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白の聖騎士、第三皇子に聖王国行きを願い出る

 「黒の聖剣を携えて聖王国に行きたいというのか」


 ガラハドはレオナルドが願い出た事を確認するように聞き返す。


 「はい。シンゴの黒の聖剣の仮継承は無事に終わりましたが、本継承をするためには聖王国にある聖剣の台座で継承儀式を行う必要があります。そのために私とシンゴに聖王国に行く許可を与えてほしいのです」


よどみなく話すレオナルドに対してガラハドは渋い顔をする。


 「また、難題を持ってきたのう。さすがに今の状況でお前たちを聖王国に向かわせるのは骨だぞ」


 帝国の者ではないシンゴに黒の聖剣を与える事ですら第一皇子たちはいい顔をしなかった。それでも聖剣を遊ばせておくよりは、となんとかガラハドが頼み込んで許可を出してもらったという経緯がある。


 そのガラハドからしたら簡単ではない交渉を兄皇子たちとしたばかりだというのにこの白の聖騎士は更に難しい事を願い出てくる。


 まず、レオナルドが聖王国に行くとなると、そのまま帝国を裏切らないかという疑念が出てくるだろう。レオナルドは帝国軍に捕られた際に聖王国から見捨てられたために帝国に寝返っただけで、聖王国から受け入れられたらあっさり元のさやに戻る可能性がある。


 意地の悪い見方をすれば黒の聖剣を手土産にして聖王国に戻るために、今回の聖王国行きを言い出したともとれる。


 仮にレオナルド達が裏切らなかったとしても帝国と聖王国の現在の関係ではレオナルド達が帝国軍人として潜入した事が聖王国側に発覚すればレオナルド達は捕えられて、結局は聖剣は聖王国に帰すだろう。


 つまり、レオナルド達に聖剣を持たせて聖王国に向かわせるという事は聖王国にとってはカモがネギをしょってくるようなもので帝国側にはかなりのリスクをはらんでいる。


 当然ガラハドはレナナルドがこんな無茶な計画を提案してくる裏にはリスク以上のリターンがあるからだと思い込んでいる。


 シンゴを聖剣の継承者に選んだ時もそうだったがレオナルドは『思いもよらない奇策をとるがそこには理由がある』とガラハドは勘違いしているのだ。

 

 そう、全ては勘違いであり、レオナルドは常にそれらしい『イイ感じセリフ』を言っているだけで、基本的に何も考えていないのがレオナルドだ。


 今回も実際は計算どころか、タイユフールたちにうっかり『イイ感じセリフ』を言ってしまったがために引くに引けなくなったレオナルドが聖王国へと行くという無茶苦茶な計画をガラハドに願い出るはめになっただけだ。


 そのため全く策などない。


 しかし、そんな事を全く感じさせないレナナルドはいつものように『意味ありげな沈黙』を装っている。


 なかなか話し出さない(正確には何も考えてないので話せないだけだが)レオナルドに対してガラハドが促してくる。


 「わかっていると思うが兄上たちを納得させるつもりなら並大抵の事では無理じゃぞ。その理由が黒の聖剣の性能を強化するだけではまず無理じゃ。それこそ我らにとって大敵である聖王国を降参させるくらいのリターンがなければ納得しないじゃろう」


 (ですよねー。そりゃ無理ないですわ。俺にだって今回の聖王国行きがいかに非常識な事かはわかる。俺もわかってはいるんですよ、わかっては。でも・・・仕方ないじゃないですかあ。だって言いたいじゃないですかあ。『できるはずがない、果たしてそうかな』を言える状況でそれを言わないなんてありえないじゃないですかあ)


 レオナルドはガラハドの言葉に心の中で言い訳をしている。


 (ていうか聖王国を屈服させるって無理じゃね?あの頑固な古臭い考えの国はそう簡単に降参なんてしませんよ?黒の聖剣を失ったとはいえ帝国の要塞を陥落させているし、戦力は十分にある。そんなの無理じゃね?殿下も無茶をいうよねー。できる事とできない事を考えて欲しいわー)


 自分が無茶苦茶な事を願い出た事を棚に上げて心の中で愚痴りだすレオナルド。


 (でも、なんか言わないと納得しないだろなあ。それも聖王国を降参させる並みのリターン・・・。しかも『イイ感じセリフ』で・・・。難しいなあ・・・)


 こんな時でも『イイ感じセリフ』言うことが頭から離れないのがレオナルドだ。


 (単純に『聖王国を降参させてみせる』って言ってみるか?全然策はないけど、それなら納得するだろう。もしかしたら聖王国に巨大隕石が落下して壊滅するような奇跡が起こるかもしれないし。

あっ、それは俺も死ぬなあ。まあ、『イイ感じセリフ』が言えるからいいけど。いやいや、待てよ。さすがに殿下の言った言葉をそのまま言ったら『イイ感じセリフ』としてはインパクトにかける。どうせ何の策もないんだからもっとインパクトのあるセリフで・・・)


 レオナルドの悩みは途中からガラハドを納得させる事から『イイ感じセリフ』言う事がメインになってきている。そしてついにレオナルドが口を開く。


 「そうですね・・・。聖王国を降参させることはできないかもしれませんが、このくだらない戦争を終わらせることはできます」


 レオナルドの言葉にガラハドは「ほう?」と少し驚いたような声を上げる。


 「大きく出たな。戦争を終わらせる、か」


 「はい。今回の聖王国行きが上手くいけば帝国と聖王国の戦争を終結させることができるでしょう」

 

 (戦争を終わらせる。いいよねえ。一見、普通の言葉の組み合わせだけど、個人が言うとこれほどのパワーワードはなかなかないよ!)


 ガラハドの驚きに気をよくしたレオナルドは自信満々に復唱する。


 何も考えてないくせに。


 まさか何も考えてない者がここまで堂々とすると思わないガラハドは、


 「そうか。それならばお前の聖王国行きを兄上たちも納得するじゃろう。余が間違いなく説得して見せよう」


 とレオナルドの聖王国行きを実現させる事を確約したのだった。

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