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★魔王の過去

 魔王は人にあってならない。

 この世界に来た時からガタカから強く言われていることで、魔王になり巨大な力を手に入れた今でも、彼はそれは守っていた。

 徐々に薄れていく記憶と感覚。

 日本にいた時の記憶は思い出したくないものばかりで、ユキトにとっては薄れていくことが喜ばしかった。

 日本から召喚された勇者、初めて魔界に足を踏み入れた勇者。

 珍しく興味が沸いて、出向いた。

 その名前、ミオ。

 兜の下のその凛とした顔立ち、その声。

 ざわつく感情。

 苛立ちしか覚えず、さっさと殺してしまおうと決めた。


「同じ日本人同士で殺し合いなんてしたくないんだよね!」


 ミオは彼の戦斧を受け止めて叫ぶ。

 日本人という言葉は、彼の苛立ちをますます煽る。


「死ね!」


 斧を引き戻してから、彼は渾身の風魔法を放つ。


「ハリケーン!」

「バリア強化!」


 ミオが同時に叫ぶのがわかったが、それは自身にかけた魔法でなく、後方の役立たずの仲間のためだった。

 

 ーー海部野あまのは悪くないよ。だって本当のことでしょ?


 彼の脳裏にミオの声が木霊する。同時に目の前の彼女より少し幼い少女の姿が浮かぶ。


「邪魔だ!グレートファイア!」


 風で作った竜巻に、さらに炎の魔法を加える。


「うわ!」


 彼女の焦った声が聞こえ、はぜる音がした。

 視界が白くなり、彼も目を開けていられず目を閉じた。


 ーーー



海部野あまのはさあ、面白いよね。はっきり言いたいこというし」


 ユキトには小学六年生まで友達がいなかった。

 クラスメートのことを馬鹿にしており、自分が学校で一番賢いと思っていた。実際彼の成績は学年一位であり、頭はよい方だった。

 けれども性格は最悪で、勉強を教えてほしくて質問したクラスメートを冷たくあしらったりと非協力的態度で、クラスに馴染んでなかった。

 運がよかったのか、どうなのか。

 そんな態度でも距離は置かれることはあっても、虐められることはなかった。

 そんな中、転校生が来た。

 彼女はユキトに気軽に話しかけ、冷たくあしらわれても物ともしなかった。

 一人でずっと過ごしていた彼は、徐々に彼女に心を許していくようになり、それがほのかな恋心に代わるのは時間の問題だった。

 けれどもその恋は一瞬で砕け散る。


「え?嘘だ。そんなこと、あり得ないから」

「絶対そうだって。だって、海部野あまの、ミオのことずっと見てるでしょう。ちょっと気持ち悪いよね」


 それは彼が教室に忘れ物をして取りに帰った時に、聞いてしまった会話だった。

 ミオとほかの女子生徒が二人残っていて、そんなやり取りが耳に入ってきた。


 声しか聞こえなかったが、ミオの反応が否定的に思えて、彼は酷く傷ついた。同時に彼の抱く感情が、恋であることを知った瞬間でもあった。 

 ユキトはそれ以上二人の会話を聞きたくなくて、その場から逃げ出した。


 そうして、その日から学校を休む。

 両親は心配して彼に尋ねるが、彼は何も答えなかった。

 そんな状態で2週間が過ぎ、とうとう彼は父親に怒鳴られ学校に戻った。けれどもミオは転校した後だった。突然のことで驚いたが、むしろ顔を合わさなくてすむと思うと気が楽になったくらいだった。

 時折、彼女を思い出して落ち込んで、ミオに出会う前には感じなかった孤独感に苛まれる。

 その度に親に買え与えられたゲームなどをして孤独を癒した。

 そうして数か月が過ぎて、中学生になり、彼は虐めにあった。

 教科書を奪われ、頭に来て力づくを奪い返した。それが勢い余って相手に擦り傷を負わせることになった。

 擦り傷程度なのに、相手がことを大きくして、教師や親を巻き込んだ。()()に過剰に反応したと彼が一方的に責められた。

 彼からすると防衛だったのに、誰も彼側に立たなかった。次から気をつけるようにと校長室に呼び出されて説教を受けた上、両親にも責められた。 

 彼の言うことよりも周りのいうことを信じて、一方的だった。

 彼は誰にも好かれていなかった。

 だから誰も味方になってくれない。


 先に手を出したのは相手なのに。

 それから彼は虐めのターゲットになった。

 誰も信じてくれない、彼は黙って虐めに耐えた。

 家に戻ると、ひたすらゲームをして、殺人鬼になり参加者全員を殺したり、世界を破滅させたり、そうしてどうにか日々を過ごしていた。


 そんな中、彼は異世界に召喚された。


 ーー魔王になって世界を支配しないかと。


 ユキトは喜んでその言葉に乗った。異世界では彼は無敵だ。どうせ、異世界の住人なんて、作り物に過ぎないと、彼はガタカの言うまま、魔物を殺していった。

 人型を殺すことに戸惑いを覚えた時もあったが、自分を虐めた奴らへの憎しみを思い出して、殺した。

 そうしているうちに、感覚が薄れていき、彼は完全に魔王になった。



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