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第二十四話 愛とハレ巫女の祈り

 アリシアはゆっくりと、絵本の内容を辿る。


「この「巫女」……もしかして、サンフラワー家の先祖なのかしら?」


 祈祷で晴れさせるというのも、その「晴れ」に人々を鼓舞する力があるというのも、サンフラワー家の「ハレ巫女」の力と良く似ている。


「でも巫女は……晴れも雨も、その他の天候も思いのままだった。サンフラワー家は「ハレ」の力のみだから……「アメ」の力を持つハイドランジア家も、巫女を先祖としているのかしら?」


 先祖ではないにしても、巫女がこの二つの家にそれぞれ自分の力を分け与えたのかもしれない。王家に「氷の呪い」をかけたように。


 アリシアは「緩和の魔法」が記されている部分を、なぞりながら読み進める。


「巫女の力を摂取すると、呪いが弱まると書いてあるわ。じゃあ太陽の恵みいっぱいの野菜を旦那様に食べてもらうのは、あながち間違いじゃなかったわけね! 太陽の光を浴びてもらったのも、呪いには良かったのかも」

 

 今日のユリウスとの会話を細部まで思い出そうと、アリシアはぎゅっと目を瞑った。


「ユリウス様はあの時……ハレ巫女の力があるかないか、念入りに確認されてたわよね……。『ハレ巫女の力があったら、殺さなければならなかった』って」


 貼り付けたような笑みを浮かべるユリウスの顔を思い出し、アリシアは顔を(しか)める。


「やはりハレ巫女の力は古の『巫女』の力で、呪いの緩和にも効果があるのかしら? でも呪いが緩和するなら、逆に旦那様の側に居た方が良さそうだけれど……。もしかして王家は、旦那様の呪いを解かせたくない、ということ……?」


 見下すような笑みを浮かべる王の顔を思い出すと、胸に怒りが湧き上がってきた。


「自分達は現代に至るまで、散々『巫女の力』を利用しておいて……旦那様の呪いは解きたくないというの!? 昔の王と同じように、反吐が出るほど自分勝手だわ!! ……と、いけない。言葉遣いには気をつけなくては。今はまがいなりにも『貴族』の嫁よ……」


 アリシアは胸に手を当て、気分を落ち着けようと深呼吸をした。

 

「何故王家が、旦那様の呪いを弱めたくないのか……ここにある情報だけでは分からないけれど。とにかく今は……何の取り柄もないただのメイドの『アリシア(わたし)』を、何故殺す必要があったか、よね。それが分からなければ、また殺されかねないわ」


 自分まで死んでしまったら、レイモンドとブルーベルの心に傷を負わせてしまうだろう。彼らにとって自分が重要な存在でなくとも、身近な人の死は心に深いダメージを負わせる。

 

 次は絶対に、死にたくない。

 

 今回の人生こそは、彼らを一片の曇りもなく幸せにしたいのだ。「自分の呪いのせいで人が死んだ」なんて、万が一にも思わせたくはない。


「前の『アリシア(わたし)』は孤児だったし、ハレ巫女のことは関係ないとして……。別の方法で、呪いの緩和に関与していたとすると……?」


 絵本に記された、呪いの「緩和」のもう一つの条件。

 

『呪われた子が真に愛し愛された時、呪いの力が弱まる』


 アリシアは小声で、息を呑むように呟いた。

 

「旦那様と『アリシア(わたし)』が、愛し合っていた……ということ!?」


 一気に真っ赤に染まった頬を両手で挟み、首を振る。


「いやっ、いやいや、それはないわよね! 私はそうでも、旦那様は……。でも少なくとも、ユリウス様の目には、愛し合っているように見えたということ……? 呪いが解けてしまいそうなくらいに……!?」


 クッションに顔を埋め、アリシアはバタバタと足を動かした。ショートした頭で、そのまま深く息を吐き、ゆっくりと目を閉じる。


 思い出されるのは……八年前のレイモンドの、アリシアを見つめる目。

 深いブルーの瞳はどこまでも優しく、全てを包み込むような温かさを持っていた。まるでアリシアのことが、愛しくてたまらないとでもいうように。


「恋人のような愛ではなくて、家族としての愛でも……呪いが弱まるほど、旦那様が私を大事に思ってくれていたのならば……それはとっても、嬉しいことだわ」


 座り直したアリシアは、クッションを抱えてソファに沈み込んだ。

 

「殺されるのを避けるためには、この想いを隠さなければならないけれど……呪いを弱めるためには、愛し合わなければならない……。でもそもそも、旦那様は『亡き妻』しか愛せないと仰っているし……うーん、悩ましいわ……」


 体中を包み込むように睡魔が襲ってきて、そのままずるずると眠りに落ちていく。

 今日はあまりにも、色々なことがありすぎた。泥のような重さの眠気に体を委ね、夢の世界に片足を踏み入れながら呟く。


「私は私の心の中で、こっそりと旦那様を想うことにしよう。いつか旦那様が……少しでも私を好きになってくれたら、それが緩和の魔法となりますように……」


 ・・・・・


 次の日の夜。

 アリシア達はいつものように、全員で食卓を囲んでいた。

 夕食は食事会以降、よほど忙しくない限りは揃って取る決まりとなっている。

 

 隣で美味しそうに野菜を頬張るブルーベルはいつも通りの様子で、アリシアはホッと胸を撫で下ろした。


 (よかった。ユリウス様に言われた事を気にしていないかと心配だったけれど、杞憂だったみたい。それにしても……親から捨てられたように感じているお嬢様に「君はいらない子だ」なんて……。一度拳をお見舞いしないと、腹の虫が治まらないわ!!!)


 ブスリ!!と思い切り肉にフォークを刺すアリシアを、エリオットが怯えた様子で二度見する。


 (それにしても……旦那様は浮かない顔ね。想像以上に昨日のことが(こた)えているのかも。デザートのアイス、私の分も差し上げた方が良いかしら……)


 アリシアの視線には気付いていない様子で、レイモンドは軽く俯いたまま小さく溜息を吐いた。


「……皆、話がある」


 苦虫を噛み潰したような顔で、レイモンドはナイフを置く。


「どうなさいましたか? 今朝からずっと、浮かない顔ですが」


 ヨゼフが眉根を寄せながら、心配そうに尋ねた。


「昨日のユーリ……ユリウスの件だが……。やけに大人しく帰ったなと思ったら、本題はこれだったらしい。昨夜気付いたら、机の中に入っていた」


 重々しい動作でレイモンドが懐から取り出したのは、王家の紋が押された白い封筒だった。

 レイモンドはアリシアを見つめ、低い声で語りかける。


「……王家主催の、舞踏会への招待状だ。俺とブルーベル……そして貴方に参加してほしいと」


「ぶ、舞踏会……ですか!?」


 アリシアは驚きのまま、勢い良く立ち上がった。

 

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