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第二十五話:真相と王手


険しい山々を何個も超えると、段々と霧が濃くなってゆく。


一日中、飲まず食わずで飛び続けたからか、体中のあちこちが痛い。


「無理はするなよ」というセトさんからの忠告を思い出し、水浴びをしようと雲の下に降りた時だ。


あの時と同じ。

忘れもしない、転移の光。


一つ先の山奥でその光を感知した。


その光景は、俺の目に深く焼き付いた。


~~


水浴びを済ませて、気を取り直して飛び立つ。目標の場所までもう少しである。


…あれって…?


まるで魔王城。趣味の悪い主人がいたものだ。…あのモルフォンとかいうジジイか。


雲の下では沢山の錬成陣が描かれている。それを守るように警備兵が配置されている。


俺は暗闇の中、廊下の弱々しい灯を頼りに窓から廊下を確認して回る。


居ない、居ない、居ない…。


モルフォンとかでは無く、人っ子一人見つからない。


それからその屋敷を三周ほど回った。


情報と言えば、警備兵が”モルフォン”と思われる人物に関しての愚痴を零していたことくらいだ。


~~


「何の成果も得られませんでした…」


クロンに記憶を覗かれた時用に、”とても反省しています”という意を示すために何度も頭を下げておく。


すると。


「おい、戻ったぞ」

「さっさと配置に戻れ!」


配置を崩し、談笑していた警備兵はすぐさま定位置に戻り規律正しい姿勢を作った。


森の中から人影が現れた。


あれは…。


口元に傷、髭、そしてあの輪郭…。


間違いない、あれがモルフォンだ!


「帰ったぞ、すぐにヒナを呼び出せ。紅茶を持ってこさせろ」


「はっ!」

先程まで陰口で盛り上がっていた警備兵二人はすぐさま屋敷の中に入って行った。


~~


窓際から耳を引っ付ける。


「ランダは結局味方なのか、敵なのか分からん。あの小娘調子に乗りおって…」


「お前もお前だ。何故オリバード一人を見つけられない?」


ヒナ…?と思われる秘書は何食わぬ顔で紅茶を注ぐ。


「妙だ。儂と関わりのあるはずの国、権力者が次々に連絡が途絶える。一体誰の仕業だ…?」


「ヒナ!伝説の建築士、ララの居場所は見つかったか?」

「いえ…」

「この役立たずが!」


紅茶の入ったコップを叩き割り、手から茜色の液体が垂れ流れている。


おっちゃん、飲み物は大切にしないとダメだよ。俺は欠伸をしながら話を聞き続ける。


「ともあれ、まだ二つ残っているのだろう?」


ヒナは割れたコップをかき集めながら。

「リビアとソルドラ王国からはまだ連絡がついています」

「ならまだ勝機はある。衛兵をその二つに送り込め!」


…言ったな。


俺はすぐさま明後日の方向に飛び立ち、夜空に向かって鳴いた。


任務完了である。


…ふと下を見てみると。

一瞬、和傘を持った子どもが通ったような気が…気のせいか。


俺は気を取り直して速度を上げた。



———


~~アレン•オリバード視点~~


二人とセトさんは無事、リビアにて合流を果たしていた。

「初めまして、アレン•オリバードさん。セト•フォークタルトと申します」


「こちらこそ初めまして」

「久しぶり!おじさん!」

クロンは一度、フォークタルト家にお邪魔したことがある。


「知り合い…なのか?」

「…?はい」


知らなかったの?とでも言いたそうな顔である。こんなバカ女に「知らないの?」なんて言われた死にたくなる。


「ってもしかして優秀な使者って…」

クロンは焦ってあわあわし始める。

そう、この男が総帥の部下だ。


あの鳥の飼い主…こんな偶然あるか?


「俺はこう見えても王族でね、実家のコネを使って少々探りを入れた」


男は淡々と話し出した。


「家族を探すついでに、モルフォンの部下を殺害するよう頼んでおいたんだ。かなり戦力を削られてると思うよ」


モルフォンの部下を…。本当ならかなり助かる。


「いやはや…私と似たような事をしている人がいるとは」


「最も、君は逆のようだね。モルフォンを追い詰めるついでに家族を探している。一緒にしないで頂きたい」


全て読まれているというのか…何者なんだこの人は。


「この国の王もこちら側になったが、ここは恐らく戦場になる。早めに立ち去った方が…」

「戦争ならとっておきがある。武器商店から頂戴したとっておきがな」


この人の目は…。


「ひっ!」

クロンは見たことがあるだろう。

殺意の籠った、人殺しの目。

クロンにはそう見えるのだろうが、俺にはそうは見えない。



「家族を危険に晒す存在は、生かしてはおけないからな」

この男が放った一言からは、殺意、怨恨。

そんなものを感じた。



しかし彼の目からは、優しさや愛情のような感情を感じた。この男は今、何を思い浮かべているんだ…?



モルフォンの衛兵が来るまで、しばらく待機だ。作戦は完璧。後は…どう出てくるか。






—————————






「敵襲ーーー!」

その三日後。


モルフォンの衛兵がこの国を攻めてきた。


セトさんは手榴弾を三つ装備する。


「もうそろそろスパローが来る。モルフォンから情報を盗むよう指示しておいた、見つけたらさっさと記憶を見漁ってくれ」


アレンとクロンは同時に頷き、護身用の手榴弾を受け取った。人を殺すための、殺戮兵器だ。







「おおおぉぉ…」


乱戦。

武装した何百人もの戦士は、リビアの遠距離攻撃をものともせず侵略を進める。


そんな中、均衡を破る一撃。



ボォン!



あっという間。

あっという間に何十人もの衛兵が帰らぬ人となる。


「ば…爆弾だっ…」


忠告する暇も与えず、容赦のない爆音。

悲鳴も上げさせない。間髪入れず爆破を行う。



ボォン…!




「押し返せー!」

リビアの兵の戦線は保たれて、モルフォンの兵は戦線崩壊。崩れた配置は簡単に修復出来るものでは無い。



その遥か上空。



「やってるやってる」とスパローはクロンを探してホバリング中。


あのハットは…。


銃声と弾幕に紛れて、路地に籠る二人に合流。


「スパロー!」

ハットの奥には、いつもの笑った顔の


「クロン、頼んだ」

「了解!」

クロンは躊躇無く杖を俺に向けて、魔力を込める。


記憶が洗い出される。




…。


…。


……。




「起きろ!」

オリバードさんの罵声によって目を覚ました。



「お前は最高の鳥だな」

「ですね」

オリバードさんは微笑する。

クロンは俺の頬をつねりながらはしゃぐ。


すると、オリバードさんからある物を渡された。


「ここからソルドラ王国まで対して時間はかからない。お前が決着をつけてこい」



そう、自分の居場所は自分で守る。




~~~




モルフォンの屋敷。

総帥は笑いながら門の前に立つ。



…モルフォンは完全な転移魔法を手に入れていた。まだ俺でさえも獲得出来ていない、「指定された場所にワープ出来る」という能力を持った転移魔法。


それを使って、優秀な人材と出席者候補の建築士、ララ。それに滞在していた出席者アレン。この二人を消すことによって自分が出席者から省かれる可能性を無くそうとした。


完全転移魔法を使えることが総帥に知られると、この能力を盗まれる。


しかし知られなかったらこのまま出席者を下ろされる。


この解決策として今回の津波災害を起こそうとしたのだ。


そして、後始末を行うという体で屈強な漁師や優秀な建築士を奴隷とする、”人材”


戦力が乏しい国に目星をつけて征服を目論んだ。大方”人材”を使って土地開拓でもしようとしていたのだろう。


総帥が後継者を探しているという噂を聞きつけて、自身が持つ能力を悟られず尚且つ権力を拡大させる良い一手だった。


しかし、作戦は失敗に終わった。



海の主のテイムを任されていたセト•フォークタルトのせいで、海の主を乗っ取るのに時間がかかってしまった。


そのせいで”アレン•フォークタルトの事故死”

という一つの目標は途絶えた。


そして後始末は総帥の手によって行われた。


モルフォンの当初の目標は全て頓挫したのだ。


そんな中、せめて国を征服してララとアレンを殺そうとするのだが…。



「アレン•オリバードを舐めすぎだ、モルフォン」



総帥は傘を開いて、屋敷を見つめる。



「何者だ!」

「…子ども?」

総帥に気付いた警備兵がワラワラと集まってくる。

「こんな所に来ちゃいけないよ、ほら帰った帰った」




ニヤリと笑い、総帥は傘を一振り。




ドォォン!

集まった衛兵の血液は、吹き荒れる風に飛ばされていく。




「何事だ!」

窓から身を乗り出したモルフォンは、崩壊した壁、塵になった警備兵を見て、体を震わせた。




砂埃が収まる。

モルフォンの視線の先には…。




「お疲れ様モルフォン、お前の負けだ」

ほくそ笑む総帥の姿があった。















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