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もう一人のプレイヤー

「は?」

「ふあーあ?」


 扉を開けて出会ったのは未知との会合だった。

 寝起きと思われる欠伸をしたお姉さん。さっきの獣の唸り声のようなものは、寝息だったのか。


「…………」


 俺は息を飲んで固まるしかなかった。そこに広がるのは未知の光景だった。


 女性の一糸まとわぬきれいな裸体。


 女性のやわらかさと鍛えて絞られた均整の取れたスタイル。そして控えめではあるが形の良いお胸様。初めて母親以外の女性の裸をまともに見てしまった……。

 一瞬、視線を釘付けにされたが異臭で正気に戻る。

 スタッフルームはお菓子やカップ麺のゴミなどが散乱した汚部屋と化していた。

 せっかくの美人だが、この汚部屋では百年の恋も覚めるというものだろう。

 なんて現実逃避していると、お姉さんが銃を構えた。

 え、銃?


「この野郎ぉぉぉ!」

「ひぇぇぇえぇ」


 悲鳴を上げながら、咄嗟にカウンターを飛び越えて避ける。

 俺がいた場所は激しい銃撃で見るも無残な光景になっていた。


「てめぇは殺す!」


 スタッフルームから出てきたお姉さん。

 とても美人だがとにかく目つきが悪い。睨んだだけで人が殺せそうだ。

 そんなお姉さんの体が虹色に光っていた。

 光が消えて現れたのはセーラー服だった。くすんだ肩まである長い金髪がひと昔前の不良を連想させる。異様に短いスカートも気になるが、手に持っている凶器がやばい。

 右手には釘バット。左手にはアサルトライフル。

 それに今の光は俺が武器を出す時と同じだ。


『プレイヤー、だと? 主様。少し希望が見えたかもしれぬぞ』

「いや、希望というか絶望しかないんだけど!」


 明らかに危ないお姉さんが「ひゃっはー」と叫びながら、アサルトライフルを乱射。その銃弾から逃げ回る。

 ファミパンの店内はテロリストにでも襲われたかのような様相だ。


「ちっ。玉切れか。つっかえねぇなぁ! やっぱり慣れた獲物が一番だな。なぁお前もそう思うだろ? 礼儀知らず!」

「はい、そう思います! けど謝るから許してください! あと俺の話を聞いてくださいっ」


 まだ話せば通じる。ていうか同じプレイヤーなら争ってる場合じゃない。

 

「私様のこの攻撃を凌げたらなぁ!」

「なっ」


 一瞬で目の前まで加速。

 釘バットが襲い掛かる。反応すらできなかった。初めてイマンが戦っていた時のことを思い出す。強さのレベル自体が違う。

 言わば戦車に生身で挑んでいるようなものだ。


『衝撃』


 イマンが咄嗟に機転を利かした。

 衝撃ーー文字通りの力だ。体の任意の場所から衝撃が発生する。うまく利用すれば瞬間的な速さなら野生の俊敏より優秀だ。

 その分コントロールは難しい。イマンとの連携が不可欠だ。

 今のように咄嗟に使えば、無差別に弾き飛ばされる。

 だが、緊急回避としては上々だ。


「女に守られるたぁ、なさけねぇな! てめぇ、本当に金玉ついてんのか? あぁ?」


 衝撃の勢いを利用して転がり、物品棚の陰まで来る。

 今ので分かった。

 強さの次元が違うのだ。この人と戦ってはいけない。


『主様、なんとか対話に持っていくのだ。あの破天荒なプレイヤー、おそらく凄まじく強い。某ではレベルがわからぬほどにはな』


 それはつまりレベルがわからないほど高い相手に命を狙われているということでは? ていうか他プレイヤーがいるなんて聞いてないのだが。

 色々言いたいことがあったが今はそれどころではないようだ。


「無視かよ? いい度胸してんなぁ!」


 お姉さんは苛立ちからか物品棚を蹴り倒す。

 この人と戦ってはいけない。勝ち目は薄いし、何より同じプレイヤーだ。要は運営側が用意した味方だ。ただでさえ絶望的な状況だ。

味方同士が潰しあってはみんなを生き返らせることはできない。

だったら、ここは賭けに出るしかないか。


 俺は物陰から堂々と出る。

 丸腰で。

 牙や剛毛鎧を外した。


『主様!?』


 スマホも手放した。さすがのお姉さんも目を見開く。スマホからイマンが俺にやめるよう叫んでいる。

 悪い、イマン。命を懸けることくらいしか思いつかなかった。


「戦うつもりはないです! 俺はこのゲームをクリアしたい。ただそれだけなんです!」


 賭けだ。相手は同じプレイヤー。ならばクリアという目的は一緒のはず。

 ていうか、この状況がおかしいのだ。話せばわかるはずだ。

 それに殺しまではしないだろう。それにこの人の強さは破格だ。最悪重傷を負ってもこの人を味方にできればお釣りが来る。


「あ?」

「まずは自己紹介ですね。僕は経済学部の天城白洲です。お姉さんは?」

「私様はなぁ、てめぇに落とし前をつけろっていってるんだよぉ!」

「落とし前ってどうつけるんですか?」

「それはてめぇで考えろ! 私様が知ったこっちゃあねぇな」

 

 えぇ……。ていうか裸を見せた落とし前ってなんだ? 

 わからん。俺も裸になればいいのか。まぁそんなことをしても、俺の大切な部分が金属バットの餌食になる未来しか見えないが。


お姉さんが釘バットを振るう。バットから外れた釘が巨大化し飛来する。おいおい、近

接武器じゃないのかよ。肝を冷やす。しかし俺には当たらない。

 やっば。顔の真横を通り抜けたぞ。ちょっとでも動いてたら死んでた。



「へぇ、いい度胸じゃねぇか。どこまで続くか試してやらぁ!」


 内心はもうボロボロ。

 けど体の震えを抑え、不敵に笑みを浮かべる。ちなみに背中は冷や汗で服はぐっしょり

濡れていた。

 お姉さんが釘バットを振り上げて俺との距離を詰める。

 やっぱりこんな賭けはしなければよかったか? 死ぬのは嫌だ。

 頭には逃避するための言い訳が数多浮かぶ。それを無理やり抑え込み、目を瞑った。

 俺の選択は間違っていない。相手が対話を選ぶまで根気強く待て。

 怖いから逃げていては皆を救うことなどできない!

 

 待てども釘バットで殴られない。

 不審に思っていると胸を押された。床へと仰向けに倒れる。


「え?」


 目を開けるとお姉さんは俺の胸を足で押さえつけ、釘バットを突き付けていた。

 あとまたパンツが見えているんだけれどそこはいいのだろうか?

 ちなみにアダルティな黒だ。


「女どもに守られてばかりの軟弱野郎かと思ったがなかなか根性があるじゃねぇか。そのクソ度胸に免じて話を聞いてやる。私様は千だ。頭に焼き付けろ、釜揚げシラス!」


 殺されずに済んだ。ほっと息をつく。けれど安心はできない。ここからが肝心だ。

 

「釜揚げはされてません。あのパンツも見えてるんで足どけてくれませんかね? 千さん」

「はっ。パンツなんざぁどうでもいい。減るもんじゃねぇしよ」


 ようやく足をどけてくれたから立ち上がれる。


「本当にすいません。覗くつもりはなかったんです」

「だから、どうでもいいんだって、そんなことは」

「え? けどあれだけ激怒してたじゃないですか」


 着替え中覗いて過剰な暴力に合う主人公たちは数多く見てきたが、釘バットとアサルトライフルで命を狙われるのはあまり見たことがない。


「私様がキレたのはなぁ、何の断りもなく! 勝手に! 無断で! 土足で! 私様のテリトリーに踏み込んだからだっ」


 えぇ、それはヤクザ的なあれだろうか?

 俺たちのシマで勝手に商売するな的な感じ?

 色気もなにもありゃしない。俺の罪悪感は一体どうすればいいのだろうか。


「いや、ここはもともとコンビニだし。経営している会社のものでは?」

「私様がバケモノ共を追い払った。だからここは私様のものだ!」


 千は得意げに胸を張る。

 なんという暴論だろうか。あまりの理論にもう何も言えない。

 

『主様、だめだ。その者にはどんな正論も通じなかろう。それより、そろそろ拾ってくださらぬか?』


 極限状態で忘れていた。

 スマホを拾う。


「なんだぁ、文句あんのかよ? こそこそ不意打ち狙ってた卑怯者のくせによぉ!」

『卑怯とは心外な。奇襲は戦の常。気づかぬ者の罪よ』

「くっそうぜぇ。まぁ、私様は気づいていたがな!」


 そうか。イマンはもしもの時のために備えてくれていたのか。

 あの切り札を使えば、最悪の状況は脱することはできたわけだし。


「あの、ところで千さんもプレイヤーですよね? イベントボスを倒しに行かないんですか?」


 この二人は相性が悪いようだ。このままでは第二ラウンドが始まってしまいそうだから話に割り込ませてもらう。


「くっそショボい報酬だからやる気が起きねぇんだよ。それにおそらく私様一人ではイベントボスは倒せねぇし、この先のピロティも進めねぇだろうな。ていうかなんも知らねぇんだな」

「俺はこのゲームに関しては初心者だし、イマンは運営から何も知らされてないらしくて」


 本当にクソ運営だ。

 戦争をしているというのなら必要最低限の情報くらいプレイヤーに渡してくれてもいいものだろうに。

 チュートリアルのない超ハードモードのゲームを説明書もない状態で強要されているようなものだ。

 

「お前、知らされてねぇの? そこのつまんねぇ引きこもり女もか?」

『……知らされておらぬ。というより、お主はクリア報酬が不服だからこの大学の者たちを見捨てたと、そういうことか?』

「そうだよ。私様が面白けりゃあ、なんでもいい。逆に面白くなけりゃあ、指一本動かすつもりはねぇよ。それに赤の他人のためにどうして私様が動かないといけねぇんだ?」


 その理論はわからなくもない。

 どのような形であれ、命を懸けた戦いだ。それを強いることは他人にはできない。だから千を責めることはできない。


『貴様ぁ! 強者が弱者を守るは義務である。目の前で大切な物をなくしてしまう者の気持ちが、力がないから守れぬ者の気持ちがわからぬのか!』


 目の前で政治は踏みつぶされ、ミヤは俺を逃がして死んだ。

 あの時誰かが助けてくれれば、と何度思った事か。だからイマンの言っていることもわかる。


「イマン、ここでそんな話をしても仕方ない。どっちが正しいかなんて議論、今は無駄だ」

『主様!?』


 今大切なのはこの人をどうしたら味方につけられるか、だ。


「そこの女よりは話が通じそうだな、釜揚げ」

「釜揚げじゃないって言ってるでしょうに。今はどうでもいいや。どうしたらクリアに協力してくれるんですか?」

「言ったろ。面白けりゃあいいって。その点、さっきのてめぇのクソ度胸は少しだけ面白かったから情報はくれてやる。ついてこい」


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