老将軍、孫を甘やかす
レオナルドの聖王国行きが決定して、帝国遊撃隊では聖王国行きの人選が始まっていた。
「俺は連れていけないってどういうことだ!」
アリアスは上官であるレオナルドに対しても臆することなく不満をあらわにする。
レオナルドが発表した聖王国行きのメンバーはレオナルド、タイユフール、シンゴ、それから帝国からのお目付け役が付くことになっていたからだ。
シンゴは黒の聖剣の正式継承のために行かなくてはいけないが、無関係のタイユフールが帝国遊撃隊から選ばれている事にアリアスは納得できないらしい。
「タイユフールはついて行くんだろう?どうして俺じゃないんだ!」
「タイユフールは聖王国出身だから何かと役に立つことがある。・・・それにタイユフールでは聖騎士に対抗するのは無理だろう」
レオナルドは暗にタイユフールよりもアリアスのほうが強いと言っているが、アリアスはその意味をはかりかねた。
「どういう意味だ?」
相変わらずレオナルドの言い方はわかりにくいとアリアスは思うが、こういう時にはその裏に何か意味があるのがわかっているので少し興奮は収まってきていた。
その様子を見てレオナルドも落ち着いて話し出す。
「聖王国に奪われたルティア要塞には現在三人の聖騎士がいる。その抑えのために聖剣使いに対抗できる者を残しておきたいのだよ。それが帝国遊撃隊ではアリアス、君だということだ」
「聖騎士・・・」
一度レオナルドと本気で戦ったことのあるアリアスはその強さをよくわかっているだけに聖騎士達の実力を推し量ることができている。
「その聖騎士が三人もいる。しかもその実力は三人とも黒の聖騎士よりも上だ。むろん聖騎士とはいえ無敵ではないが戦えば多大な犠牲が出るだろう。そのために単独で互角に戦える者が必要なのだ」
「なるほど。面白いな・・・」
残ることで強い者と戦えるとアリアスは不敵な笑みを浮かべる。それにレオナルドが自分を頼りにしているからこそ聖王国に連れて行かないとわかったので悪い気はしていない。
「そういう事だ。留守を頼むぞ」
機嫌の直ったアリアスを見ながら(帝国のお目付け役は誰がなるかなー。出来ればタイユフールみたいな俺を肯定するタイプじゃなくて、反論するタイプなら『イイ感じセリフ』のバリエーションが増えるから嬉しいんだけどなー。同じタイプだと言える『イイ感じセリフ』も偏るんだよなー。まあ、お目付け役ってくらいだから反論するタイプだろ。そのためにアリアスじゃなくてタイユフールを連れて行くんだからちゃんと反論タイプを選んでくれよー)とレオナルドは変な心配をするのだった。
*
「ボードワン将軍、レオナルド様が聖王国に行かれるのは本当ですか?」
帝国の第三軍団将軍のボードワンにそう詰め寄っているのは第八軍団将軍のフローラだ。
「おお、フローラか。耳が早いのう。その通りだ。例の黒の聖剣の継承儀式のために数人の供を連れて聖王国に向かうことが決定したのだ。ガラハド殿下に直談判をして決めたとの事だが、全くあの白の聖騎士殿は信じられない事をするものよ」
ボードワンは信じられないと言いながらも楽しそうにしている。しかし、フローラは真剣な顔で
「その供の者に私を加えて頂けないでしょうか。今回の聖王国行きには帝国からのお目付け役が付くときいています。私にその役目をさせて頂きたいのです」
「それはわしの一存ではのう」
返事をごまかすボードワンに、
「今回の帝国側の人選はボードワン将軍に一任されていると聞いています」
「そんな事まで知っておるのか」
ボードワンは困った顔をする。
実はフローラ以外にもレオナルド一行の供に加えて欲しいと言ってきている人物がいるのだ。
「おじい様!入りますわよ!」
いつものように返事を待たずにいきなり入ってくるのはボードワンの孫であり第三軍団副将軍のレイミアだ。
「例の件ですけど、あたしに決まりましたの?」
「うむ・・・。それなんじゃがなあ・・・」
歯切れの悪いボードワンの視線がフローラに向くと、ようやくその存在に気付いたのか
「あら、フローラじゃない。あんた何しに来たのよ」
「私は・・・」
フローラが答える前にレイミアは片眉を上げる。
「あんた・・・・まさかシンゴ様に着いていこうってわけじゃないでしょうね!」
レイミアはレオナルドの聖王国行きを自分の欲望丸出しの表現で言っている。
「いえ、私は・・・」
「ダメよ!あたしが付いていくんだからね!あんたは大人しくお留守番!」
フローラが高慢なレイミアに対してロクに反論する事ができないのはいつもの光景だが、さすがにこの件は譲れないのかなんとか反論しようとする。
「しかし、聖王国には・・・」
「だいたい、フローラはレオナルドが好きなんでしょ!そんなヤツにお目付け役がつとまるわけがないじゃない!」
自分はシンゴが好きだから付いていこうとしている事を棚に上げてレイミアはフローラの痛いところをついてくる。
「ぐ・・・」
「おーほっほっほ!一言もないようね!その点あたしはあのキザ男は嫌いだからお目付け役としては適任なのよ!そうでしょ、おじい様?」
勝ち誇ったように胸を張るレイミアに、
「まあのう・・・」
ボードワンも言葉を濁す。
「では、帝国側のお目付け役はあたしと言うことで決定ね!さー、シンゴ様との婚前旅行の準備をしなくっちゃ!」
そう言い捨ててレイミアはウキウキと立ち去っていく。
その後姿を見ながらボードワンはフローラに言い訳するように、
「別にわしは孫を甘やかしているわけではないぞ。実際問題として聖王国行きのメンバーの人選は難しいのだ。潜入のためには少数で行かなくていけない。だがレオナルドが連れて行こうとしている者たちはそうそうたるメンバーだからのう。こちらからお目付け役を付けるにしてもそれなりの実力者でなければ足手まといになるだろう。その点レイミアなら実力的には問題もないし、白の聖騎士殿とも慣れ合うこともないから適任だといえるじゃろう」
長々と説明しているが、その長すぎる説明をほとんど聞くこともなく
(全く、レイミア様に甘いんだから・・・)
とフローラは諦めるのだった。