職場の付き合い
「永倉せんせぇー、今から一杯しませんー?」
「えっ、あー……今日は——」
キリの良いところまで残業を終えたところに先輩教師が背後から呑みに誘ってきた。
先輩教師の声が聞こえた方向に顔を向け、断ろうとしたら、呑みの場には必ず出席する谷中茉莉絵が躊躇した様子もなく紙コップを持ちながらもう片方の手を天井にぶつける勢いで挙げて許可を得ようとした。
「行くんすか、稲視せんせぇー?私も行って良いっすか?」
「来い来い。大歓迎よ、谷中先生。永倉先生はどうします?」
「っうしっっ!永倉先生も呑みましょうよ、ねえねえ〜。酔い潰れるまで呑みましょ〜!」
ガッツポーズで叫び、グイグイと誘ってきた谷中。
「わかりました。行きます、行きますよ……お供しますよ」
「そうこなくっちゃあなー!永倉先生、谷中先生はもう終わりました?」
「ええ、まあ」
「稲視先生らと呑むのが優先なんで、残ってても行くっすよ!」
紙コップに残っていたコーヒーをグイッと飲み干し、自身の机にカタンと音を立てて紙コップを置き溌溂とした声で言い切る谷中だった。
「じゃ、行くか!居酒屋へ!」
「はあ……」
「行きましょ行きましょ!」
稲視透子の号令に俺は気乗りしない返事と言えるかどうかの気のない返事をした。
谷中は言わずもがなの返事を職員室に響かせた。
居酒屋に入店して、一時間も経たずして稲視先輩と谷中先輩はデキアガって、二人の愚痴の応酬にあい、酔いたくても酔えずに小鉢から枝豆を摘んでチューハイをチビチビと呑んだ。
幼馴染の筒海奈々に対して抱く後悔を、酒の酔いで誤魔化せずに、悶々とした酒の付き合いをした。