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反逆の勇者  作者: シキ
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新たなる旅立ち


異世界に転生される少し前


「あと少しでここは落とせる。」

スキンヘッドな男がそう呟きながら物陰に隠れる。

「坂倉、このまま進むか?」

「あぁ。私たちはあくまでも囮だ。ここを落として総理がいるところを一気にたたく。それがこの作戦の目的だ。」

「そこまで細かく説明しなくてもわかってるよ。」

「坂倉さん。」

坂倉の後ろにいた短髪の女性が前方を指さした。

前方には三人の兵隊がいる。

「よし、私が合図をしたら一気に叩き込むぞ。」

二人はうなずき、銃を構えた。

「3、2、1...今だ!」

坂倉の合図で三人は一気に突進をし、兵隊三人の息の根を絶った。

「あの階段を上がればいるはずだ。」

坂倉はそう言うとすぐに走り出した。

二人も坂倉に続いた。


階段を上がると、ワンルームほどの広さの部屋に出た。

しかしそこには誰もいなかった。

「どういうことだ?」

「政府の奴らはここを捨てていたのか?」

女性が中に入るが特に何も起きない。

坂倉も中に入り壁などを調べる。

だが特に仕掛けなどなかった。

「とりあえず総長に連絡するか?」

「いや、他の部屋を調べてからにしよう。」

部屋を出ようとしたとき、無線機に連絡が入った。

「総長から?」

坂倉が無線機を取ると女性の焦った声が聞こえてきた。

「坂倉君、今すぐその場を離れなさい!」

「どういうことだ?」

「説明している暇はないわ!今すぐ...れな..い!」

通信状況が悪くなり、女性の声は聞き取れなくなった。

「どうしたんだ?」

男性の問いに対し坂倉は首を傾げた。

直後、何かが迫ってくる音が室内にまで聞こえてきた。

「なにか近づいてきているのか?」

「この音は...。」

坂倉たちが音の正体を思い出す寸前で天井を突き破って鉄の塊が落ちてきた。

そしてその鉄の塊はすぐに爆発を起こした。

爆発と同時に坂倉の意識はここで途絶えた。


「そうか、あれは核爆弾だったのか。」

坂倉は冷静にその時のことを思い出し、納得をした。

「あなた、本当に驚かないのですね。」

「普通に考えて核爆弾を間近で受ければ死ぬに決まっている。」

「まあ、そうですね。」

「私が死んだ理由はわかった。次になぜ私はこの世界に転生された。」

メローチェは咳ばらいをして、話をつづけた。

「まず、あなたを選んだ理由をお伝えいたします。」

坂倉は腕を組みなおした。

「世界を救うというのには強い意志が必要になります。私が見てきた人間の中であなたには強い意志を感じました。元の世界で亡くなられたのはとても残念なことでしたが。」

メローチェは少し悲しそうに言うが、坂倉自身は特に何も感じていなかった。

そしてメローチェのことを鼻で笑った。

「私に世界を救う強い意志があるだと?それはあり得ないな。」

「え?」

メローチェは驚きを隠せなかった。

「私に復讐心はあっても世界を救いたいという気持ちはあるはずがない。女神なら私が元の世界でなぜ戦っていたのかわかっているはずだが?」

からかうように言うが、メローチェはためらいもなくうなずいた。

「はい。存じております。あなたが妻と娘さんを見殺しにした国を亡ぼすために戦っていたことを。」

「そうだ。それなのに勇者だと?笑わせる。」

坂倉は嘲笑った。

しかしメローチェは首を横に振った。

「それでも、あなたを選択した決断は間違いではないと確信しております。」

「ずいぶんな自信だな。」

坂倉は腕を組むのをやめ、メローチェを見た。

「まあ、お前がそこまで言うなら別に構わん。次にこの格好はなんだ?私はこのような服は持っていないが?」

坂倉は改めて自身の服装を見た。

とりあえず全身黒い。

「その恰好は、元の世界でのあなたは核爆弾により肉体を無くしました。」

「そうだろうな。」

「だから無数の可能性の世界からあなたの身体を頂戴しました。」

坂倉は無言になった。

この女神は何を言っているのだろうか。

「他の世界線の私はずいぶん中二ちっくな趣味をしていたようだな。」

「あくまでも無数の可能性ですからね。」

自分のこと?ながら坂倉はため息をついた。

「それで、具体的に私に何をしろというのだ。」

「世界を救ってくれる気になったのですね。」

「勘違いするな。ここでうだうだしてても時間の無駄だ。それにもう元の世界に戻れないなら命を持つものとしてこの世界で生きていくだけだ。」

「十分な理由です。」

メローチェはうなずき、坂倉の足元にカバンを出現させた。

「これは?」

「あなたにはこれから魔界軍と戦うために旅に出ていただきます。ですが急に生身で放り出すわけにはいきませんので旅に必要最低限のものを入れておきました。」

カバンの中身を見ると地図と小銭入れ、薬草が入っていた。

「寝袋やサバイバルナイフとかはないんだな。」

「宿屋がありますので基本的にそういった場所を利用してもらえれば大丈夫です。」

(他に必要なものは現地調達をするか。)

坂倉はカバンを背負った。

「ここを出て西に進むと王都ゲルレインがあります。そこに行き国王に会ってください。魔界軍について詳しく教えてくれるはずです。」

国王という単語に坂倉は少し嫌気がさしたが、すぐに気持ちを切り替えた。

「ここから西だな。」

坂倉が行こうとしたとき、メローチェは思い出したかのように呼び止めた。

「そういえば、魔界軍を倒してくれたあかつきには、あなたの願いを何でも一つかなえて差し上げます。」

「信用しないでおこう。」

坂倉はそう吐き捨てて大樹の前を後にした。

「勇者坂倉様、どうかこの世界をお救いください。」

そう祈って、メローチェは姿を消した。


次回は王都へと行きます。

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