラゴルニスだろう?この頃”雫”が湧く所がペラゴルニスに占拠されてしまっていて困っている。何とかしてくれないか?」


周りにいる村人は一斉に非難した。

「その王族は信用できるのか!?」だの

「そいつがペラゴルニスを倒せるとは思えん!?」だのやかましい限りである。


「ペラゴルニスのテイムには相当な腕前が必要だ。この者なら恐らく何とか出来るだろう」


ゾル爺がそう説得すると村人は渋々納得すると、自分の住居に戻るようにそれぞれ散っていった。


~~


「あのクソったれ村長の話によると、確かこの辺りだと思うんだけど…」


セトさんの肩から離れて、俺も辺りを飛び回り探している。


「スパロー、あっち側も見て来てくれないか〜?」


二手に分かれて散策を開始する。

雫の湧く所…見つけたら一滴くらい飲んでもいいかな…?と欲望を剥き出しにして飛び回る。


雲の上から見る山々には生き生きとした動物が駆け回っていて、それを見守るように木々が静かに、風に揺られて葉っぱを踊らせている。


~~


村からかなり離れた谷で。

木々に隠れてぽつりと建っている墓を見つけた。

墓には枯れた花が刺さった花瓶が置かれていた。


「スパロー、こんな所にいたのか〜」

ペラゴルニスの背中から身を乗り出して、セトさんは手を振っている。


「もしかしたら雫の湧き出る場所、見つけたかも!」


俺は墓石を視界に収めながらセトさんの言う所まで飛んで行った。


~~


「肝心のペラゴルニスは居ないんだけど…あれ」


周りは岩に囲まれている。

目を奪われるほどの綺麗な水。

澄んだ透明色をしていて、日光を反射している。

あれこそ…


「聖水だよね、あれ」


セトさんの目にも、俺の目にもあれが雫だと映った。


「ペラゴルニスは居ないけど…あのおっさんに伝えに行くか」


俺たちは報告のため、村に戻った。


~~


「…って感じなんだけど…」

「ほぉ」


ゾル爺の周りに群がる村人は「嘘に決まってます」と未だに講義を続けている。


「いや、恐らく彼の言っていることは本当だ。ここは儂が向かう」


村人は急に形相を変えた。ゾル爺を心配している、というのが目に見えて伝わる。


「ゾル爺…妹さんが危険では…」

「もし亡くなっていたら…」

「妹さん、いつ元気になられるんですか?」


ゾル爺の顔が、一瞬。一瞬だが、曇ったように見えた。


…その顔、村人の発言。俺は全てを悟った。

「これは儂の問題だ、儂がやらなければいけないことなんだ、手出しはするな」


ゾル爺は一喝するとさっさとペラゴルニスに乗った。


~~


「おい、そこの鳥。さっきの反応…気付いたのだろう?」

ゾル爺は全てを見透かしたようにこちらを向いた。


「少し、昔話をしよう」


淡々と、そしてどこか寂しそうにゾル爺は語り始めた。



昔、無邪気で可愛い女の子がいた。

その子の兄は体を悪くしていて、いつも苦しんでいた。女の子は兄を思って単身で森に入って雫の泉を探しに行ったのだ。


その子は花が好きだった。病気で寝込んだ兄に毎日。

毎日欠かさず花をお見舞いで綺麗に咲きほこる花を渡してくれた。

「早く良くなりますように」という言葉と共に。


雫の泉を探しに行った日。

その子は花を取りに行くためによく森に入って行っていたため、村の住民は皆笑顔で送り届けたのだ。

その日からその子は行方不明になった。


責任を感じたのは兄だけでは無かった。

送り届けた村の住民もだ。

「あの時止めていれば…」と泣き崩れて謝罪をしてくる人々を兄は見ていられなかった。


悪いのは全て自分なのに…と。


それから一ヶ月後。

容態は良くなり、軽く動けるようになった男はその日に森を駆け回った。妹の姿をもう一度見るために。

元気に笑う妹を…もう一度見るために。


結果、妹が着けていた髪飾りを見つけたんだ。

その髪飾りには血が付着していた。

恐らく妹は獣に食われてしまったのだろう。


その男はじき村長として村を治める者だった。

村人にこれ以上苦しみを与えたくない、苦しみを全て背負うのは俺だ、と。


村に戻ったその男は村人にこう伝えた。


「妹は無事だった、今は体に酷い怪我をおっていたし、恐らく感染する病にかかってしまっている。なので雫の湧き出る泉の近くで儂が看病することにする」


それからその男は山奥に墓を建てた。誰にも見られない、遠い場所に。そして「妹の看病」と称して墓にお供えする花を変えに行ったのだ。


そして誰も山奥をうろつかないように「ペラゴルニスが占領している」と嘘をついたそうな。



「…その男の名前は?」

セトさんは俯きながら尋ねる。


「ゾルというどうしようも無い男だ、優柔不断で妹一人も守れない弱い男だ」


村を背負う村長の気持ち。

妹を思う兄の気持ち。


この二つの感情に挟まれた複雑な気持ちを知るのは、ゾル爺のみだ。


「お主、女の子を探しておったな、娘か?」

「はい」

「私から言える言葉は…諦めるな、という事だ」



ゾル爺はその後、雫を花瓶に入れて妹が好きだったという花を備えた。

「すまなかった」という謝罪の言葉と共に。


「ゾルさん、この花の花言葉知ってますか?」

「何だ」

「幸せな生活を送れますように、ですね」


恐らく、適当だろう。鹿の角のやつをそのまま真似ただけだろう。

ゾル爺は手を震わせて、花を眺めている。

そして亡くなった妹さんはそう願ってくれていたことは確かだろう。




俺たちは結局何の情報も得られなかった。

でも代わりに何か大切なことを教えて貰ったような気がする。






























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