番外編:別荘での日々
~~俺の住処~~
「まさか鳥を飼うなんて思って無かったから、スパローが住む鳥小屋を建ててなくて〜ごめんね」
ノノさんは申し訳なさそうに頭を下げてくれたが、俺としては鳥籠があれば十分満足だ。
「ラッキー、鳥籠はどこに置いたんだ?」
セトさんがラッキーの背中を軽く叩いて、そう聞いた。
「あ〜〜〜…」
何かを思い出したかのように顔を上に向けて…彼女はとんでもない事を口にした。
「うん、忘れちった!」
舐め腐ったラッキーの背中に突撃して、俺はすぐさま寝床を探すため家を探索する事にした。
俺は二階のバルコニーから、家具を設置し終わった部屋を順々と見て回った。
二階のバルコニーからドアを開けると洗面所。横には浴室とトイレ。
ここは俺の住処にはならなさそうだ。
洗面所を抜けると、一階に繋がる階段と、子供部屋が二つ。
この廊下も無理そうである。
一階を見て回ると…ノノさんとセトさんの寝室である和室とキッチン、リビングがあるが俺が心地よく眠れるスペースは存在しなかった。
落ち着ける場所が…無い。
俺は少し狭いリビングを寂しげにトボトボ歩いていた。
「…分かったわよ!私の部屋で寝なさい!」
見かねたラッキーは、鳥籠を忘れた代わりに簡易的な寝床を用意してくれた。
~~釣り~~
朝。
ラッキーのデコピンで目が覚める。
彼女は「いつまで寝てんのよ〜」と欠伸をしながら髪の毛を整えている。
そんな彼女を横目に、俺は窓から外に出る。
下を見ると、優雅に釣りをしているセトさんの姿が見えた。
チラリ。背後に飛び降りて反応を伺う。
…気付かれない。
羽をブンブンと動かして風を送る。
…それでも気付かれない。
挙句の果てに「キッキー」と鳴いたものの、うんともすんとも返事は帰って来なかった。
彼は海の中をじっと見つめて、釣り竿を強く握っている。
「…来た!」
目をかっ開いてそう呟き、腕を振り上げると見事に小魚が餌に食いついていた。まんまと釣り上げられてしまった間抜けな魚は、驚きながらピチピチと音を立てて暴れている。
「今夜はご馳走だな」
小魚一匹をバケツに入れて、もう一度釣り竿に餌を装着した。
…もう何をしても構ってくれないのだな。
天才テイマーの集中力、恐るべし。
俺は「これ以上邪魔したら自分が狙われてしまうのではないか」と危惧して、震えながらラッキーの部屋に戻ったとさ。
~~海の主~~
「見て見てスパロー、あそこにでっかい魚がいるよ!」
俺は今、釣りを楽しむセトさんの横でマレンちゃんと海を眺めている。
「あっ!あれイカじゃない!?」
良く見えないが、確かにイカのような動きをしている影がある。
「スパロー、あれ捕まえてこれる?」
相当無茶なことを言われてしまった。
俺が捕まえられるのは浅い川で、なおかつ小魚である。あんな不規則にフワフワ泳ぐイカ、たとえ浅瀬だとしても捕まえられないだろう。
しかし、マレンちゃんの期待が籠った視線を浴びると…その期待に応えたくなってしまうのだ。
ええい、どうにかなれっ!
俺はポチャンと音をたてて海中に飛び込んだ。
ブクブク…当たり前だが、息が出来ない。
水中は慣れていないので身動きをとることもままならなかった。
イカのような影が見えた方向に視界を向けると…。
とてつもなく大きなイカがこちらを睨みつけてきた。
俺は動揺してバタバタと羽を動かそうとするが、全然先に進めない。後ろを振り向けば、巨大なイカが俺を狙って泳いでくる。俺は命の危機を感じてあちこち周りを見渡した。
「ここまでかっ!俺の人生…いや鳥生!」と諦めかけたその時、目の前に細い糸のようなものが見えた。
切羽詰まっていた俺にとってそれは、救いの糸のように思えた。
何とかなれっ、と糸に噛み付く。
バシャッ!
「あ、スパロー釣れた」
思っていたのとは違ったが、一応救いの糸で間違いは無かった。
後々、この海の主が巨大なイカであることを知って、一人隠れて身体を震わせていた。