第二十四話:賢者の詰め
~~アレン•オリバード視点~~
ブルーシティの海の主が操られた日。
そして俗の合議が始まったのはその二日後。
モルフォン自身が行った犯行だとすれば、ブルーシティから二日で総帥の屋敷に向かうことは不可能。
モルフォンの部下が行ったのか、モルフォンと繋がりのある何者か、なのか。
モルフォンの息がかかった国王共はそんなに肝は座っていなかった。だとすると、あの直属の部下の仕業か…?しかし海の主を操るのは普通の人間では到底出来ない。
「今のところは順調ですかね」
この小娘はひじょうに鈍感だが、上手く使える。
「この調子で頼むぞ」
「はいっ!」
幸いなことに、一つ一つ国に向かうまでにいくらでも考える時間はある。俺の全身全霊を尽くして、犯人を追い詰めてやる。
ん…?こんな道に馬車が…?
止まった…?
「誰ですか!?」
クロンは警戒しているようだが、恐らく敵なら影から殺そうとするはず。馬車で真正面から来る敵なんて、あまりにも愚策だ。
「ランダ様からの伝言だ、アレン•オリバード」
すらっとした体型の女騎士が馬車から降りてきた。
ランダ…だと!?
「誰よ!?」
「セントラル、ランドン村でモルフォンの部下を見つけた。以上だ」
「味方…なのか?」
「ランダ様のご意向だ。私たちはあなた方に情報を提供する」
イマイチ信用しきれないが、今は猫の手でも借りたい。ランダが味方につく…もし本当ならかなりの戦力だろう。
「ありがとう、情報感謝する」
「ちょっとオリバードさん!ランダって誰ですか!」
モルフォンの存在を知っている彼女には、別に教えてもいいんだがうっかり口を滑らせそうだから伝えないでおこう。
気を取り直して。
もし、モルフォン以外に出席者の中で敵となる人物がいるとしたら。
有り得るとしたら…ランダか暗殺家のダツか。
他の人物は地位に興味を示していなさそうだし。
そもそも他の連中は海の主を捕まえられるほど強くない。
もし、モルフォンの部下が津波を起こしたとしたら。
ブルーシティを潰したのは…一体何故だ?
モルフォンは現総帥を毛嫌いしている。
モルフォンは何故部下を各地に配置した?
ブルーシティには何がある?
屈強な漁師たち、住民、そしてララ率いる建築士。
何を企んでいた…?
住民の避難のため、我先にその役目を立候補したのはモルフォンだ。しかし、モルフォンの専門は転移魔法。率先するのもうなずける。
待てよ…?
屈強な漁師に優秀な建築士。
そして出席者候補として申し分無いキャリアをもつ伝説の建築士、ララ。
各地に部下をばら蒔いている…?俺を探し出す為かと思っていたが、もしかすれば…?
「クロン、先を急ごう」
「は…はいっ!」
俺の立てた仮説なら、全ての辻褄が合う。
~~
「アレン•オリバード様で、間違いないですか…?」
草むらから死ぬ寸前の顔をしながら人が出てきた。
「今度は誰!?」
これは…敵では無さそうだ。
「総帥様からの贈り物で〜す、しっかり渡しましたからね!それじゃ!」
ある紙を強引に俺の手に乗せると、すぐさま姿を消した。
…何だったんだ?
渡された紙は、転移予想の場所を示したものだった。
生憎だが、これは必要なさそうだな…。
「オリバードさん、裏に何か書いてますよ?」
「何だと?」
“俺の優秀な部下が、自分の意思でお前と同じように、
モルフォンを追っている。好きに使え、信用に足る男
だ。俺が保証する”
「何か胡散臭い仲間が増えてきたなぁ〜」
「ですね…」
流石の俺も、この報告には頭を抱えてしまった。
———
「スパロー、これから俺はリビアに向かう。一緒に行こう…と言いたいところだが、お前に一つだけ危険な仕事を任せたい。これはお前にしか出来ないことだ」
セトさんは地図のある場所に印をつける。
「この場所に、こんなジジイがふんぞり返っている屋敷がある」
シャッシャッと似顔絵を描くセトさん。
髭の生えて、口元に傷口がある、杖を持ったご老人。
名前は”モルフォン”というらしい。
「こいつのいる部屋から、”使者を何処に送ったか”を盗み聞きしてきてくれ」
恐らくだが、セトさんはあの事件の犯人を知っているのだ。
飼い主からの頼み、受けないわけが無い。
それに、セトさんについて行っても俺、多分何もやることない…気がする。
ここは少しでも主人の役に!
「キキッ!」
「じゃあリビアで待っとくね!」
セトさんの笑顔を視界に収めつつ、雲のさらに上まで飛行した。
~~
総帥の居間にて。
「総帥様、ご所望の漬物をご用意しました」
「おお〜」
こういう反応は、可愛い子どもみたいなんだけど…。
「相変わらず酒と合うなぁ〜これは」
お酒をがぶ飲みする時は、仕事終わりのサラリーマンにしか見えない…。
従者は溜め息を溢す。
「そろそろ大詰めだ、俺は後片付けの準備を始めないとな〜」
疑いの目を向ける。
「総帥様が…後始末を!?」と心の中で叫ぶ従者は、悟られぬよう平静を保つ。
———
“モルフォン”とやらが籠城する城はここから早くて一日、遅くて二日かかる距離にある。
セトさんは移動系の動物をテイムして向かうだろうからリビアに着くのは恐らく四日か三日か。おおよそ徒歩で向かったオリバードさんたちと同じくらいに着くだろう。
俺は急降下と滑空を使い分けて速度を上げる。向かい風なんて感じない、俺の目が捉えているのは食卓。
マレンちゃんがはしゃぎ、ラッキーが苦笑する。ノノさんとセトさんは二人の様子を見て幸せそうに笑う。
こんな食卓を、もう一度拝むために。
~~
アレン•オリバードは脳内でコン、コンと駒を配置していく。敵の”歩兵”や”銀将”、”金将”を卓上から落としながら、詰めに入る。
こうすれば…!
「オリバードさん、そっち道違いますよ」
「おっと申し訳ない…」
道は踏み間違えない。確実に一歩一歩、勝利に近づく手を。