白の聖騎士、帰省する
レオナルド一行が『聖騎士の道』で瞬間移動した先は民家の一室のようだった。
「ずいぶん庶民的な家ね」
無遠慮に見回すレイミアが言うように調度品などを見ても実用的な物が多く、とりたてて高価な物はないようだ。ただ、家主の性格を表しているのかそれらはシンプルな中にも自己主張の様な物を感じさせている。
「それはそうだろう。ここは私の生まれ育った家だからな」
レオナルドは懐かしそうに答える。
「そういえばあんたは平民の出だったのよね」
納得したとばかりにレイミアは肩をすくめる。
(つい忘れそうになるのよね。認めたくはないけどその行動はそこらのボンクラ貴族よりよっぽど気高いもの)
ああいう性格なので口には出さないがレイミアはレオナルドの事を認めているのだ。もっとも『その行動』はレオナルドが『イイ感じセリフ』を言うだけのためにした結果である事を知らないのだが。
「確かにここなら当面の間は安全かもしれませんね。一応様子を見て来ます」
タイユフールは何度か来た事あるのか、他の部屋も問題がないか確認しに行っている。もっとも、そう広くない家なのですぐにもどってきて「大丈夫です。誰もいませんね」とレオナルドに報告している。
「レオナルドさんの使用人とかいないのですか?」
聖騎士と言えば聖王国ではかなり地位が高いはずだ。いくら庶民の出とはいっても使用人の一人もいないのは不自然だとシンゴは思う。
「私は聖騎士になってからはこの家には住んでいなかった。今はここには誰もいないのだ」
レオナルドは聖騎士に任命されてからは貴族の一員として広大な邸宅を与えられて使用人たちに囲まれて住んでいたが、その家は帝国にレオナルドが寝返った今はどうなっているかわからない。おそらく聖王国に接収されているだろう。
「その割にきれいですね」
「ああ。妹がときおり来ているようだ」
このレオナルドの生家は両親を早くに亡くしたレオナルドが聖騎士となり、妹のマリーが青の聖騎士クレディに嫁いでからは完全に無人になっていたが、マリーが管理しているのか埃などなくきれいなものだった。
「なるほど。それで安全だと言ったんですね。ん?でも誰か来ましたよ。敵意はないようですが」
またしてもシンゴは一番最初に接近する人物に気付いている。
「大丈夫だ。あの足音には聞き覚えがある」
レオナルドはそれらしい事を平然と言っているが、実際はいつものように
(なーんて、足音を聞き分ける事なんかできるわけないよねー。そんなの無理だって。てゆーか、シンゴはよく気付いたなー。しかも相手の姿も見ずに敵意がないってわかるっておかしくない?なにそれ?超感覚ってやつ?いいよねー、そういうスゴイやつは『敵意はないようですが』なんていう『イイ感じセリフ』が自然に言えて!こちとらそんなスゴイ能力はないからハッタリで『あの足音には聞き覚えがある』って言うしかないんですけど!)
と能力不足をハッタリで補っているだけだった。
(まあ、どうせこの家に来るのはあいつくらいだろ)
ハッタリではあったがレオナルドにはある程度の目星は付いているようで、そしてそれは間違っていなかった。
「兄さん?!」
ドアを開けて入ってきたのはレオナルドの妹、マリー・タンクだ。
「マリー・・・。久しぶりだな」
「久しぶりだなって、兄さんこんな所でなにやってんの?」
「運命とは皮肉なものだな。聖王国の聖騎士として旅立った地に帝国の兵士として帰ってくるとはな・・・」
いつも通り『イイ感じセリフ』を言おうとするレオナルドだが、それを遮るように
「あー、そういうのいいから!とにかく中に入れて!」
マリーは強引に入ってきてすぐに扉を閉める。
(昔からこの妹は俺のセリフに対する扱いがひどい・・・)
レオナルドの本性に薄々気づいているこの妹が苦手だった。
妹の方も『イイ感じセリフ』を言いたいがために無鉄砲な事ばかりする兄の事を困った人だと思っていたが、
「全くこんな所で何してるのよ。心配したんだからね」
「マリー、お前の方はこそ大丈夫だったのか。私の妹であることでずいぶん肩身の狭い思いをしているのじゃないのか?」
この兄妹は結局はお互いの事を思いやっており仲は良いのだ。
「大丈夫よ。知っての通りうちの人も聖騎士だし、タンク家に文句を言える貴族なんてそうはいないわよ。お義父様やお義母様も味方してくれているもの」
「タンク候には頭が下がるな」
「それに聖王国の人たちも一部の貴族連中は別にしても一般国民は兄さんに対して同情的だわ。身代金をケチって裏切られても文句は言えないでしょ」
「そんなことまで知っているのか」
驚いたように言うレオナルドに、
「そこにいるタイユフールさんの書いた『白の聖騎士伝記、帝国編、くじけぬ白き翼』のおかげでね」
タイユフールに視線を送るマリー。
「おかげさまでベストセラーになっています」
タイユフールは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「あの本によれば相変わらず無茶苦茶してるみたいね。それにしても聖都に潜入してくるなんて常識はずれにもほどかあるわ」
マリーはレオナルドとタイユフールを呆れたように見ていたが、その他にも二人いる事に気付いて慌てて自己紹介を始める。レオナルドと再会した衝撃が強すぎて今まで気付かなかったのだ。
「申し遅れました。わたくしは青の聖騎士クレディの妻でレオナルドの妹のマリー・タンクと申します。皆さんにはいつも兄が迷惑をかけています」
お世話になっているではなくてはっきりと『迷惑』と言い切るあたりがマリーの飾らない性格を表している。
「あたしはレイミア。帝国第三軍団の副将軍よ。あなたからしたら敵国の人間だけど嫌わないでくれると嬉しいわ」
レイミアはマリーの事を気に入ったのかレイミアにしてはかなり友好的な挨拶をしている。
「僕はシンゴ・シンドウです。ヒノモト国出身です。帝国の軍属ではありませんがこの度レオナルドさんと同行する事になりました」
シンゴははっきりと目的を言わないがその腰には黒の聖剣があるのをマリーは見逃していない。
(帝国の副将軍に黒の聖剣の適合者・・・。兄さん、ホントにどうなってんのよ・・・)
二人の素性を知ってマリーはますます不安が高まるのだった。
明日ワクチン接種なので今週分は今日投稿します




