交際相手
「ただいまー。って来てるんだ、志寿玖」
玄関に金本が履いている黒のスニーカーがあることに気付き、つい漏らしていた。
「おかえりー。シャワー借りた〜佳那汰ぁ〜」
普段と変わらないトーンの声で挨拶を返した金本。
「いちいち報告しなくて良いよーしぃちゃん。来てるんなら鍵、開けといてよもう〜」
リビングに脚を踏み入れた俺に、金本が片手を顔の横辺りで挙げながらヒラヒラと振った。
「ヘイヘイー、一応言っとかなきゃね。驚かせたくてさぁ〜」
「そうなんだぁ……また愚痴こぼしに来たんだ、今日も」
「ついでだよーそれは。驚かせたいってのが目的だよぅ〜もうぅ佳那汰がイジメてくるぅ〜!」
心外だというように頬を膨らませ、いじける金本。
「いじめって。抱かれにきたんだ、志寿玖は」
「ッ……!そ、そそうっ!そうだよっ佳那汰ぁ!佳那汰の身体が、体温が、それにそれにっ……!」
「わ、わかった。分かったって……それ以上言わないで」
食い気味で遮って、左手の掌で顔を隠した俺だった。
「言わそうとして自爆って、佳那汰……そういうとこ、好きっ!」
軽くうねったミディアムの黒髪を揺らしながら、弾ませた声で本音を告げた彼女。
俺はダイニングテーブルを挟んだ彼女との距離が焦ったく感じた。
それと同時に、筒海奈々への罪悪感も感じざるを得ないのだった。
フラワーレースがあしらわれた紺のキャミソールにフレアパンツ姿の金本志寿玖を愛しながら、筒海奈々の姿も近くに共存している感覚が俺の身体を覆っている。
二歳歳上の金本志寿玖の一糸纏わぬ白い裸体をベッドで抱きながら、筒海奈々(おさななじみ)に対する罪悪感が共存して、苛んでいく。
金本志寿玖の艶めかしい喘ぎ声が耳朶を侵食していきながら、筒海奈々の泣き顔がちらつく。
俺は——どんな貌をしているのだろう。
誰か……気付かせてくれッ!