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白の聖騎士、愛馬に別れを告げる

聖王国の密偵が連行されていくのを見届けるレオナルドの後姿は真剣そのものだった。


 これはいつものようにそれらしいシーンを演じているわけでも、単純に密偵を『イイ感じセリフ』を言うための邪魔者扱いしただけでもなく、慎重になっているからこその行動だった。


 頭の中が『イイ感じセリフ』のレオナルドには珍しく、今回はいろいろ考えている。


 捕えている密偵が情報を得たとしてもを聖王国の者に伝える術はないことはわかっているが、今後脱走されたり、奪還される可能性はゼロではない。


 『聖騎士の道』は聖都の中へ自由に瞬間移動できるだけに、その利点を最大限に生かすためには『聖騎士の道』を使用した事を聖王国側に知られない事が重要なのだ。


 密偵を連れて行った部下の姿が完全に見えなくなると、


「白雲、お前はここまでだ。エチカ、白雲の事を頼んだぞ」


 レオナルドはここまで護衛として付いてきていた帝国遊撃隊の部下の一人に愛馬の事を託している。エチカは年若い辺境部族の出身だが馬の扱いがうまく白雲の世話係をしている者だ。


 密偵を発見する前にも説明していたが『聖騎士の道』は聖騎士が馬を一緒に連れて行こうとすると他に誰もつれていけないくらいの範囲しか移動できない。そのため白雲は置いていくしかないのだ。


 ここで別れるのがわかったのか、悲しそうな目で見てくる白雲のたてがみをなでながら


 「私は必ず無事に帰ってくる。その時はまた、私の力になってくれ。私の愛馬はお前しかしないのだから」


 とレオナルドはやさしく語り掛けている。


 一見、人と馬の心の通じ合った感動的なシーンに見える。


 実際、レオナルドの部下たちやシンゴ、あのレイミアでさえその姿を見てしんみりしているが、当の本人(と馬)は全然違う事を考えていた。


 まあ、心は通じ合ってるちゃあ通じ合っているのだが、その内容は感動的なものとは程遠かった。


 まず馬の方だが


 (レオナルドの旦那、どうですか?このいかにも名残惜しいって感じの目。なかなかイイ感じですよね?)


 と完全に『イイ感じの別れ』を演出をしているのを自覚している。


 これに対して人の方は


 (さすが白雲、我が愛馬だけはある。なかなかイイ演技だ!よくわかってるな!)


 愛馬の行動を完全に演技と見極めて褒めている。


 (でしょう!あえて鳴き声を出さないのもポイントたかくないですか。鳴き声をここで出すとちょっと安っぽくなりますからねえ!)


 (そうだな!それが正解だと俺も思うぞ!過剰な演技は感動に水を差す事もあるからな!)


 こんな風になぜか心の中で人と馬はしっかり会話が成立していた。


 さらに馬が、さびしそうな顔で


 (ところでマジで置いていくんですか?最近俺の出番が少なすぎると思うんですけど、もうちょっとなんとかなりませんか?俺って旦那の相棒ですよね?これまでだって一緒だったじゃないですか?聖王国から始まり、帝国の部族討伐、自由都市攻略、その全てに相棒として頑張ってきたじゃないですか?)


 と不満そうに愚痴をこぼす。なにしろこの物語の最終章だ。ここで別れてしまえばこのまま出番がなくなる可能性があるのだ。


 人の方はそれをなだめるように、


 (俺だって本当は連れて行きたいさ。白雲ほど俺の相棒にふさわしい者はいないと思っている。馬としてではないぞ。人間を含めても白雲ほどの相棒はいない。だが、今回は連れていけないのだ。俺だって本当につらいんだ。だが、白雲よ。ここで俺はあえて白雲に『俺が連れて行かない』という試練を与えようと思う。この試練を乗り越えることができれば白雲はまたひとつ上の『イイ感じの馬』になれるだろう)


 馬に対してかなり過大な要求をするレオナルドだが、本人はいたって真面目だった。白雲ならきっとやってくれると思っているのだ。


 白雲もその期待に応えるように、決意した顔になる。


 (わかりました。俺もレオナルド様の馬です。自分の事は自分でします。そこら辺のご主人様に甘えてるだけの馬とは違うところを見せてあげますよ!)


 (おおっ!わかってくれたか白雲よ!期待しているぞ!)


 ちなみにこの心の中での会話中、レオナルドも白雲も(タイユフール、ここんところ上手く書いてよ!)とレオナルドの伝記作家でもあるタイユフールがしっかり見ている事を横目で確認している。

 

 (これくらいでいいか)


 レオナルドは『イイ感じの別れ』のシーンをそろそろ終わる事にした。


「名残惜しいが私たちはそろそろ聖都に潜入することにする。私の近くに集まってくれ」


 そう言われてタイユフール、シンゴ、レイミアがレオナルドの周囲を取り囲むように近づいてくる。


 「よし、それでは開くぞ。『聖騎士の道』!」


 特に呪文を唱えるでもなくレオナルドが白の聖剣を抜き放つと、一瞬その姿が見えなくなるほど光ったかと思うと、レオナルド達の姿は消えていた。


 「今のが『聖騎士の道』・・・」


 話には聞いていたが瞬間の出来事に呆然としている部下たちを見て


(いまだ!)


白雲はエチカが手綱を持つ手が緩んでいるのを見定めると、一気に駆け出してその手を振りほどいた。


「あっ、どこへ行くのだ」


慌てたエチカの制止も聞かずにあっという間に白雲は走り去っていく。


白雲は疾走しながらいなないていた。


(レオナルドの旦那!待っていてください!俺は自分の力で聖都に入ってみせますからねー!)


白雲は走り出す!どうにかして聖都に潜り込むために!


・・・どう考えても馬一匹で聖都の関所を突破するのは無理があるが、なんとかしそうと思わせてくれる馬、それが白雲なのだった。

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