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カヨと悪夢と心の痛み

「あなたには普通の人生を歩んでほしいのですがね」

 と母が言っていた。

「あなたをそういう風に育てた覚えはないのですけれども」

 と母が言った。

「そういう風に育ったんじゃない、はじめからそういう風にできてるんだ」

 と声を上げても声が出なかった。


 告白をして頭を下げた僕に

「キモチワルイ」

 といつものあの娘が言った。

 はっとして頭を上げると楽しそうに笑顔を浮かべた同級生の口が引き裂かれて大きくなっていった。

「キモチワルイ」

 気持ち悪い笑顔で僕にそういった。「キモチワルイ」

 顔の見えない同級生は口元だけが楽しげに見え、何度も何度も「キモチワルイ」

「キモチワルイ」と笑顔で言った。


 やめてよ! やめてよ! 僕が叫んでも笑顔は「キモチワルイ」と繰り返した。

 同級生に詰め寄ってやめてよ! と言おうとした時、その同級生の顔はカヨになって言った「キモチワルイ」


「ユウ! ユウ! 大丈夫!?」

 カヨに揺り起こされて目が覚めた。


 寝汗でびっしょりになった僕に心配げにカヨが覗き込んでいた。

「あ、あ、カヨ、どうして?」

 心配げなカヨに「キモチワルイ」と言ったカヨが重なった。

 あれは夢だ、大丈夫、自分に言い聞かせた。


「すごくうなされてたから」

 僕の頬をなでた。


「汗かいてるから」

 というといいよ、僕の頭を抱きしめてくれた。


「子供の頃、怖い夢を見た時はあたしもお母さんにこうしてもらってたから」

 ぎゅっと力を込めた。


 呼吸も落ち着いて来た頃、まだ夜明けには遠いみたいなので改めて寝ることにした。

 カヨは僕の隣に陣取って横に寝るつもりらしかった。

「ちょっと心配しすぎじゃないかな」

「心配はしすぎても悪いことなんかなにもないよ」

 そう言って僕の手を握って、じゃ、おやすみ! 寝てしまった。

 まったく。

 ありがとう。


 日の出と共にカヨに起こされ、火喰鳥を呼ぶためにかまどの火を大きくする必要があるから手伝って! というのでかまどを大きくして大きな薪を次々と放り込む。

 カヨのおかげで落ち着いたのか、すっきりとした目覚めを迎えることができた。


 メラメラと火柱を上げるかまど、料理には使えないほどの大火力で燃え盛る炎を眺めていると、カヨがかまどから離れながら言った。

「さ、逃げるわよ」


 岩陰に姿を隠して火喰い鳥が現れるのを待った。

「今回も殺しちゃだめなやつ?」

「もちろん、でも今回はあたしの魔法でやるから、手出しちゃダメよ」

 というと杖を構えて集中した。


 向こうのヒクイドリは喉にあるビロビロと動く肉が赤いので炎を食べてるようだ、と名付けられたらしいのだが、こっちの火喰い鳥は本当に火を食べるらしい。


 羽根を広げた大きさは1メートル50センチにもなる炎のような真っ赤な鳥がかまどに向かって舞い降りた。

 長い首をかまどの中につっこみ、火がついた薪を食べるらしい。

 火だけをたべるわけじゃないんだな、と関心した。


 カヨが小声で呪文を唱えると、火喰鳥の頭上に巨大な水が現れ、かまどと一緒に火喰い鳥を水浸しにした。

 おお、すごい!と思ってカヨを見ると、ちょっとだけつらそうだった。

 後から聞いたら水の魔法は相性が良くないからちょっとだけ負担がかかるらしい。


 火喰鳥は水の塊が落ちてくる時にギャアと鳴いたが逃げるまでは至らなかったようだった。

「さ、いくわよ」

 飛び出し、水浸しの火喰い鳥の元に行った。

「死んだの?」

「水が弱点だからね、驚いて気絶するの。」

 尾羽根を4本ほど抜きながら答えた。


「そんなに必要?」

 と聞くと、多めに貰っておいたほうがお得でしょ!と、答えた。


「あとは放っておけば目が覚めるから、あたし達は帰りましょ」

 そう言って飛翔の魔法を使ったので、慌ててカヨの腰にぶら下がると飛び上がり、4時間ほどの時間をかけておばあさんの家に向かった。


 段々と高度を下げ、おばあさんの家の前に着くと、おばあさんが家の前で待っていてくれた。

「そろそろ帰ってくる頃だと思ってたよ、さあさ、材料を出しておくれ」

 早速僕の杖を作り始めるらしい。


「長老の木の枝、中々いいのを選んだね。森ねずみの尻尾、大きく育ったのをちゃんと生きたまま捕まえて獲ってきたなんて猟師になれるんじゃないのかね」

 おばあさんはもってきた材料の1つ1つをくるくると回しながら材料を見定めながら言った。


「川底の石、これがユウの魔力に馴染む石、いいね、これなら大魔法にも耐えられそうだ」

 ただの石ころにしか見えないが魔女にはわかるらしい。


「火喰鳥の尾羽根、獲って時間経ってないね、いいよいいよ」

 尾羽根をなでながら満足そうに頷いた。


「寄生樹の(つた)、よく栄養を吸ってるいいのが見つかったね」

 ピンピンと蔦を引っ張りながら言った。


「早速作るよ」

 材料を抱えて庭の端にあるかまどへ向かい、大きな鍋に森ネズミの尻尾、火喰い鳥の尾羽根、毒ヒトデ、火山の石をいれ、かまどに乗せた。


 火山の石が解け毒ヒトデを飲み込み溶かしながら毒色になった火山の石との混合液は羽根と尻尾もドロドロに溶かした。


「このままだと火が強いから川底の石を入れて属性を相殺するんだよ」

 川底の石を放り込んだ。


「練習用の杖を出してこっちにいらっしゃい」

 というので杖を構えてかまどに近寄る。

 復唱して、というのでおばあさんの魔法を復唱する。


「ヴァラークヴァラーク グヴァラーズ 神秘の入り口に立つ者なり 我が名前はユウ 森の魔女を師と抱き、汝らが扉を解き放ち我を入門させ給い請い願わん マージマーヴァグヴァラース」

 練習用の杖から光が降り注ぎ、薬液に溶けていった。


「仕上げに長老の枝をつけると、ユウの杖に力が入るんだよ」

 寄生樹の(つた)を持ち手に巻いた長老の木の枝を薬液に沈めた。


 煮詰めていくとどんどん、長老の木の枝が水分を吸うように水かさを減らして最後には透明感のある青い杖杖が残った。


「やっぱりユウは水の属性が強かったみたいだね、これがユウだけの杖だからね」

 そう言って渡してくれた杖を両手で受け取り、思わず誇らしくてカヨに見せた。

「よかったね!」

 自分のことのように嬉しそうに微笑んでくれるカヨ。

 そんなカヨが愛おしい。


「今日の所は疲れてるだろうから、汚れを流してお茶にしましょう。

 お土産話も聞かせておくれ」

 そう言って、パンパンと手を叩いた。


 カヨと一緒におばあさんの家に向かい、順番にお風呂に入る。

 お風呂? 浴槽ってあるの? と思ってカヨに案内してもらうと、向こうから名前だけが伝わってる様で排水設備がついた洗濯部屋で洗浄の魔法を自分にかけるだけらしい。

 ついでにたらいに入れた服にも洗浄の魔法をかける。

 設備の使い方としてはこちらが正しいのだけど味気ない。


 ドアの向こうからユウ、着替え置いとくよとおばあさんが着替えを持ってきてくれたらしい。

 ありがとうございます、と答え髪の毛を絞り、手で体についた水を払ってから洗濯部屋から出た。

 

 カヨの様な黒いローブが用意してあったので着慣れないながらももぞもぞと着た。

 持ってきたタオルでタオルドライをして頭に巻いた。

 お茶会のために部屋に戻り、土産話をしながら食べるのは何がいいか、と思案してみると、小腹が空いたことに気づいた。


 缶詰のパンと、あといくつかスナック菓子を選んで1階に降りてテーブルについておばあさんとカヨを待った。

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