第二十二話:念願の再会
氷雪地帯。
視線の先に見えますは、氷河による侵食作用によって形成された入り江、いわゆる”フィヨルド”です!
そこには多種多様な生物が住み着いていて、テイマーにとっては天国のような場所です!
私の飼い主、セトさんも昔からここによく来ていたそうです!
…とナレーターっぽく振舞ってみるが、慣れないことはやるものでは無い。ナレーションに意識を持っていかれて、気付けば道に迷ってしまった。
「気張れよ」という言葉を裏切るような失態だが、諦めるにはまだ早い。ここには沢山の集落があり、地図を見つけようと思ったらすぐに見つかる。
現在地さえ分かれば、またセントラルに容易に向かうことが出来る。
俺は雲より下に降りて、辺りを見回す。
できるだけ広い集落の方が地図が貼り出してある可能性が高い。
俺は崖上に位置する集落に舞い降りた。
「知ってるか?ブルーシティが陥没したんだってよ!」
「本当かよ!?」
降りるや否や、村は津波災害の話で持ち切りだった。
こんな所まで噂が入ってくるなんて、人の噂も何とやらである。
誰にも気付かれぬよう、音を立てずに周囲を飛び回る。ふと村の入口を見てみると怪しい看板が立てられていた。
『周辺地図』
これだ。
俺は看板を凝視する。確認すると、さほど道は外していなかった。これも伝書鳩の仕事のお陰だろう。方向感覚が狂っていなくて良かった。
「…スパロー?」
声に反応して後ろを振り向くと、麦わら帽子を被って鍬を片手に、服は泥だらけ。
俺のことを知っている人なんているものか…?と疑問に思って警戒していると。
「やっぱりスパローだな、こんな偶然があるなんて」
その男は麦わら帽子をゆっくりと脱いだ。
この髪、この声、このこの雰囲気。
見覚えがある。見覚えがあるどころか…。
「おや、もう忘れてしまったかい?」
間違いは無い。この人は…。
「セト•フォークタルト。君の飼い主だよ」
思考が回る前に、抱きついてしまっていた。
この安心感。優しい声、ゴツゴツした体。
ようやく、一人目を発見した。
~~
「いや〜気付けばこんな山奥でなぁ、この海を超えたところに街があるんだが、そこで協力者を雇って王国に伝達を申し込んだところなんだけど…」
セトさんが縁を切った王国に頼み事を…。
「意外だって顔してるね、俺もこんな風にお父さんに頼るのは不本意なんだよ。でもね…」
セトさんの気持ちは、言う前から分かっている。
おそらく…。
「家族のためだからね」 - 家族のためだろう
…俺もセトさんも、考えることは同じか。
「どうせスパローも各地転々としてラッキーのこと探してくれてるんでしょ?」
ラッキーだけじゃ無い、皆だ、皆!
俺は頬を膨らませて威嚇する。
「分かってる、分かってるよ」
こんな風に心が落ち着くのは久しぶりだ。
のんびり、綺麗な景色を眺めながら話すだけ。
たったそれだけで俺の心は満たされていった。
「…ところでスパロー。セントラルに行くんだろ?」
「何で知ってる!?」と全身を使って驚くと、笑いながら揶揄われてしまった。
「あんなにジロジロセントラルの場所見てたら、誰だって気付くよ。そこでだ!」
セトさんは即席で作ったであろう弓を用意した。
「移動能力に長けた動物をテイムする。手伝ってくれるか?」
答えはもちろん、YESだ。
———
セトさんのテイムを生で見るのは初めてである。
引っ越しの際、空飛ぶ魔物を撃ち落としたのを見る限り、セトさんはこの場のどんな動物でもテイム出来るだろう。
「今回の標的は、あいつだな」
セトさんの指差す先には…アーケロンである。
全長は見た感じ4、5メートルくらい?
移動速度も俺と遜色無いくらいの速度を誇る。
「セントラルに行くなら海路を通るべきだ、最短ルートを通るとハリケーンに襲われてしまうからね」
セトさんは強いだけで無く、博識である。
そんな完璧な人にお手伝いできることなんて、限られているだろう。どんな泥臭い任務でも、全うしたい所存だ。
「そこでアーケロンが海面に出て来てくれるよう、出来るだけ美味しそうに飛んでもらいたい」
…へ?
「えーっとねぇ、弓矢って海の中に入ると勢いを失っちゃうから、海の中でテイムするのはこの装備じゃ厳しいんだ!だからスパローには、アーケロンが食べたくなるように海面をウロチョロしといて!」
…ほえ?
結果、俺は餌としての任務を全うした。
~~
バチャ!
海面からアーケロンが首を出した。
ヒュッ…
風も切り裂くような、綺麗な放物線を描くように。
弓矢に括り付けられたロープがアーケロンの首を絞める。
弓矢は見事にアーケロンの前足に刺さり、身動きが取れなくなっている。
「流石スパロー!ナイス!」
流石、はこっちのセリフだ。
それからアーケロンを陸に引き上げて、前足を治療する。そうすれば、アーケロンは助けて貰ったと勘違いをして敵意を向けてこなくなる。なんて単純な生き物だ。
「んじゃ、こいつに乗ってさっさと行こうか」
セトさんは掌を差し出してくれた。
海風が涼しい。
セトさんの肩、という特等席に足をつけて俺たちは残りの家族を助けに行く。
「待ってろよ皆、すぐ助けにいってやる」
アーケロンの甲羅に足を挟んで、海を渡る王族。
中々シュールな絵である。
しかし見る人によってはこの男が逞しく映ることもあるだろう。
———
ザクロ王国、マンドシティ、ベネフト王国、挙げ句の果てにミネシアタウンまでも…。
「一体どうなっているんだ」
モルフォンは追い詰められている。
「何故どの国とも連絡がつかないのだ!」
ミネシア学校は生活学校だ、アレン•オリバードが関与したとか考えずらい…。
「ミネシア学校の職員について詳しい情報を集めてこい!」
俺の邪魔をしているのは…誰だ!?何人いる!?
俗の合議には総帥の座を座ろうとする意欲のある者は少ない。新人のアレン•オリバード以外に誰が!?
~~
総帥の居間にて。
「世界一の頭脳と真っ向勝負なんて頭悪いね〜」
呆れながら総帥は月を眺める。
「もうそろそろ下ろそうかな、あの老父。ほっといても勝手に死にそうだけど」
従者がすぐさま襖を開ける。
「では代わりの者を探しましょうか?」
「…いや、それはこっちで何とかする。君は次の”俗の合議”の準備を進めといて」
従者は察する。
この人が酒に酔っていない時は大体何かを企んでいる時。何かするつもりだ。
「御意」
瞬きの隙に、二人は居間から消えた。
———
「スパロー、一つ聞きたいんだけどさ」
風で髪の毛をゆらゆらと揺らしているセトさんは、いつになく神妙な面持ちである。
「総帥って知ってる?」
総帥…?総帥って、組織のトップみたいなイメージがあるような…?その名前を使っている組織は、少なくとも聞いたことが無い。
首を傾ける俺を見て、安心したようだ。
「知らないなら良いんだ、知らないなら」
セトさんはいつもの顔に戻り、セントラル着くまで楽しく談笑した。