表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

見つめた先

作者: 三日月

 学校の帰り道、大好きな後ろ姿が見えた。いつもならすぐにでも声を掛けに行くのに、今日は足が動かない。

 わたしと彼の関係は変わってしまった。

 彼の優しさに触れた時、ずっと隠していた気持ちが形を持って口から零れた。その時彼は酷く驚いた顔をした。動揺と焦り、ほんの少しの拒絶。その表情を見た瞬間、後悔が押し寄せた。

「ごめん」

 この言葉だけが今も耳の奥で響いている。胸が苦しくなって、自分でも驚くほど大量の涙が溢れた。夕日も沈み、月が昇り始めた薄暗い夜道を、想いを散りばめるようにただひたすら走り続けた。このまま消えてしまえばいい、と強く願いながら。

 彼に想い人がいることは知っていた。だから、自分の気持ちを伝えるのは卒業するまで我慢しようと決めていた。それまでは良い友達でいようと。彼からその子の相談をされようと、嬉しいことがあったと目一杯の笑顔で話をされようと、彼が幸せならそれで良いと、必死に自分に言い聞かせた。毎日、毎日。

 それなのにどうしてあの時、いつもはしないような優しさを見せてきたのだろう。こっちの事なんか見向きもしていなかったのに、あの子のことばかり考えていたはずなのに。

 一欠片の優しさが、温もりが、想いを引きずり出した。

 後ろ姿を見つめていた視界がボヤける。溜まっていた涙が溢れないように、ぎゅっと強く唇を噛んだ。



 あの日から数週間、彼女は全く話しかけてこなくなった。避けているわけではないが、近づいてくることもない。微妙な距離感になんだかイライラする。

 あの日、彼女にはいつもの元気が無くて、どこか寂しげだった。そんな姿を見て思わず、彼女の頭に手を伸ばしてしまった。その時彼女はとても驚いた顔をした後、嬉しそうな、悲しそうな、どちらとも言えない笑みを浮かべた。そして俯きながら、震えた声でぽつりと呟いた。

「好き」

 自分のせいだってことは分かっている。あの時、彼女からの言葉を聞き、酷い表情をしてしまった。動揺と焦りで残酷な事しか言えなかった。それを今になって後悔している。

 教室での彼女の笑顔は以前のように輝いていない。いつもどこか、無理をしているような作り笑いをする。あれも俺のせいなのだろう。

 こんなにも彼女の事が気になっているのは、好きという感情が芽生えたからではなく、同情からくるもの。とことん最低な男だ。こんな気持ちになるのなら、好きになればいいのだ。でも、そんな簡単に好きになれるほど人間の感情は甘くないことは、自分が1番よく解っている。

 好きな人に振られる辛さは俺にも解る。ただ、それを身をもって知る勇気が無くて、でも彼女にはあって。それが羨ましかった。いつか、いつかと先延ばしにしている自分が情けなくなる。

 立ち止まって空を仰ぐ。一筋の飛行機雲が綺麗な直線を描いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ギリギリの状態で零れないようにしてた『好き』が出ちゃうの切ない。でも優しさ一つで口にできてしまうほど本当に好きだったんだろうなぁ。好きになってたからこそ相手に好きな人がいることを知ってたの…
[良い点] セリフが少なく、もう少し背景や情景を描いていただいた方がよいかと思いますが、読者に任せるという点ではよいかと思います。
2022/04/01 19:45 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ