憧れ、そして懐かしい感覚
カラカラン、と扉の上に取り付けられた鈴が鳴り、閉まる扉。
「美味しかったぁ〜!筒海さん、満足したぁ?」
「ええ、はい。こういう放課後、憧れてて……とぅ、塔洞さんに連れてきてもらって、叶いました」
塔洞さんの圧に気圧されながらも頷いて、気恥ずかしいことを発した私。
頬が紅く上気してるのを自覚しながら。
「少女漫画の影響かぁ〜……そういう憧れっての?そんな嗜んでへんしなぁ〜少女漫画ってのは。てことは、イケメンに連れてきてもらいたかったってこと?」
「イケメンになんて、無理ですから。そこまで高望みは……」
「え〜筒海さんめっちゃ可愛いのに高望みって。自己肯定感ちゅうのが低すぎやてぇ……そんなんあかんって、筒海さん!」
「私が可愛いわけ……塔洞さんの方が可愛いですよ。私なんて……」
私は可愛いという意見に激しく首を左右に振って、否定して彼女を持ち上げた。
「いやいや、筒海さんは可愛いって!可愛くない女子にキスなんかせぇへんて、フツーさぁっ!私がからかってる思うてるん?そんな意地悪せぇへんて、私。自信持ちぃよ、筒海さん」
お互いがお互いを可愛いのだと譲り合う同性二人。
「あ……ありがとう、塔洞さん」
私はお礼を言い、テンプレな展開に笑いが込み上げた。
カフェを後にし、同性二人での下校のひとときは、懐かしい感覚を思い出した。
塔洞美桜凛は、私には勿体ないくらいに優しい女子に思えた。
帰宅して、自室に足を踏み入れ、制服を脱がずにそのままにベッドへダイブした。
天井を見つめたままで左手を唇に持っていき、指先で触れて呟く。
「悪くないかも……オンナのコと……のキスも」
塔洞美桜凛にされた唇を重ねた行為を思い出しながら。