ライバルは、我がママ。
「あら、いらっしゃい」
無視されないだけマシだった。
ネチネチといびられることもない。
事務的なお見合いなどではなかった。
長い恋愛の果てに、ようやく辿り着くことのできたーー彼の実家での出来事。
「ただいま」
って。
そう言えれば。
気分を害することはないだろう。
嫁いだからには。
んん?
スリッパが用意されていない。
裸足だ。
ただでさえ冷たそうなフローリング。
床下暖房なんて備えはなかった。
嫌がらせにしてはじつに微妙だ。
だが旦那には優しく、とびっきりの愛情に溢れたスリッパがある。
当然なのではあったけど……。
チッ、マザコンめ。
聴こえないように舌打ち。
……歓迎されていないことは分かっていた。
いわゆる玉の輿。
俗に逆玉などと呼ばれている。
使い途は間違っていたとしてとしてもーー、だ。
結婚したからには。
郷に従え、と。
うまく取り入って、城を築きたいから。
「あら、お母様。 ここに埃が」
バチバチと火花が散る。
誰がご主人様なのかと。
戦国は、まだ始まったばかりなのであった。