表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/24

決着

「戻って来れた」


 視界が開ける。ここは大聖堂か。それに偽物たちが見当たらないし、鏡もなくなっている。俺は勝てたのか。

ていうか痛い! 感覚が戻って来た。

 そうだ、衝撃の無理な仕様で足が折れていたんだ。いや、それよりも千さんだ。千さんは腹を撃たれて血がいっぱい出てた。

 偽玉川から回復できるアイテムをもらってたんだ。

 早く、助けに行かないと!


「やぁ、白州君。やり遂げたんだね」

「千さん! お腹の傷、治さないと!」

「今はとりあえず大丈夫さ。傷は魔力で塞げたしね」


 見ると、服は血だらけだが、確かに血は止まっているようだ。

 とりあえず命に別状はないようでほっと一息をつく。


「治療は専門外だから、君の足を完全には直してあげられないけれど」


 千さんが、俺の足に手をかざす。

 すると。あたたかな光が俺の足を包み込む。光が消えると俺の足は元通りになっており、痛みも消えていた。


「すごい」

「歩くだけならできるはずだが、無理は禁物だ。あくまで応急処置。この後ちゃんと病院で診てもらうように」

「ありがとうございます!」


 ゆっくりと立ち上がり、足の調子を確認する。これならなんとかなりそうだ。


「それより、チュートリアルイベントクリアおめでとう。無事、核結晶を手に入れられたようだね」

「核結晶?」

「右手に握ってるものだよ」


 見ると、透き通った結晶のような物を持っていた。


「これは?」

『アドミニストピアが吸い取ったアースの魔力。その塊なのだ』


 突然、話しかけられてびっくりした。

 スマホから響くこの声には心当たりがある!


「イマン、無事だったのか!」

『うむ、あの泥棒猫の偽物ごとき某にかかれば瞬殺なのだ!』

「それは聞き捨てならないね。それに、君。色々と醜態晒してたよね。それになぜか偽物の僕相手にラッキースケベをしたりされたり。具体的に言えばーー」

『言うなー!』


 よかった。無事で本当によかった。

 鏡の試練中もずっと気がかりだったんだ。

 二人の掛け合いを聞いて、ようやくこのイベントをクリアしたのだと実感できた。


「結局、アースの魔力はどうすればいいんだ?」

『何を言っておる。主様。吸い取られたアースの魔力の中には、このイベントで死んだ人間たちの物も含まれておる。要するに、その結晶をアースに返却することで皆を生き返らせることができるのだ!』


 これが、皆の命。そうか、これでみんなを生き返らせることができるのか!


「どうやって使うんだ?」

『結晶を割るのだ。そうすれば自然に世界に魔力が返却されるのだ』

「それでみんなが生き返るんだな?」

「うむ!」


 なら、早速砕かないと。

 手に力を入れようとした、その瞬間。


「チュートリアルクエスト、クリア。おめでとうございます!」


 玉川が拍手をしながら大聖堂の床をコツコツと音を立てながら歩いてきた。

 正直、こいつの存在を忘れていた。

 

「いやぁ、有能な奴隷を持てて私はうれしい! 目当ての物をちゃんと手に入れてくれたんですからね」


 そういえば、こいつの命令はある物を手に入れることだったな。

 けど、俺がこのイベントをクリアして手に入れたものなんて核結晶くらいなものだが。


「課長、さっきも聞きましたが、本当に取り込むつもりなんですか?」

「仕事以外では察しがいいのですね。その通り。天城君、その核結晶を私に寄こしなさい」

「は?」


 核結晶をよこす? 

 どういうことだ。核結晶は今から砕いて、皆を生き返らせるんだ。

 

「聞こえませんでしたか? 同じことを二度も言わせるなんて典型的な無能ですねぇ。その核結晶は私が使います。だから、渡せ」

「核結晶を取り込んだら、、課長自身どうなるかわかりませんよ?」

「どうなるって強くなるに決まってるじゃないか。これだけの魔力リソースだ。どれだけレベルアップするのか楽しみだなぁ」


 玉川の髭の生えた汚い口元が愉悦で歪む。


「そんなことさせるか!」

 

 恐らく奪い合いになればレベルが低く、戦いで消耗した俺では相手にならない。

 だったら、奪われる前に砕いてしまえばいい。


「狐の狡猾尾フォックステイル


 突如として俺の腕に狐の尾が現れる。

 尾は俺の手から核結晶をはたき落し、器用にキャッチすると玉川のもとへと運んで行ってしまう。


「しまった」


 いつあんなものを仕掛けられたんだ。いや、そんなことはどうでもいい。

 核結晶を取り戻さないと。

 咄嗟に走り出すが、足がもつれて倒れてしまう。

 奴のもとにたどり着くことさえできない。そして奴はそんな俺を見てにやにやと笑ってやがる!


「課長、それには多くの人の命が宿っているものです。それを使ってしまったらもう、戻れなくなりますよ!」

「あぁ? 僕ちゃんに口答えするっていうの? いい覚悟だなぁ、おい。明日から会社では生きていけないようにするぞ? いや、いっそ首にしてみるかぁ? 中卒のお前に行くところがあるかなぁ?」

「…………」


 躊躇している千さんの腹を玉川が蹴りつけた。

 千さんの苦悶の声。そして口からは少なくない量の血を吹き出す。

 さっき銃で風穴を開けられた場所を狡猾についてくる。

 ちくしょう。どうすることもできないのか?

 いや、託されたものがある。

 俺の力では勝てないが、千さんならあいつを倒すことができる。


「あぁ、きれいだな。これがぼくちんを強くしてくれる。やっとあの忌々しいクソブスをぶっ殺せるんだ!」


 高笑いしながら、核結晶に頬ずりをしている。

 玉川はまさに自身の勝ちを確信している。

 今が最大のチャンスだ。

 傷ついた足を庇いながら、千さんのもとへとたどり着き、スイーンの気まぐれを使用する。

 虹色の光が千さんを包むと、服についていた血の跡ごと傷もなくなる。


「痛みがなくなった。これは一体?」

「俺じゃあ、あいつから核結晶を取り戻せません……! お願いしますっ。俺の友達を、ミヤを生き返らせてください」


 自分の力では玉川を止められないことが、涙が溢れるくらいには悔しい。


「白州君……。わかった。僕もいい加減覚悟を決めよう。前に進むんだ。すべてを捨てでも」


 千さんは俺の手を取って応えてくれた。

 その笑顔はとてもやさしくて、儚かった。


「課長、核結晶を返してください」

「返すわけねぇだろうが。ばぁか! ぼくちゃまに逆らったら生きていけないってこと理解できないかなぁ? もういいや。目的の物は手に入れちゃったし、お前はクビにーー」


 玉川が話している最中、発砲音と共に右手が弾け飛び、核結晶も地面に放り出された。


「は?」


 止めどなく溢れる腕を見て、玉川は呆然としていた。

 現実に認識が追い付いたのだろう。苦悶の表情を浮かべ、痛がり始める。


「スッキリしたぁ」


 千さんのジーンズにセーターを着たラフな格好から一転。

 光に包まれ、最初に出会った時に着ていたセーラー服となる。

 そして、両手にはハンドガンと釘バットが握られていた。

 やっぱり千さんはこっちの方がしっくりとくる。それに千さんは童顔だからなおさら似合う。


「な、なななな何をしたかわかってるのかぁ! 貴様は私の上司だぞ! それを、それを……!」

「うっせぇんだよ、狐面のクズもやし!」

「き、狐……」


 コンプレックスだったのか、狐面と言われてショックを受けている。

 

「何をしたかわかってるのか、だぁ? 性格の悪い狐面をぶっ殺したら、スカッとするからに決まってんだろうが!」

「い、いいのか? 僕様に逆らったら明日から表の社会で生きていけないんだぞ!」


 そんな脅しを千さんは鼻で笑って一蹴する。


「今まで散々我慢してきたがよぉ、もううんざりだ! 生きていけないだぁ? 上等だ。こっちからやめてやんよ!」

「なっ」


 玉川は絶句して顔を青くした。


「収入がなくなるんだぞ。それは生きていけなくなるってことだ」

「てめぇに心配される謂れはねぇよ!」

「仕事は? 今、お前が突然辞めたら他の同僚に迷惑がかかるだろう!」


 今更、そんなことを言って千さんを動揺させようというのか。

 汚い。

 だけど、今の千さんはそれでは止まらない。


「知らねぇなぁ、そんなこと。今まで私様を見捨てて傍観してきた奴より、白洲の頼みの方が億倍大事なんだよ!」


 その言葉に思わず胸が温かくなる。

 

「そして、なによりてめぇをぶっ倒すのが楽しいからやるんだよぉ! さっきは思わずイっちまうかと思ったぜぇ」


 相変わらず無茶苦茶だ。玉川に逆らったのが、そんな理由とは。しかし、それはとても千さんらしい答えだ。


「待て、待て待て待て。会社での地位を上げてやる。もう恫喝なんてしない」

「興味ねぇな」

「だったら、核結晶を半分使わせてやる。最強の力を得られるんだ! 他のプレイヤーなんてもう敵じゃないっ。最高に面白いと思わないか?」


 それは千さんには逆効果だ。


「あんな劇物取り込んでたまるかっ。仮に最強になれたとしても戦う楽しみがなくなっちまうだろう」

「そうか。なら仕方ない。……そのまま息絶えろ! フォックステイル」


 また突然狐の尾が現れて、千さんの首に巻き付こうとする。

 しかし、それをあっさりと掴んで握りつぶす。


「なにっ」

「何をするつもりかと思えばくだらない。ちょっと面白そうかと期待した私様が馬鹿だった」


 千さんは心底、呆れていた。


「くそがぁ。現れろ、妖狐!」


 現れたのは巨大な五本の尻尾を持つ巨大な狐だった。

 間違いなく強大な力を秘めていると、魔力感知が苦手な俺でさえわかるほどだ。

 しかし、千さんはあくびをしながらゆっくりと前進する。

 獲物を逃さんとばかりに五本の尻尾が襲い掛かる。しかし、どの尻尾も掠りさえしない。

 完全に千さんに見切られている。


「基本がなってねぇな。少しは魔力感知を使え。魔力を隠して偽装しろ。そいつは力で攻めるタイプのキャラじゃねぇだろ」


 ワンパターンに襲い掛かる尻尾を掴み、引きちぎる。響き渡る妖狐の悲鳴。


「力だけのごり押しで戦ってきたからこうなるんだよ。まぁ、私様は力でも負けねぇがながな」


 力、技量、いずれも差がありすぎて玉川はもう何も言えない。

 千さんは、特に窮地に立たされることもなく玉川の目の前までたどり着いてしまった。


「よぉ、さっきはよくもやってくれたな」

「ひっ」


 千さんの拳が玉川の腹を抉る。

 血反吐をまき散らしながら、吹き飛ばされてステンドガラスに叩きつけられる。

 同時に玉川の頼みである妖狐も消えてしまう。

 

「無様だな。卑怯なだまし打ちと力押ししかできない上に、魔力感知の練度も低い。なぁ、雑魚過ぎねぇか?」


 玉川は屈辱と痛みで顔を真っ赤にしていた。


「なら卑怯な手で行かせてもらうとしよう。予備をつけておいて正解だったな」


 突然、俺の首に狐の尾が現れる。また同じ手か。けど防ごうにも魔力もない。俺は抵抗することもできず、玉川に首根っこを掴まれる。


「白州っ!」

『主様!』

「おっと動いたらこいつは殺すぞ。悪いがこいつには操り人形になってもらうとしよう」


 首に巻かれた狐の尾が俺の中に入ってくる。

 何も考えられない。頭に霞がかかったようだ。

 乗っ取ら、れ、る……。


『ハイってキタハイってキタ』

『おいしいオイシイ、ゴハンだヨ』


 頭の中で俺以外の何かたちが口ずさむ。


「なんだ、このガキの中は? これは、これは喰われるっ」

『ワレらがクモツのチカラとなるがイイ』

『※@スにオチロ』


 俺を掴んでいる玉川の左手が黒く浸食される。

 その黒は全身に広がろうとしていた。


「アプリ強制終了!」


 たまらず玉川は俺から手を放し、スマホを操作した。すると玉川の浸食は止まったが、左手は崩れ落ちてしまった。

 

「何だ、なんなんだよお前ぇ!」

「俺、は。一体何を?」


 自分の中に潜む得体のしれない者たち。

 わからない。俺は一体何に魅入られてしまったというのか。

 

「良いざまだなぁ。おい。なんだかわからねぇがこれでてめぇはお終いだ!」


 千さんが俺の前に立ちはだかって、釘バットを玉川に突き付ける。

 そうだ。今は核結晶を取り戻さなければ。俺は何とか地面に放り出された核結晶の元まで匍匐前進を試みる。


「なぜだ、なぜ言いなりにならない。会社を首になったら金がなくなって生きていけなくなる。それが怖くないのか?」

「もう会社なんざ、どうでもいい。私様の行く道は私様が決める! クズもやしが勝手に指図すんじゃねぇよ!」

 

 止めを刺そうと千さんが玉川に向かって歩み寄る。


「そうだ。スイーンの気まぐれ! あれがあれば回復できる!」


 玉川が懐を探すが、見つからないようだ。

 なるほど。俺が受け取ったのは偽玉川が本物から奪ったものだったのか。


「スイーンの気まぐれってこれのことか?」


 今は力を失って、輝きを失った宝玉を見せる。


「なぜ、それを! 返せ!」

「もう千さんに使ったから無理」


 玉川の顔が絶望で彩られる。

 今度こそ奴は終わった。

 千さんが玉川のもとへとたどり着く。


「いやだ。死にたくない、死にたくない!」


 無様に這いつくばりながら、逃げようとする。しかし、逃げた先は壁しかない。玉川は壁にへばりついて怯えることしかできない。

 千さんが銃の照準を玉川の頭に向ける。


「死ね」

「い、いやだぁぁぁぁぁ!」


 今まで散々、千さんを追い詰めてきたんだ。同情の余地はない。それに生きて返したら、千さんは会社にいられなくなる。

 正直、千さんに手を汚してほしくはないがそういう決断をしたのなら俺に止める権利はない。

 乾いた発砲音が一発。

 こうして俺の初めての戦いは幕を下ろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ