ファミパン
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今俺は非常に重要な場所に来ていた。この場所はある意味難関であるピロティよりも重要で避けては通れない。
ここに来なければ皆を生き返らせることはできないだろう。
そしてイマンと俺は危険な状況に陥っていた。
このまま俺が好き勝手にやると、下手をするとイマンに見捨てられてしまう。そういう危険性だ。
だが、やめられないし、止まらない。
『あぁ! よせ、主様。己の行動はすべて己に返る。そのような悪逆非道は人の道ではあらぬぞ!』
ガサガサ。べりべり。
ずちゅる、じゅるり、ずぞぞぞぞぞ。
薄暗い室内で音が響く。
「やめない、絶対にやめてやるものか。例え神様だろうと俺を止めることは不可能だっ」
ごきゅる、ごきゅる、ごきゅる。もうなくなってしまったな。
お、これもいいな。
『ああ、それは! なんてことを、なんてことをしたのだ。それは某の大切な物! 今ま
までの人生で出会ったことのない一品、そして二度とは手にできぬであろう物なのに!」
俺とイマンの仲が致命的に壊れかけている。
確かに俺はイマンが何者で、どうして助けてくれているのかさえ知らない。
だが、その言動からイマンが悪いヤツではないのはわかる。そして俺を窮地から助けて
くれ、生きる希望を与えてくれた恩人だ。
今はそれで十分だ。
そんなイマンとの関係が壊れるのは悲しい。けど、仕方ないんだ。俺はもう止まれない。そんな一線は、とうに過ぎてしまったんだ。
くちゃくちゃくちゃ、バリバリ。
よし、これは終わったな。
次は……これだ!
『そ、それは! 主様は悪人だ、いやそれすらも生ぬるい、鬼! 悪魔!』
イマンが血の涙を流しているかのような形相だ。
ああ、終わった。これで完全にイマンとの関係は終わった。見捨てられても仕方のない
所業をしてしまった。
だが俺は満足した。後悔はしていない。
「ふぅ」
『これで終わりなのだな?』
「ああ、終わりだ」
イマンが涙目を浮かべて安堵の表情を浮かべる。
そう終わりだ、次で。
「このとある国の皇太子も絶賛したというファミリーパンチ限定ダイヤモンドロイヤルフルーツケーキを食べ終わったらな」
『ああああああああああああ! 某の最後の希望がぁ』
イマンが口を押えながら、絶叫する。かろうじて、外のバケモノをおびき寄せないよう
に声を抑えるだけの理性はあるようだ。
そんなイマンの様子を満足げに眺めた後、俺はケーキを食べ終える。
これで戦う前の腹ごしらえは終わった。
もう俺はこのコンビニには用はない。
「満腹満腹。これはしばらく休むか」
恨めしそうに俺を睨みつけるイマンを余所に、コンビニのイートインコーナーで寛いで
いた。電気がついていない薄暗い店内は結構不気味だ。
昨日は鍛錬に力を注ぎすぎて、何も食べていないことに気付かなかった。けど、今朝起
きると強烈な空腹感が俺を襲った。
あ、これあかん奴だな、と。
そしてちょうどピロティに向かう途中にコンビニがあることを思い出し、寄ったのだ。
『うぅ。某も食べたいぞ!』
「安心していいよ。イマンの分も残してある」
おにぎりをスマホの写真機能で撮る。
すると、画面の中のイマンへとおにぎりが送られた。代わりにこっちにあったはずのお
にぎりは消えた。
『おぉ! これがおにぎりというヤツか。この柔らかい粒がなんとも甘くて美ーーんん! しゅ、しゅっぱい!』
梅おにぎりを涙目になりながら食べるイマンを眺める。
どういう理屈かはわからないが、こっちの食べ物をスマホの中にいるイマンに送ること
ができるのだ。
「なぁ、イマン。聞きたいことがあるんだけどいいか?」
『献上される品によっては考えなくもないのだ。甘いものを所望する』
イマンは、ワクワクと顔を期待で綻ばせる。
ピロン♪
シャッター音を鳴らす。
『これは何なのだ?』
「メロンパン」
『おぉ! 外はさくさく、中はもふもふ! 美味!』
なんだか餌付けしているみたいで、楽しくなってきた。
ファミパンの商品棚に残っていた食べ物はあらかた集めてある。商品棚はほとんどの商
品がなくなっていた。
その数少ない商品を俺がなくなりそうな勢いで食べていたから激おこだったのだが。
「はい。ファミパン特製チョコレートケーキ」
『とても甘いっ。そして絶妙なほろ苦さが両立している。未知との出会いっ。びぃぃみぃ
ぃ!』
恍惚の表情だ。スクショチャンスだ。撮っておこう。あとで、堅物のイマンに見せた時
の反応が楽しみだ。
「はい。ファミパンのマスコットキャラクター、ファミパンおじさんの姿焼きだ」
『う、ぬ? 何なのだこれは?』
ファミパンの商品開発部が血迷って作った力作。
まだ発売して間もないがすぐに発売停止するであろう一品。
だっていい感じに焼けたおっさんを商品にするなんていろんな意味でアウトだろう。
しかも顔と突き出した拳には血がついている。開発部はケチャップと言い張っているが
デザインした人間は絶対血のつもりだろう。
「いいから、食べて。おいしいから」
食べたことがないから知らないけど。
『……美味!』
「マジかよ」
『なぜ驚いておるのだ? 主様、まさか某に毒味をさせたのではなかろうな?』
「な、なんのことかなぁ? 全然ワカラナイ。それよりおいしかったのならよかったじゃないカ」
おいしいのなら発売停止になる前に今度買おう。
イマンの疑いの視線をしのぐために逃避していたがそろそろいい具合だろう。
食べた腹の具合も落ち着いたし、体力も戻った。
なら、進まなければならない。
「十分休んだし、そろそろ出発するか」
『誤魔化すでない! やはり主様は意地悪だ』
拗ねているイマンはかわいいから仕方ない。だからいじめてしまうのは俺が悪いのではなくイマンがかわいいのが悪い。
「なんのことかな〜?」
責任逃れの言い訳を考えながら立ち上がった時、ドンという大きな音がした。
バケモノかと思ったが違う。外からの音ではなく販売カウンターの奥。
スタッフルームの方から聞こえてきたのだ。
『警戒せよ、主様!』
「しまったな、店内はしっかり確認したけど奥のスタッフルームは忘れてた」
コンビニで働いたことなどないから失念していた。
音はそれっきり鳴らない。
『触らぬ神に祟りなし。無駄な戦は避けるべし』
イマンの言うとおりだ。悪戯に体力と魔力を消費するのは得策じゃない。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ。ぐぅぅぅぅ」
獣の唸り声のようなものが聞こえる。
「なぁ、魔力反応はないんだよな?」
『うむ。だが、偽装する手段などいくらでもあるのだ』
「けど、もし中にまだ生き残りがいるなら助けたい」
理性を失ったバケモノがそんな偽装をするだろうか。
魔力がないということは人の可能性もある。生き残っているのなら安全な場所に連れて行かないと。
『わかっておるのか? 危険を冒すということは、主様が背負っている人の命すべてを危険にさらすということなのだぞ』
「それでも怖がっている人を見捨てるなんてできない」
別に俺はお人よしでも正義の味方でもない。
けど俺は身をもって知っている。
恐怖や痛み、この理不尽な状況がどんなにつらいことなのか。だから助けられるなら助けたい。
『はぁ、仕方あるまい。某は主様を補佐するのみ』
「ありがとう」
牙を装備し、急な対応のために野犬の剛力、俊敏も付与。
準備万端。
スタッフルームの扉に近づく。
ドン!
ガサガサ。ガンガン。
シュルリ。
得体のしれない物音がする。不気味だが意を決して扉を開けた。
そこで見えたのは予想外の光景だった。