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白の聖騎士、ライバルに会う

 聖都潜入に向かったレオナルド達一行は順調に(何度かレイミアが「飽きたわ・・・」と愚痴をこぼしていたがシンゴになだめられながら)帝国と聖王国の国境を越えて聖都から西に10キロほど離れた地点にたどり着いていた。


 「ここから聖都への『聖騎士の道』を開くことにする」


 レオナルドは『聖騎士の道』は聖都の任意の場所に出口を開くことができると言っていたが、入口を開く場所についてはある程度の制限があるとの事でこの場所に来たのだ。


 「しかし、いくら聖剣の所有者しか開く事のできない道とはいえ物騒な事このうえない『道』ですね」


 出口を聖都の中に自由に作れるものだとしたら、どんなに聖都が入国の審査を厳しくして、城壁を厚くしても用を成さないだろう。聖騎士がその気になれば大軍を聖都の中に導きいれる事ができてしまうからだ。


 その事実に聖王国出身のタイユフールはやり場のない思いを抱いた複雑な表情をしているが、レオナルドは

 

 「それは杞憂だな。一人の聖騎士が開いた『聖騎士の道』を一度に通ることができる人数は限られている。今回は4人で行くが最大でも6人までだからな。4人もいたら馬も連れて通れないだろう」


 『聖騎士の道』に範囲の制約があることを説明する。『聖騎士の道』は『道』と銘打っているが、実際には道というよりは範囲指定の瞬間移動のようなものらしい。


 そのためレオナルド一行は馬でここまで来ていたが、この後は同行していた帝国遊撃隊の部下5名にレオナルド達が乗ってきた馬を託すつもりだ。


 「僕が『聖騎士の道』を開いたらもう少し連れていくことができるのではないですか?」


 黒の聖剣を継承したシンゴがそう提案するが、


 「いや、君はまだ仮継承だからな。『聖騎士の道』は本継承をしなければ使えない」


 レオナルドはシンゴにそう言うと、少し芝居がかった調子で続ける。


「残念ながら歓迎されない客は私たちしか行けないということだ」


 (はい、きたー!『歓迎されない客』きたー!いつも冷静を装っているいますが、今回はあえて芝居がかった言い方をする事で『イイ感じセリフ』を引きだたせてみました!これは『イイ感じセリフ』ポイント高いですよー!さすがはレオナルド選手ですねー!)


 誰に対して何の解説しているのかわからないがレオナルドが久々の『イイ感じセリフ』に心の中でガッツポーズをとっていると、それに水を差すように


 「しかし・・・僕たちに歓迎されない客もいるようですね」


 とシンゴがかぶせてくる。レオナルドは『イイ感じセリフ』の余韻に浸っていたのでその言葉の重要性に気づかなかったが、「どういういことです?」「どういう事なの?」とタイユフールやレイミアたちは騒ぎ出す。


 周りの者たちが騒ぎ出したのでようやくレオナルドも不穏な事態に気づくが、そんな事はまったく顔に出さずに


 「さすがシンゴだな。それに気付いていたとは」


 と冷静に答えている。


 もちろんレオナルドはシンゴの言う『別の歓迎されない客』が何かわかっているわけではない。


 ただここで驚いてしまえばレオナルドが初めに言った『歓迎されない客』がシンゴのセリフの当て馬になってしまうので、反射的に(え?俺は知ってましたけど)的な反応をしたのだ。


 心の中では、


(え?マジで?ぜんっぜん気付かないんだけど!ていうかタイユフールとかレイミアとか超優秀なメンバーがそろっている中で一人気付くってやっぱりシンゴはハンパねーわ!いやー、もう全然俺より強いよね、シンゴは)


 とメチャクチャ驚いている。


 ただその驚きを外に出さない反応がとっさに出来たのは自分の言った『イイ感じセリフ』を無駄にしたくないというレオナルドの『イイ感じセリフ』キープ力のおかげであった。


 「で、どうします?」


 シンゴの問いにレオナルドは


 「そうだな・・・。ここは君のお手並み拝見といこうか」


 どうするもなにも敵がどこにいるかもわかっていないレオナルドには何もできるわけもないのだ。

 

 「わかりました。5分ほどお待ちください」


 そう言ってシンゴは目にもとまらぬ速さで走り出していった。


                               *


 5分後。


 レオナルド達の前には一人の男が後ろ手に縛られている。


 ここから300メートルほど離れたところでこちらを伺っていたこの男をシンゴが気絶させて捕えてきたのだ。


 動けないように縛った後にシンゴが活を入れて意識を戻させている。 


 おそらく聖王国の密偵だろう。名前やこちらを見ていた理由を問いただしたが、口を開かない。


 「どうしますか?」


 レオナルドの部下の一人が聞いてくる。これから聖都に潜入するにあたって聖都の現状の情報を得る事にこの上なく役立つであろう男の処置に対してレオナルドは事もなく言い放つ。



 「君たちが身柄を預かってくれ」


 「尋問されないのですか?」


 驚いたように確認する部下に、レオナルドは首を振る。


 「無駄だろう。口を割るようでは聖王国の密偵は務まらんさ。彼から情報を得る事は出来ないだろう。ただし、このまま帰したら私たちの存在を聖王国に報告されてしまうからな。無駄な尋問などせずに丁重にあつかってやれ」


 尋問をする必要はないというレオナルドの言葉に密偵と思われる男は思わず顔を上げる。そして確かめるように言った。


 「レオナルド様ですね」


 「そうだ」


 答える必要がないのだが、レオナルドは堂々と答えている。


 その様子に密偵は少しためらったが、


 「あなたは私の問いに答えて下さった。しかし、私の事を申し上げる事はできません」


 あくまで自分の事は話せないと言うがその姿は密偵として正しいものだとレオナルドは思う。


 しかし、レオナルドの正体を確かめるためとはいえ、口をきくことができたのでダメもとで密偵に話しかけてみる。


 「君は私を知っているのか?」


 「聖王国の者であなたを知らない人などいませんよ」


 そう答える密偵はなぜか少し嬉しそうだ。その様子を疑問に思っていると


「どんな形であってもレオナルド様が聖王国に戻られたことを私は嬉しく思います」


 と密偵は付け加えてくる。


 「ありがとう。君との話はこれくらいにしておこう」


 レオナルドは密偵との話を早々にきりあげる。密偵から『これ以上きけることがない』と思ったわけではない。


 (こいつやべえ!密偵なのになんでこんなに『イイ感じセリフ』連発してんの? 『聖王国の者であなたを知らない人などいませんよ』とか 『どんな形であってもレオナルド様が聖王国に戻られたことを私は嬉しく思います』とかすぐに出てくるとかマジで『イイ感じセリフ』の才能ありすぎだろ!こんなのに近くにいられたらたまったもんじゃないぞ!)


 と自分以上に『イイ感じセリフ』を言う密偵をライバル視して早くこの場から退場させたかっただけだ。


 しかし、密偵は、レオナルドの部下に連れていかれながらも

 

 「宰相には気を付けてください」


 と最後まで『イイ感じセリフ』を言ってレオナルドに着実にダメージを与えたのだった。

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