第十一話: 一風変わった文化祭 2
「次はどこ行く?」
俺は色々な意味でお腹いっぱいなのだが、コンロとラッキーはまだまだ余力を残しているようだ。
「じゃあ、風船割りに行かない?」
「賛成〜!」
風船割り。ゴム風船や紙風船を狙って玩具の銃を使って上手に割る、射的のような遊びである。
ドンッ!
ドンドンッ!
軍の訓練所にいるような音が聞こえてくる。まさかとは思うが、実銃を使って風船を割っている訳が…。
「スパロー、ちょっと降りてくれる?」
ラッキーの冷たい声に少し恐怖を感じて、すぐにコンロの肩に乗り移った。
「最強テイマーの娘…銃の名手ことラッキーとは私の事なの…」
人格が変わったかのようにそう語り始めた。
「変なスイッチ入っちゃってるね」
コンロは呑気に欠伸をしながらベンチに座り込んだ。
「私が、全部の風船を割ってあげるから!」
ラッキーはテキパキと手袋を着用して銃に鉛弾を5つ装填した。
「では、風船が昇ってくるのでタイミング良く撃ってください」
受付の人が流れるようにラッキーの耳に耳栓をつけた。
今なら…ラッキーがマレンちゃんを連れていきたくなかった理由が分かる。
ドンッドンッドンッ!
間を置いてもう2発。
「…おめでとうございます、合計6個の風船を割りました!」
「に、二枚抜き…」
コンロは呆気に取られ顎を外してしまっている。
かく言う俺も目を丸くして固まってしまった。
「どう?私の実力」
命の危機を感じた俺はすぐさまラッキー様に飛び移り羽をパタパタと動かして賞賛した。
この時のラッキーの雰囲気が、怒った時のセトさんの雰囲気に似ている気がした。
———
気付けば、もう夕方。
「おーーい、ラッキー、スパロー!」
「お父さん!」
マレンちゃんを肩車したセトさんと合流した。
「家族水入らず、だよね」
と言いながら泣く泣く帰ろうとするコンロを目にした俺は、何故だか放っておく事は出来なかった。
「キーキー」
鳴き声を上げながらこっそり居なくなろうとするコンロの背中を嘴で掴み、引っ張った。
「ちょっと、止めてよスパロー!」
「いつもうちの娘がお世話になってます」
「ます!」
マレンちゃんは便乗して語尾だけ付け加える。
「あ…どうも…」
「何猫被ってんのよー」
面白おかしくラッキーが揶揄うと「被ってないしー!」とあっという間にいつものコンロが帰ってきた。
その後、「開かないーー!!」と嘆きながら岩を蹴り飛ばすノノさんも無事発見した。
「もうすぐ、花火が上がるらしいですから見やすい位置まで移動しましょ!」
コンロのガイドに従って、傾いていないプレハブ校舎の屋上に向かった。
満開の桜も、雨の日に咲く朝顔も、道端にポツリと生えているタンポポも、全て価値は同じだ。
大切なのは———誰と見るか、である。
今はこんなに沢山の人に囲まれて、幸せに生きてます。いつか、あなたとも…こんな綺麗な花火を見たい。
あなたの分までこの世界を見ると約束したけど…出来れば次見る花火は、元気なあなたと共に。
「帰ろっか」
セトさんの締めの一言と共に、花火は上がらなくなった。
次会った時には、この思い出を共有したい。