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ありえざる第六の属性

「よし、これで準備は整った。あと二日ですべてを片付けよう」

『うむ。さすが某の見込んだ主様だ。たった一日でここまで強くなるとは見事の一言に尽きる』


 あの衝撃的な事実を聞いて一日経った。

 今、目の前に広がるのはバケモノが一体もいなくなった広大な駐輪場だ。

 昨日逃れてきた時は、少なくとも二十体以上はバケモノがいた。

 しかし。

 バケモノは俺が強くなるための練習台としてすべて狩りつくした。


「結局、誰一人助けられなかったけどさ」


 俺が戦う覚悟をした時点で、駐輪場にいた人間はすべてバケモノにやられて魔力の粒子となって消えていた。

 

『なればこそ、必ず勝たねば』

 

 イマンの言葉に力強くうなずいた。


「もう一度確認するぞ。本当にタイムリミットは昨日を含めてあと三日なんだな?」

『間違いないのだ。浸食の速さは核となる魔物によってちがうが、今回の魔物の魔力量からすると確実に三日以上は掛かろう。それ以上は保証できぬ』


 俺は三日の内一日を力の把握と修練に費やした。

 そして、十分な休息を取った今の俺は万全の状態だ。


「わかった」

『目的と目標を再度確認せよ。目的はあの大聖堂に巣くうイベントボスを倒し、犠牲となった皆を生き返らせること』

「目標は難関であろうピロティを通過して大聖堂にたどり着くこと」

 

 武山ホールへは必ずこのピロティを通らないとたどり着けない。

 ピロティは四つの学部棟に囲まれた広大な休憩スペースだ。地面は人工芝で整えられ、普段は学生や講師などの憩いの場となっている。

 しかし、イマンが魔力を探知すると妙なことがわかった。


『ピロティには多くの人の気配があった。おそらく立てこもっているのであろう。だとすれば、おかしい。ピロティには強力な魔物の魔力反応が同時にあるのだ』

「やばい魔物がいる場所に普通は立てこもらない。だとすれば、何かがあるはずだ。厄介ごとの気配しかしないな」

『しかし、避けられまい。ならば押しとおるのみっ』

「ああ。ピロティを抜けたら武山ホールは目と鼻の先だ。イマン、俺は絶対に負けない。この戦争に勝ってすべてを取り戻して見せるっ」


 俺は大聖堂を見据えて宣言した。


『某も全力を尽くそう。この戦、必ずかちゅ!』


 かちゅ? 


「……え?」


 ごほん、とイマンは咳払いをした。


『某も全力を尽くそう。この戦、必ず勝つ!』

 

 なるほど。勝つ、か。ていうか今ので誤魔化せたと思っているのだろうか?


「言われるまでもない、かちゅ」

『うぅ。また肝心なところでぇ……』


 最初パンツ丸見えだったことと言い、抜けてるところがあるな。ないだろうけど、本当に肝心な所でやられては困る。

 ちょっと釘をさす意味も含めて意地悪するか。


「かちゅ」

『ぬっ。もう良いではないか。これ以上某を辱めるというのか?』

「何か勘違いしていないか? この世界では勝つことをかちゅとも言うんだ。もしかして噛んだのか?」

『噛んでない。断じて噛んでないぞ! うむ。知っておったぞ。二人で必ずかちゅのだ』


 うわ、なにこれ面白い。信じてしまったぞ。かちゅかちゅ言ってる。かわいい。楽しそうだからこのままにしとこ。


『主様、今笑ったか?』

「俺笑ってたか?」


 やばい、ばれたか?


『うむ。肩の力が抜けたな。あまり緊張しすぎておったら勝てるものも勝てなくなるからな』


 昨日も命がけで力を磨いたが、今日からが本番。

 背負っているのは自分の命だけではない。この大学で殺された人、すべての命もだ。

 それは予想以上に俺を追い詰めていたらしい。

 けど、イマンのおかげで少し楽になった。


「ありがとう」

『良い笑顔だ』

「行こうか、イマン」


 うなずいたイマンを見届け歩を進める。

 すべてを取り戻すために。



******



 階段を駆け上がる。

 見据える先には昨日散々戦った全身が赤く染まったゴリラ型のバケモノだ。

 俺は昨日イマンから教わったことを思い出す。

 通称バケモノ。正式名称はリビングデッド種タイプゴリラ。リビングデッド種は理性がない。本能や欲望のまま行動する。

 要は相手が何をしようとすればいいかわかれば戦闘は圧倒的有利になる。

 そして、タイプゴリラは力を誇示することが多い。

 

「だから必然的に攻撃方法は限られてくる」


 すでに装備していた野犬の牙を構えながら接近。

 タイプゴリラの長い腕が俺を捕まえようと襲う。しかし、それはわかっていた。力を誇示するにはその太い腕を振るうだろう。

 

「速さを俺に!」

『野生の俊敏』


 俺は瞬間的に加速した。突然の加速にゴリラは対応できない。腕は空を切った。

 その隙に背後に回り、牙を振り上げる。

 イマンに指示を出そうとしたが、いらなかった。


『野生の剛力』


 イマンは俺に必要な物を必要なタイミングで出してくれた。

 身の丈ほどもある巨大な牙を力一杯に叩きつける。タイプゴリラは魔力の霧となって消え失せた。


「ありがとう、イマン。昨日の夜引いたガチャは当たりだったな」


 今使ったアイテムはイマンと最初に出会った夜にした十連ガチャで当てたものだ。イマンはアイテム管理やサポートをしてくれる。

 昨日はひたすらアイテムの能力確認とイマンとの連携を練習していた。

 その成果はいかんなく発揮できているようだ。


『されど、今使ったアイテムはすべて低レアリティのレアなのだ』

「俺はこれくらいでいいな」


 下から二番目のレアリティだ。

 正直、これ以上の力は怖い。怖いけどワクワクする。矛盾した感情だ。

 

「一応聞くけど、イマンのレアリティは何?」

『某は当然最高レアリティのURウルトラレアである!』


 誇らしげに胸を張る。


「ですよねー」


 きっと今俺の目は死んでる。あの地獄のようなリセマラを思い出したからだ。もう一点狙いのリセマラはしない、絶対!


『主様、多数の魔力反応である。これはタイプウルフ!』

 

階段を駆け上がった先、見えた光景は絶望的だった。昨日までの俺ならば。

 各学部棟に行くためにいくつもの枝分かれした道がある広場。

 もちろんバケモノはセットだ。

 タイプウルフ。その群れだ。六体いる。本能だけのくせに連携してくる厄介な奴らだ。


「属性は二種類か」


 赤が三体、青が二体。


『属性相性は頭に入っているであろうな?』

「大丈夫」


 属性は四つ。火、水、土、風だ。それぞれに弱点と有利属性がある。ゲームでお馴染みのやつだ。

 バケモノの体の色は自らの属性を体現している。赤は火。水は青といった具合にだ。それぞれの弱点を突けば戦いをかり有利に進めることができる、だったはずだ。


「GRUUUUU」


 タイプウルフはまだ俺を襲ってこない。よだれを垂らしながら、唸ってこちらを威嚇するのみだ。


「あいつらの行動原理は飢餓と縄張り意識」


 つまり、縄張りに入って来た外敵は餌と認識される。それが例え同じバケモノであっても、だ。そしてどこまでも追いかけてくる。

 その性質上、戦いを避けることは不可能だ。

 だが、逆にその性質を利用すれば相手が複数でも戦える。


『主様、奴らはーー』


 イマンの言葉を待たずに駆け出す。

 広場に一歩足を踏み入れた瞬間、奴らは一斉に俺へと向かってきた。

 俺は餌だ。理性などない、貪欲な瞳が俺を捕らえた。


「速さを俺に!」

『野生の俊敏』


 奴らが俺を追ってきているのを確認してから引き返す。

 さっきの登って来た階段は一本道だ。

 ただ道幅は広いから一対一は成立しない。ならばどうするか。


「イマン、奴らをまとめてぶった斬る! 水を!」

『属性付与・水式』


 俺の持つ野犬の牙が青色の光を放つ。

 俊敏の力を得た俺はすでに階段の一番下まで来ていた。奴らはまだ中腹にいる。

 

「くらえ!」


 牙を振るう。牙身から放たれるは巨大な水の刃。一直線に向かってくるタイプウルフたちに避ける術はない。

 小さな悲鳴を上げて、赤の三体は沈黙。だが、青の二体は健在だ。


『属性付与・土式』


 今度は牙身から茶色の光が放たれる。

 その間にも二体のタイプウルフたちは迫ってきている。

 だが、まだだ。まだ足りない。

 理性のない獣たちは一切の工夫もなく一直線でこちらを目指す。

 そして、二体同時に飛び上がった。口から覗かせるのは獰猛な牙。血のついた真っ赤な凶器。捕らえられたらどうなるかは自明の理だ。

 その恐怖を振り払い、大地に牙を突き立てる。


「串刺しになれぇ!」


 地面から土の棘が放たれ、二体の獣を貫いた。

 悲鳴も許さないまま、二体は魔力の霧となって消え失せる。


「はぁぁ」


 それを見届けて俺は床に座り込んだ。

 命のやり取りはそれだけでかなり消耗してしまう。慣れない俺では尚更だ。

 だが、イマンは休憩することを許さない。


『立ち上がれ! 戦場で立ち止まるは、即ち死であるぞ!』


 その通りだ。今は甘えているわけにはいかない。

 皆を助けると決意したのは、こんな疲労感程度に負ける程軟な物ではない。

 歯を食いしばって立ち上がり、再度階段を駆け上がった。

 

「まだ生き残りがいたのか!」


 居たのは一頭のタイプウルフ。背筋が凍った。相手は一匹。どういうわけかすでに満身創痍だ。だが、その視線が恐ろしい。

 憎悪だ。仲間を殺された恨み。理性がないと聞いた。

 しかし、それは感情がないということではなかった。初めて向けられるその視線に、気づいたら俺は牙をもって走り出していた。


『主様! 迂闊な行いはやめよっ。そやつは何かがおかしい!』


 そんなことはわかってる。おかしいから、怖いのだ。怖いは排除しないと。


「g@ao、ngoka@oーー!」


 意味不明は鳴き声、その直後に咆哮が響く。咆哮は目の前からじゃない。背後からだ。足を止めて、背後からの攻撃に備える。


『主様、後方から魔力反応! 数は六つ。先ほど主様が倒したバケモノたちなのだ』


 復活したのか、と思ったが違った。

 それは赤と青の光の玉だ。イマンみたいな魔力感知はできないがわかる。俺が倒したタイプウルフたちの残滓だ。

 少しだけその輝きの美しさに、俺は目を奪われた。

 その光が、目の前のタイプウルフに収束していく。


『呆けるなっ。動け! 共鳴反応で敵が強くなる前に叩くのだ!』

「共鳴反応?」

『同じ感情を持ったものの魔力を吸収することによって強くなる現象のことである。今はそれより、強くなる前に仕留めよ!』

「わ、わかった」


 野生の俊敏、剛力の同時発動。加えて奴の弱点属性である水を付与する。

 今までは魔力の節約で同時に、しかも継続的な発動はしなかった。これだけでイマンの焦りが伝わってくる。

 一瞬で距離を詰め、牙を突き立てる。

 手ごたえありだ!


「え?」


 牙は確かにタイプウルフを貫いた。しかし死なない、今までのように消えない。

 どんどん膨張している……!


「Oooooooohnーー!」


 突き刺さった牙ごと俺は吹き飛ばされてしまう。


「くっそ痛い」

『仕留めきれぬか。レベルアップしてしまっては致し方あるまい。主様、逃げるのだ』


 吹き飛んで転がった痛みに耐えつつ立ち上がる。

 たしか、タイプウルフは縄張り意識が強いから一度入ってしまったなら永遠と追いかけてくる。だから倒してしまわないといけなかったはずだ。

 なのに逃げろとはどういうことだろうか。


「なっ」


 その答えは目の前にあった。

 タイプウルフはだいたい大の大人が四つん這いになったくらいの大きさだ。

 しかし、目の前にいたのはもっと巨大で歪だった。

 大型トラック程の巨体に、首と尻尾は六つ。六つの顔は例外なくその憎悪を俺に向けていた。


『共鳴体、ウルヴェンデット。しかも共鳴反応の魔力香につられてきたか。厄介な』


 いつのまにか周囲には多種多様のリビングデッド種がいた。

 ゴリラ、サル、ライオン、トラ。ざっと見ただけでもそれだけ確認できる。


「どうやって逃げればいいんだ?」

『あやつらの狙いは主様ではなく、共鳴を起こしたタイプウルフ。見ておればわかる』


 集まって来たリビングデッド種たちがまるで示し合わせたかのように一斉に巨大に変異したバケモノに襲い掛かった。

 襲い掛かるすべてをバケモノは蹂躙する。

 肉を裂き、喰らいつくす。いともたやすく行われる残虐な光景。

 他のリビングデッド種を全く寄せ付けない。大学の人間を容易く喰らったあいつらがまるで有象無象の雑魚の様だ。

 ウルヴェンデットはあまりにも圧倒的だった。


「理性がない、バケモノ」


 恐怖と吐き気に呆然としていると、バケモノの血走った目が俺を捕らえた。

 巨大な前足が襲い掛かる。

 吹き飛ばされて十分距離はあったが、その巨体では間合いの内らしい。

 後ろに飛んで回避に成功。その巨碗はガードレールを易々と破壊していた。きっと受けていたらやばかった。


『何をしておる! 今のでこやつはレベル二十になってしもうた。主様より十二も上。退くのだ!』


 レベルは戦いにおいて彼我の戦力差を確かめるうえで重要な指針だ。五レベル上なら強敵。十レベル上なら勝率は極わずか。

 倍なら勝つのは不可能。

 今の俺は八レベル。相手は二十。絶望的だ。


 だが、不思議と俺は勝てると確信していた。


 目の前のバケモノは確かに怖い。初めはその歪さと強大さに気圧された。だけど、冷静になればどうということはない。

 バケモノの憎悪は怖い。けどそれだけだ。何も知らない他人、ましてや見知らぬバケモノに憎悪を向けられたところで痛くもかゆくもない。

 それに強さだけなら、最初にリビングデッド種を見た時に十分実感していた。

 つまりこのバケモノは図体がでかくなっただけ。

 だから俺はこいつに勝てる。


「イマン、やらせてくれ」

『しかし!』

「向こうは逃がしてくれそうにないけど?」


 次は突進だ。バケモノが一歩踏み出すごとに地震と錯覚しそうな揺れが地面に伝わる。

 だが、その巨体が仇になった。

 バケモノの下を通り抜けることは容易い。ましてや、相手は頭に血が上っている。

 

『主様は自分より強大な敵が怖くないのか?』


 イマンは信じられないといった視線を俺に向けた。

 何を不思議がっているのか俺にはわからない。たしかにあの巨体は驚いた。けどそれだけだ。タイプウルフが大きくなって少し頭が増えただけ。

 そして、あの程度の憎悪。

 レベルの話は正直実感がない。だってあの程度のヤツ倒せない方がおかしい。


「さっさと終わらせよう」

 

 バケモノは再び攻撃の体制に入っている。俊敏のおかげで十分に距離は取れた。相手の出方を伺う。

 次は七つの尻尾を使った攻撃のようだ。

 どんな仕組みか、七本の尻尾が伸びて俺に襲い掛かる。

 それぞれ意思があるかのように多方向から同時に、だ。これは避けられない。

 だったら。


「吹き飛ばす!」

『属性付与・風式』


 緑の光を内包した牙で一振り。

 暴虐な風が俺の周囲で荒れ狂う。巨大な刃の竜巻。そんな中に飛び込んだ七つの尾は切り裂かれ吹き飛ばされる。

 

「GRUAAAAAAAAA」


 尻尾を割かれた痛みで泣き叫ぶ。


『攻撃が通った……? それにこの威力。知らない。何、これは?』

 

 機は逃さない。バケモノへと突き進む。


「イマン、力を!」

『! 野生の剛ーー『ア※%』


 この瞬間世界が変わった。何かに体を犯されている感覚。

 恐怖は歓喜に、憎悪は好意に。痛みは快楽に。

 負の感情が俺に力を与えてくれる。


 ああ、なんて心地のいいものだ。チカラがアフレル。


 牙に黒い力の奔流が纏わりつく。

 バケモノは憎悪のままに前足を乱雑に振るう。

 ほら、もう足元までたどり着いた。理性を失う程度の憎悪から繰り出される攻撃などにあたるものか。


「シね」


 黒の斬撃がきれいに六本の首を胴体から切り離した。

 一本残したのはわざとだ。

 こんなに早く終わってしまうなんて許さない。


「KYAN、KYAN」


 痛みで憎悪が和らいだのだろう。バケモノは俺を恐れている。

 やっぱりその程度か。

 ミセロよ。感情を、憎悪を。それが俺の力となり糧となる。

 バケモノは無様に地を這いずって逃げる。もっと俺に負の感情を吐き捨てろ。まだ足りない。だったら痛みを与えよう。

 後ろ脚を一本斬った。

 血があふれ出して哀れな鳴き声を囀る。

 そのしぶとさだけは評価しよう。


『ーーて。ーーて』

 

 何か雑音が聞こえる。気持ち悪い声だ。

 おっとそんなことはどうでもいい。せっかくの獲物を逃してしまう。

 俺が牙を振り上げた時だった。


『衝撃』


 突然足元に衝撃。また吹き飛ばされた。

 ゴロゴロと転がってガードレールに頭を打ち付ける。


「いってー! 痛い痛い!」


 予期せぬ痛みに俺は地面をのたうち回った。


『バカ! もうあのバケモノを痛めつける必要なんてないっ。正気に戻るのだ!』


 イマンが泣いてる。

 イマン? ああ、そうだ。忘れていた。


「どうして泣いてるの?」

『な、泣いてなどおらぬわ!』


 赤く目を腫らしている。どう見ても泣いてるじゃないか。


「あれ? 俺どうしたんだっけ。ていうかあのバケモノは?」


 バケモノはちょうど魔力の粒子となって消えていた。

 あれだけの強さを誇ったバケモノがいとも容易く。それを俺がやった……?

 その事実に寒気がした。

 

『正気にもどったか?』

「なんで俺はあんなことをしたんだ?」


 イマンと最初に出会った夜と同じだ。

 チカラに酔っていた。そして得体のしれない何かに支配された恐ろしい感覚。


『わからぬ。しかし、使っていた力はどの属性にもあてはまらぬ。あれはありえざる第五いや第六の属性』

「光とか闇とかないの? あと無属性とか」

『存在せぬ。アドミニストピアにおいて魔法の属性は四つのみだ。例外はいくつかあるが、それらは人には使えぬし。あのような力ではない』


 火・水・風・土。世界を構成する四つの属性。例外はあるが、今俺が使ったのはそのどれにもあてはまらない。

 だったら今の力はなんだっていうんだ?

 神様からもらったチートとか……?

 それはないな。明らかに厄い。 


『うむ。なればこそ、わからぬ。まさか……。いやあり得ぬな。某もあんな力は見たことがない。主様、体に不調は?』

「ない、と思う」


 それが逆に不気味だった。

 この手の話は代償が付き物だ。よく悪魔と契約するなんて創作物ではあるけど、あれだって代償がある。

 

『主様、あの力を使うのは禁じよう』

「けど、俺が使ったわけじゃない。よく聞き取れなかったけど、イマンが発動させたんじゃないのか?」

『某は何もしておらぬ。勝手に発動したのだ』

「じゃあ、どうやって発動を防いだらいい?」

『それは容易い。おそらくこれが力の源。これを削除せよ。アイテムを削除する権限は主様にしかないのでな』


『レアリティ:※@* 名称:ア※% 詳細:不明 代償:自?の%@、存*』


 少しためらった。この力は皆を助けるために必要なのではないか、と。

 しかし、さっきの自分自身は恐ろしかった。

 憎いバケモノとはいえ、殺すことに愉悦を感じていた。あれが敵だけに向けられるならまだしも、もしかしたら人間に向けてしまうかもしれない。

 実際に俺は初めてこれを使った夜に、建物ごと人を殺していた。

 もうそんなことはあってはならないし、絶対に防がないといけない。

 だから、俺は迷いつつもアプリからこの魔法を削除した。


「これで安心だな」

『うむ。前回使った時は気を失っておった。本当に体に違和感はないか? どんな小さなものでもよい』


 言われてもないものはない。

 その時、ぐーと腹の音が鳴った。

 イマンがきょとんと不思議そうな顔をする。対する俺は顔を真っ赤にした。

 なんだかすごくシリアスな展開だったのに突然俺の腹の音がこの空気を壊してしまったようですごく恥ずかしい。


「腹が減ったな」


 控えめに小さな声で言うと、イマンはくすりと笑った。


『ふふ、主様は臆病者なのか大胆なのか。とんだ変わり者を主に持ってしまったものだ』

「ご愁傷様。とにかく腹ごしらえは大切だ。どこか探そう」

『うむ。さっきのバケモノが周囲のリビングデッド種を一掃してくれたから周囲は安全であろう』


 イマンが笑った。

 やはりイマンを泣かせてしまうような危険な力は消して正解だったな。

 そう心から安堵した。






ーータリナイ


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