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白の聖騎士、遠い目をする。

抜き身の黒の聖剣を下段に構えて、その両眼を静かに閉じているシンゴの隣で見慣れない法衣を身に着けたタイユフールが神聖呪文を唱えていた。


 神聖魔法を発動させるためのそれとは違う儀式用の神聖呪文を10分以上も唱え続けていたが、やがて終わりがきたのかシンゴの握っていた黒の聖剣が強い光を一瞬放つ。


  「・・・継承儀式は以上で全て終了ですね。お疲れさまでした。これでシンゴ殿は黒の聖剣に適合したことになります。どうですか?」


 一仕事を終えた顔のタイユフールの問いにシンゴは自分の手の中にある黒の聖剣を不思議そうに見ている。


 「・・・確かに先ほどよりもかなり持った感じが良くなりました。何が変わったとは説明しにくいですが、何年も使い慣れた愛刀のようにしっくりきます。それに何か力のようなものを感じます」


 シンゴが黒の聖剣の適合者になる事をガラハドに正式に認めてもらったレオナルドは早速タイユフールにシンゴの黒の聖剣の継承儀式をさせていた。


 聖剣の適合者になるには聖剣に認められるだけの実力とその聖剣固有の条件を満たす必要があるが、それだけでは聖剣の力を引き出すことはできない。


 実力と条件を満たした者が聖剣の継承儀式を行うことで初めて聖剣の適合者になれるのだ。


 それは元々所有者がいない聖剣でも、今回のように前の所有者から奪った場合でも同様で、特に前の所有者が生きている場合は前の所有者よりも優れていると聖剣が認めなければ上書き継承ができない。


 無事に継承儀式ができたということは前の所有者のラインハルトよりシンゴの方が現在は優れているという事だった。


 「まあ、これはあくまで仮継承ですからね。完全に継承するには聖王国にある聖剣の台座に行って儀式をする必要がありますが、さすがにそんな事はできるはずがありませんからね」


 タイユフールは冗談めかして言っているが、シンゴは「これで仮継承か・・・」と今までに感じたことのなかった、まさに剣と自分が一体化したような気分に戸惑っている。


 今まで使っていた刀もいわゆる名刀と呼ばれる類のもので純粋な武器としての性能は高かったが、その性能に自分が引きずられるような事はまずなかった。


 しかし、今は聖剣から感じられる力に対して気を抜けば自らの意思がゆがめられるような気がする。


 (これが、聖剣の力・・・。レオナルドさんが聖剣の力に負けないだけの実力を持てと言った意味がわかる気がする。確かにこれを使いこなすことは修行になりますね)


 仮継承でさえこれほどの力を得る事ができるなら本継承すればより剣の能力を引き出せるだろう。シンゴはそう思うと、仮継承しかできないのがもどかしかった。


 もちろん剣の能力に頼るつもりは毛頭ないが、本来の力を発揮した聖剣を御してこそ自分の力を証明できると思ったのだ。


 そんなシンゴの気持ちを知ってか知らずか、


 「できるはずがない、果たしてそうかな」


 ここでレオナルドが会心の『イイ感じセリフ』を挟んでくる。


 「いやいや、さすがに無理でしょう。今の帝国と聖王国の関係性では帝国側の人間が聖王国に入れるわけがないし、帝国だって黒の聖剣を聖王国に持ち込むことを認めないですよ」


 タイユフールは常識的に否定する。


 聖王国が戦争状態になっている帝国の者を入国させるはずがないし、帝国としてもせっかく手に入れた聖剣を取り戻される危険を冒してまでシンゴが聖王国に向かうことを承諾しないだろう。


 一方、生真面目なシンゴはレオナルドの言葉を真剣に受け止めている。


 「何か策があるのですか?」


 レオナルドにもちろん策などない。レオナルドはただ単に「果たしてそうかな」が言いたかっただけだ。


 (『果たしてそうかな』ってかあっこいいー!切れ者、実力者を象徴するような『イイ感じセリフ』だよねえ!)


 レオナルドの心中はこうだった。


 そんな全く策などないレオナルドだが調子に乗って『イイ感じセリフ』を続けてしまう。


 「なくは・・・ないな」 


 (『なくは・・・ないな』これもいいよねえ!いやー、俺、ぜっこうちょう!)


 「一体どんな策があるというんです?教えてください」


 いい気分になっていたレオナルドに冷水を浴びせるような言葉をかけてきたのはタイユフールだ。


 (おいおい、タイユフール君!いつから君はそうやって答えをすぐに他人に求めるようになったんだ。なんでもちゃんと自分で考えていくことが大事だと思うぞ!ほら、いつものように「あっ、わかりました!」ってやってくれよ。こっちは全然、何も考えていないんだから!君はなんのために『イイ感じセリフ』を言うこと以外は無能な俺の副官やってんの!)


 自分の事を無能と言い切るレオナルドはある意味潔い。


 「知りたいか?」


 「はい。私には想像もつきません」


 タイユフールにはレオナルドを追い詰める気はないが、レオナルドは黒の聖騎士ラインハルトと戦ったとき以上に追い詰められていた。


 (マジかよ・・・。タイユフールにも想像もつかないってどうするんだよ、俺)

 

 「仕方ないな・・・。では教えよう」


 「はい。お願いします!」


 (こいつ、いい顔してんなあ。俺に本当に何か策があると信じているんだろうなあ。こうなったら『アレ』しかないか・・・)

 

 「・・・ガラハド殿下に頼むのだ」


 当たり前といえば当たり前の事を言うレオナルドにタイユフールは思わず真顔で聞き返す。


 「それはわかりますが、どうやってガラハド殿下に聖王国行きを認めてもらうのですか?」


 むしろ聞きたいのはその部分なのだが、といいたげなタイユフールに対してレオナルドは急に遠い目をして語りだす。


 「全ては必然なのだ。私がラインハルトと戦ったことも、ライハルトに勝ったことも、黒の聖剣にシンゴが認められたことも。いや、私が帝国の将になることから全ては決まっていた事だ。こうなることはわかっていた・・・」


 そう言ってレオナルドはその場から立ち去って行こうとするので、慌ててタイユフールが声をかける。


 「どこへ行かれるのです?」


 「殿下のもとだ」


 有無を言わせない様子のレオナルドにタイユフールもそれ以上声をかけられない。


 (全ては必然・・・。一体どういう事なんでしょうか。しかし、レオナルド様がかなり先を見通して行動していることはどうやら間違いないようです)


 タイユフールはレオナルドの『アレ』(当たり前のことに後によくわからんことを言い捨てて強引に逃げてしまおう!)にまんまとひっかかっていたとは知る由もなかった。

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