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第十八話:新たなる旅路

そこから先の事はあまり覚えていない。


セトさんもノノさんも、マレンちゃんも、ラッキーも。


忽然と居なくなった。


押し寄せる津波から間一髪、津波よりも数センチ高く飛び立つ事が出来て、何とか一命を取り留めた。



しかし、今は…あの時呑まれていれば良かったと思ってしまっている。


皆、俺を置いて逃げ出したのか?


悲観的な思考しか出来ず、考えれば考えるほど暗闇から抜け出せなくなってしまうような。


俺の思い出が詰まった別荘も、今となっては瓦礫の山だ。


俺に残されたものは何も無かった。

生きる希望も、明るい未来も、家族も。


俺の気持ちとは裏腹に、時間は容赦なく過ぎていった。


「いつか、いつか立ち直れる」

そんな他人だよりな希望は、何日経っても、何週間経っても俺を照らしてくれなかった。


元々別荘だった瓦礫の上に取り憑かれたかのように、足も羽も動かなかった。


月を見ると、一緒に人魚を探しに行ったマレンちゃんを思い出してしまう。


気持ち良さそうに泳ぐ魚を見ると、気ままに釣りを楽しむセトさんの顔が。


お腹が空くと、ご飯を持ってきてくれるノノさんの顔が。



そして、眠りにつく瞬間には…毎回ラッキーの姿が。

何をするにも皆の顔がチラつく。



何が…?



起こって…?



俺、何のために…生きて…?



…何故俺だけ置いて、消えた?



何も整理できない。



「鳥…ですか?動物は…」

「あら可愛い、この子がうちの…」

「起きなさい、スパロー…」

「よし、この三人の監視を…」

「スパローは信じてくれるよ…」

「…それじゃ、おやすみ」



様々な記憶が、洗い戻される感覚。



全部…嘘?


「なんかロボットみたいっていうか…」



「お前は特異種(ジョーカー)…」




今までの…何もかも…が?




俺の事なんて、何とも思っていなかった…のか?



ゆっくりと、ゆっくりと沼に沈んでいくように。

俺はそのまま、消えるように意識を失った。






———






「…起きたか」

目が覚めた。


「…だから、…」

目の前にいる人の声は、俺の耳には届かなかった。


俺が今いる場所は、海では無かった。

「話を聞いているのか、スパロー!」


何者かにデコピンをされて、はっと自我を取り戻した。


目の前には、あのアレン•オリバードと、小さな子供。

見た事のある小さな子供だ。


キョトンとしてその子を見つめていると「魔法使いのクロンです!」と怒りの混じった声で自己紹介してくれた。


あ〜、あの魔法使いか…。


昔の記憶が洗い流されるような感覚。あれはこの子の仕業か。


「命令で、少し記憶を覗かせていただきました」

クロンは少し申し訳なさそうに振る舞いつつ、アレンさんの視線を気にしている。おそらく、憧れているのだろう。オリバードさんはレジェンドだから当然だ。



「お前が考えていることを教えてもらった。何が起こったのか、詳しく全て教えてやろう」


倒れ込む俺を手に乗せて、オリバードさんは淡々と話し出した。



海の主が操られて、何者かが大津波を引き起こした。


それに気付いたお偉いさんが人々を助けようと高度な転移魔法を使った。


転移魔法についてはまだ解析が進んでおらず、この世界のどこかに無作為に転移する事しか出来ない。


それでも、命を失うよりかはマシだという結論に至り「人」に対して転移魔法をかけた。


鳥だったお前にはその魔法が効かず、あの場所に一人取り残された。



「…まあ大体こんな感じだ」

呆気に取られる俺は、続けて説教を食らった。


「そもそもお前の飼い主共があの津波からどうやって逃げ出せるんだ?お前をわざわざ置いて行く訳も無いだろ?少し頭を回せば分かることだ、この鳥頭が」


ネチネチと口うるさい。そして思ったよりも言葉遣いが荒い。


「アレン様、その辺に…」

彼女は“クールなアレン•オリバード”の幻想を崩されるのが嫌だったのか、必死になってオリバードさんの説教を止めようとしている。


「おっと悪い、少し言い過ぎた」と息を整えて、もう一度俺の目を見た。



「家族を見つけたいんだよな?」

俺は犬のようにコクリと頷いた。


「なら…俺と一緒に来い。それが最も安全で、何より効率的だ」

断る理由は無かった。

また研究者どもから狙われる生活は御免だ。




家族を見つける旅。


…横に賢者を添えて。




















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