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第十二話:少しの間、お引越し

季節は秋を迎えた。


森は茜色に染まり、俺の住処である鳥小屋の付近も紅葉で囲まれている。


そして変わったのは季節だけでは無かった。


目が覚めると、ラッキーがいそいそと沢山の段ボールを庭に積んでいる。

その奥では、ノノさんが辛気臭い顔をしながら窓を拭いている。


何があったのかな…?と首を傾げる俺に気付き、ラッキーがこちらに向かってきた。


「ちょっと街に行って縄を買ってきてくれない?お金と注文書はここに入ってるから」

俺の首に風呂敷を緩く括りつけて「ほら、さっさと行きなさい」と急かしてきたので、俺は慌てて飛び立たった。



何とお引越しをするらしい。

お引越しと言っても、数ヶ月だけ別荘に移住する、との事。セトさんが大規模な仕事を受けて、別荘に住むことになったと打ち明けると、「家族全員でその別荘

に行こう」と温かな提案を持ち掛けられたらしい。


もし別荘に住まうことになれば、ラッキーは学校に行けないし、マレンちゃんもノノさんも別荘には慣れていない。色々と心配事を抱えているのにも関わらずお父さんについて行く、という決断を下せるのは良い家族である証拠であろう。



「おーーい、スパロー!」

街に入ると、百貨店から元気な顔をした少女が手を振ってくれた。降り立って挨拶でもしようと考えたが、あんな笑顔を見られるだけで俺は満足だった。



「…変わったお客さんが来たね、いらっしゃいませ」

布製品を主に取り扱っている出店に降り立って、首に括りついている風呂敷を店主の前で解く。


「ふむふむ…了解!」

注文書とお金をよくよく確認して店主は、さっきまで風呂敷があった首に頑丈そうな縄を括りつけてくれた。…傍から見れば逃げ出してきた鳥のようだ。


「毎度ー」

この街からもしばらくお別れか、と寂しい気持ちが募ったものの新しい拠点に心を踊らせている自分もいる。



———



「うん、お疲れスパロー」

セトさんは縄を素早く解いてすぐさま荷物を積んだ荷車と馬を括りつけた。

その馬の足から紫色のオーラが漏れ出しているように見えるが、恐らく気のせいだろう。捕まえた魔物…?いや、あれは馬だろう。


「今から向かって、明日の昼前には着くだろう」

「一日乗りっぱなしって事ね〜」

ラッキーはため息をつきながら荷車に腰をかける。


「スパローは先に飛んでっちゃうの?」

マレンちゃんは俺の頭を撫でながら寂しそうな顔をした。

「スパローも家族なんだから、一緒に行くよ」

照れながらもラッキーは俺を抱き抱えて肩に乗せてくれた。

その光景をノノさんとセトさんはにこやかに笑いながら見られていたのが、なんだか少し恥ずかしかった。



「じゃあ、出発だ」

セトさんの掛け声と共に魔物…のような馬は歩き出した。


馬に乗っているのはセトさんとノノさん。

後ろには二つの荷車が繋がっており、一つにマレンちゃんとラッキーが乗り、もう一つは荷物が置かれている。



「…あの木の実、食べれる!?」

「あのの木の実は?」

「あのキノコは…?」

マレンちゃんは荷車の上から何度も食べられそうな物を指差すが、全て毒性がある物である。

マレンちゃんにサバイバルは向いてない。

しかしマレンちゃんは”冒険家”になりたいらしい。

それを初めて知った時、俺たちは「何とか阻止しないと…」と冷や汗を流した。


「あれは何でしょう?」

ノノさんが示した方向には、バッタの死骸が見えた。子供に見せるものか…?と少し引いてしまったが、その死骸は少しおかしかった。


木の枝に刺さっていた。

かと言って子供に見せるものか…?と先程の疑問は無くならなかったが、これは恐らく”モズ”の仕業だと分かった。



「子供のイタズラかしら」

「そうだろうね、最近の子供は残酷だね」

あの二人の予想は的はずれである。



モズ。

俺と同じ鳥で、スズメの仲間である。

捕らえた獲物を枝に突き刺して置いておく。

それは冬に備えての保存食だとか、雌へのアピールのために必要な栄養になる、と言われている。

その変わった習性は「はやにえ」と名ずけられている。

実際のところ、俺もそこまで詳しい訳では無い。



———



それから かなりの時間が経った。

辺りは暗くなり、マレンちゃんはウトウトしながらラッキーの胸元に身体を預けている。


「母さん、後ろの荷車でゆっくり眠っていいよ」

「お気遣いありがとうね、でも私はまだ…」

ノノさんの気力が尽きてクラクラと身体を揺らし始めたのでセトさんは馬を止めてノノさんを荷車までえっさほいさと抱き抱えて運んだ。


「よし、この三人の監視を頼んだぞ!スパロー」

小声でそう命令されたので、慌ててラッキーの顔を覗き込むと彼女はいつの間にか寝てしまっていた。マレンちゃんを抱いて。


という事は俺は寝たらダメ、ということか…。

ため息をつきながら俺はそっとラッキーの肩から降りた。



———



皆が就寝してからかなりの時間が経った。

辺りは真っ暗で、空を見上げれば数多の星々が俺を見ているかのように輝いていた。


「綺麗だろう?」

俺が空をボーっと見つめているのに気付いたのか、セトさんはこちらに顔も向けず話しかけてきた。

まるであの人のような優しい声で。


その数秒後。


綺麗に輝く星を隠すように空から魔物が現れた。


鳥の魔物だ。

黄色に染まった嘴に、鋭い爪を突き立てて、真っ赤に光る目玉をこちらに向けて。


そしてそのまた数秒後。


飛び降りてくる。


そう予知した時には、でかい羽に矢が刺さり、その魔物は緑色の血液を垂らしながら逃げ去ろうと片翼のみを必死に動かした。


そして次の瞬間には、その魔物の喉に矢が刺さり森の中へと力尽きるように倒れていった。


「無事だった?」

ニコリと笑うセトさんは弓と矢を馬の鞍の収納にしまった。


この人は数秒で弓を取りだして数秒で魔物に狙いを定めて数秒で撃ち抜いて…頭が混乱する。

あまりに衝撃的だったのか、そのまま俺は気を失うように眠りに落ちてしまった。






…眩しい。


「あっ、スパロー起きたよ!」

「あんた寝すぎなのよ、もうすぐ昼だわ」

「スパローは、ねぼすけだからしょうが無い!」


目が覚めると、夜中監視してあげていた恩を知らない二人に言いたい放題言われてしまっている。

最悪の目覚めである。



「ほら、もうそろそろ見えてくるよ」

辺りを見渡して見ると、草木の一つも見えず、あるのは…海。


「あれが別荘なの?」

マレンちゃんも俺と同様、別荘は初見である。

俺も釣られてマレンちゃんの指差す方向に目を向けると、砂浜から海の上まで木の板で道が作られていて、その道の先には素朴な一軒家が堂々と建っていた。


「なかなか良いでしょ?」

自慢げに家を紹介するノノさんだが、恐らくこれはセトさんの財産と地位によるものだろう。


家のさらに奥には、海上都市が見える。

あれはかの有名な”ブルーシティ”じゃないか!

一度は行ってみたい都市ランキングでもトップクラスの美しい街並みは、色々な人々を魅了するそうだ。


「これから忙しくなるぞ〜」

どこから取り出したのか分からない釣り竿を担いで、セトさんは目を輝かせている。

いやあなたデカい仕事があるから来たんじゃ…?



これから、また面白おかしい日々が始まる。




































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