白の聖騎士、流行る
レオナルド達がマリーと早期に再会できたのは幸運だったといっていい。
聖都の現状を知りたいレオナルド達にとってマリーはその生い立ちと現在の身分から庶民的視点からも貴族的視点からも聖都の現状を見ることができる人物だったし、なによりレオナルドにとっては信用できる妹だった。
マリーの話では庶民の間ではレオナルドに敵意を抱いている者はほとんどおらず、むしろ好意的な者の方が多いらしい。貴族はそれぞれの派閥によってその見方が違うが、庶民ほど安易にレオナルドに好感を持っていない。帝国側についた事がネックになっているのだ。
そんな聖王国で庶民にも貴族にも共通しているのは『帝国は悪逆非道の侵略国家』であるという認識だ。
不思議なのは庶民も『帝国は悪逆非道の侵略国家』だと思っていてもレオナルド個人にはいまだに好意を持っていることだ。
「それって矛盾してないかしら」
この中で唯一純粋な帝国人であるレイミアは不満の声を上げる。
レイミアからしたら帝国にそこまでの敵意を持っていながら、聖王国を裏切って帝国に寝返ったレオナルドに対して敵意どころか好意を持つなんておかしいと思ったのだ。
「確かに矛盾してますね。私も帝国には無条件に敵意を持っていましたが、身内である兄さんの事は嫌いになっていませんでした。レイミアさんに対しても兄さんと一緒の状況で出会っていなければ、私はきっと敵意を抱いたと思います。それだけ聖王国にとって帝国は不倶戴天の敵だと思われているのです。・・・ただ、今思えば帝国に関する情報は不自然なほど否定的なものばかりが聖王国では流れていると思いますね」
「それは戦争中なのだから当然なのでは」
シンゴの当然の指摘に、マリーは首を振る。
「帝国との関係が険悪になる前から帝国に対しての情報は嫌悪感を煽るものしかなかったです」
「確かにそうですね。帝国に関しては私が聖王国にいる頃から悪い話ばかりでしたね」
タイユフールもマリーに同意している。
「やっぱり矛盾してるじゃない!そんなに嫌いな帝国にレオナルドがいるのにレオナルドの事は嫌いにならないって!」
レイミアはこの点が納得がいかないらしい。そもそも帝国側はそこまで聖王国に対して遺恨を持っていないのだ。
「それに関しては、たぶん兄さんの活躍が広く知られているからこその人気だと思います。まあ、これはタイユフールさんのおかげでしょうね」
悪意のある情報だけがあふれている帝国と対照的に、タイユフールの著作によってレオナルドは英雄的な言動が広められているために庶民からは好意的に思われているという事らしい。
(あれ?これっていままで俺が『イイ感じのセリフ』を言い続けていた事が無駄じゃなかったって事?すごくね?)
全くそんな事は意図せずに純粋に『イイ感じのセリフ』言っていただけのレオナルドだったが結果的に良い効果を得ているのは実にレオナルドらしい。
「僕は帝国にも聖王国にも関係しない第三国の立場で言わせてもらいますが、帝国はそれほど悪い国ではないですよ。悪い噂ばかりが聖王国で流れているのは不自然ですね」
シンゴの発言にレオナルドは少し考えるそぶりをすると、
「マリー、聖都の様子を見たいと思うのだが案内してもらえるか」
マリーの話だけではなく実際に聖都の様子を見たくなってきたのだ。
危険は伴うが青の聖騎士クレディの妻であるマリーが一緒なら万が一怪しまれてもたいていの事は乗り切れるだろう。
「あたしも行ってもいい?あと、シンゴも」
レイミアは聖王国の首都である聖都に興味があるらしい。やはり帝国に対してどのような印象を持っているかと気になったのだ。
「レイミア様はちょっと着替えれば大丈夫だと思いますけど、シンゴ様はそのままではちょっと難しいかもしれませんね。目立ちますから」
聖王国では東の国の出身の者は珍しい。加えてシンゴは美少年なので目立ってしょうがないだろう。
「えー、シンゴはダメなの?」
「僕は留守番しておきますよ。レイミアは行ってくるといいよ」
レイミアはしばらく悩んでいたが、やはり付いていくことにした。聖都を見たいという欲望に勝てなかったのだ。
「それではマリー、レイミア嬢の服を準備してくれ。レイミア嬢が着替え次第出発しよう」
すぐにでも出発しようとするレオナルドだが、
「いやいやレオナルド、あなたこそその格好で行くつもり?さすがにここでその格好は目立つでしょう!」
白の聖騎士として白い鎧と白い兜、腰には白の聖剣を装備したままで行こうとするレオナルドに対してレイミアが呆れたように言うが、
「あー・・・、兄さんならいつもの格好で大丈夫だと思うわ。顔は兜を深めにかぶれば大丈夫でしょう」
マリーはちょっとバツの悪そうな顔で答えるのだった。
*
聖都の街並みをしばらく歩くと、レイミアがしみじみとつぶやく。
「マリーさんの言っていたことがよくわかったわ」
レイミアは帝国人として聖都を歩くことに緊張していたのだが、今は気の抜けたような顔をしている。
「わかって頂けましたか」
「聖王国って意外と愉快な国よね」
「兄さんやタイユフールさんの出身国ですから」
愉快の代表のようにレナナルドやタイユフールの名前を上げるマリーにレイミアも『うんうん』とうなづいて同意している。
そんなレイミアの眼前に広がっている光景はこんな感じだ。
『聖騎士づくし』
この表現がピッタリくる光景だった。
街中に普通に『聖騎士』の格好をした者たちがあふれているのだ。大男の『青の聖騎士』、女性の『白の聖騎士』、子供の『緑の聖騎士』・・・様々な『聖騎士』がいる。
その中でも断然に多いのが『白の聖騎士』でその人気の高さがうかがえる。
「以前よりも増えているな・・・」
特に驚く様子もなくそうつぶやくレオナルドにレイミアが眉をひそめる。
「前からなの?これ?」
「そうだが?」
何か変なところがあるのかと言いたげなレオナルドにレイミアは頭が痛くなってきていた。