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白の聖騎士、協力者にイイ感じのセリフを言う

『シンゴが黒の聖剣の本継承をするために王宮に入る』


 それがレオナルドがマリーに説明した『聖都に来た理由』だった。


 これに対してマリーは常識的に考えて(割に合わない)と思った。いくらなんでも聖剣の本継承するためだけに敵地のど真ん中に少数で乗り込むなど正気の沙汰じゃない。


 「聖剣は本継承してこその聖剣だからな。そのために王宮に入りたいのだ」


 レオナルドのその言葉にマリーは納得したわけではなかったが、それ以上レオナルドが話そうとしなかったのでそれ以上聞こうとはしなかった。


 レオナルド達が王宮に入りたいのには何か他に理由があるのかもとも思ったが、


 (兄さんが正気じゃないのは今に始まった事じゃないか)


 という合理的な判断をしただけだ。


 そんなわけでマリーはレオナルド達が王宮に潜入する事に全面的に協力することを同意してくれた。


 「王宮に入る事自体はそれほど難しい事じゃないと思うわ。兄さんたちのいた頃と状況はそれほど変わっていないし」


 よそ者に対して聖都の関所はかなり厳しい。しかし、その反面聖都の住民に対して王宮の警備はそれほどでもない。不審なものは聖都の中に入る前に排除しているという理屈なのだ。そのためレオナルド達の素性がバレなければ王宮のある程度の区域までは問題なく入ることができるだろう。


 「でも、聖剣の台座のある聖堂にはそう簡単には入れないわよ。私でも夫の許可が必要だもの」


 青の聖騎士クレディの妻であり、タンク侯爵夫人でもあるマリーでも聖堂には気軽には入れない。入る時はクレディから口添えしてもらう必要があるくらいだ。


 「まあ、その辺はなんとかするさ」


 レオナルドが言葉を濁して答えているのを見て(やっぱり聖剣の本継承だけが目的ではないみたいね)とマリーは思う。


 この兄はどんな無茶をしようとしているのだろうかと思うが、少しでも安全な方法をとらせた方がいいだろう。


 「聖堂に入れるようにコネのある人を探してみるから、無茶はしないでね」

 

 「頼もしいな、マリー」 

 

 レオナルドはこの妹は機転が利くことを知っているのでマリーの自信ありげな様子にすっかり安心している。


 (マリーはレオナルドの妹とは思えないほど常識人だから心強いわ。これでうまくいきそうね)


 とレイミアもその他の者も概ね同じような事を思っていた。


 しかし、マリーはやはりレオナルドの妹なのである。数日後、それを全員が思い知ることになるのだった。



                             *



 「さすがに緊張するわね」


 念のため剣、鎧とフル装備をしているレイミアの言葉に、


 「そうですね。でも、この面々なら仮に一個大隊が丸ごと来てもどうにかなるから大丈夫でしょう」


 タイユフールは同意しながらも軽口で答えているが、その顔はやはりすこしピリついている。


 「レオナルドさん、その時はどちらが多く倒せるか競争しませんか?」


 「おいおい、あまり物騒な事をいわないでくれよ」


 その二人とは対照的にシンゴとレオナルドは憎らしいほどいつもどおりだ。二人とも軽装に剣だけ装備している。シンゴは本当に余裕であり、レオナルドはやせ我慢だったが。


 今日は王宮に入るための協力者をマリーが連れて来てくれることになっている。


 しかし、レイミアたちが危惧しているようにその協力者に下手な者を連れて来られたらレオナルド達は聖王国に捕えられかねない。


 まあ、この四人を捕えるならタイユフールが言っているように一個大隊が丸ごと来ても足りないくらいだが。


 マリーに限って協力者と偽って聖王国の手の者をこのアジトに導きいれる事はないだろうが、マリー自身が協力者に騙されている事がないとは言い切れない。


 わざわざ「人選に気を付けてくれ」という事はなかったが、それでもレオナルド一行は緊張していた。


 やがてドアがノックされる。


 「兄さん、入るわよ」


 マリーは目深くフードをかぶった女性を伴って入ってくる。


 協力者が女性だということを意外に思っていると、


 「協力してくれるのはこの方よ。お顔をお見せください」


 マリーに言われてフードを取った人物を見てレオナルドは目を見張る。


 『ひ、姫!?』


 レオナルドとタイユフールが驚きの声をあげると、「ひめ~!?」とレイミアも目を丸くする。シンゴも声こそ出さないが驚いて息をのむ。


 そう、現れたのは聖王国の金色の姫騎士、シエナだ。


 「お久しぶりです。そして・・・よく無事に帰ってきてくれました。レオナルド」


 シエナは涙ぐみながらレオナルドの顔をまっすぐ見ている。


 (マ、マジかよ~。マリー、お前は無茶苦茶をするなあ。俺の事をよく無茶をするっていうが、お前もたいがいだぞ。しかも俺は『イイ感じのセリフ』を言いたいっていう正当な理由があるから無茶もするが、マリーは別にそんな事ないんだろう?なんでこんな無茶苦茶なことするかねえ・・・でも、、まてよ?これはもしかして・・・)


 レオナルドはすぐに思い直して、驚きの表情から真剣な顔に変わってシエナを見据えると


 「なんと軽率な事を・・・。あなたは自分の立場がわかっておられるのですか?」


 レオナルドには珍しく語気が荒い。


 その様子から一見、本気で怒っているように見えるがもちろん実際は、


 (いやあ、言えたね『軽率な事を・・・』を。このセリフって自分よりも下の立場の者に言ったらただの叱責、いわゆるパワハラになるけど、自分よりも上の身分の者に言うと、とたんに重みのあるものになるよねえ!)


 このありさまで心の中では怒るどころかご満悦だ。


 一方レオナルドに本気で叱られたと思ったシエナは肩を落としている。その様子を見て、


 (姫・・・。なんかすみません。本気で怒ったわけではないんですが・・・。ただ、もうちょっと待ってくださいね。この状況、私にはまだ言わなければならない事があるのです)


 レオナルドはシエナに申し訳ないと思いながらもこの『イイ感じのセリフ』チャンスを生かすためにマリーに向き直る。


 「マリーもマリーだ。いくら協力者が必要だと言ってもなぜシエナ姫なのだ。私が真に帝国のためだけに動く者だったら姫は無事ではすまないところだ」


 同じように叱られるマリーだがこっちの反応は少し違う。


 「兄さん、そういうのはいいから。姫も時間がないんだから早くすませましょう」


 また兄さんの『あれ』が始まったとマリーは軽く流しているが、


 「マリー!」


 今回ばかりはマリーの軽口も見過ごす事ができないと、レオナルドが再び叱責すると


 「ごめんなさい。軽率な行動でした」


 マリーも素直に頭を下げている。事が事だけにさすがにいつものレオナルドとは違うと思ったらしい。


 しかし、実際は(『マリー!』この一言でも状況によってはこのように『イイ感じのセリフ』になるのだ!)


 このようにいつものレオナルドであった。


 しかし、このレオナルドの思いのほか強硬な態度によって場の空気はかなり重くなってしまっていた。珍しくシリアスな展開にレオナルドは内心焦る。


 (あれ?この感じまずくない?この後どう収拾しよう・・・。意外と難しいんだよな。こういう空気を変える『イイ感じのセリフ』は)


 別に無理に『イイ感じのセリフ』を言う必要はないのだが、そこはレオナルドだ。なにか『イイ感じのセリフ』がないか悩んでいる。


 そんな中、レイミアがわざとらしく両手をたたいて、

 

 「はいはい、レオナルド。そのくらいにしておきなさいよ。マリーだって悪気あったわけじゃないし。確かに姫が自ら来るのは軽率かもしれないけど、あたしだって帝国ではかなりの身分なのにこうして敵国の首都に来てるんだから似たようなもんでしょ?」


 自分で自分の事を『かなり身分が高い』と言い切る事で少し空気が和らぐ。その変化を感じ取ったレオナルドは(今だ!)と思うと、


 「そうだな。こちらにも軽率な帝国の要人がいたのだな」


 とうまく『イイ感じのセリフ』をねじ込んだのだった。

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