白の聖騎士、できる男の顔をする。
シンゴに黒の聖剣の適合者になる事を納得させたレオナルドは意気揚々と帝国第三皇子ガラハドの元を訪れていたが、レオナルドの報告を聞いたガラハドの反応はあまりよいものではなかった。
「帝国外の者に聖剣を持たせるのか・・・。お前はずいぶん思いきった事をするのじゃな」
レオナルドに向けたガラハドの言葉に批難の響きはないが、いつも堂々としているガラハドには珍しく困惑しているようだった。
黒の聖剣の適合者の人選をレオナルドに任せたものの、まさか聖剣と呼ばれるほど貴重な魔法剣の所有者に帝国の人間ではない者を選ぶとは思わなかったのだ。
「私は黒の聖剣の適合者を探せと言われましたので。ただ、一つ言えるのは彼以外に黒の聖剣の適合者になる者は私の知っている限りいないでしょう」
困惑しているガラハドとは対照的に白の聖騎士レオナルドは不敵なほど冷静に答える。
その様子を見ながら、
(なるほどのう。他に選びようがないから文句はないじゃろうと言うことか。それにしても余に対してここまでで言えるの大したものじゃな。さすがに余が見込んだだけはある)
と度胸のある者を嫌いではないガラハドは感心しているが、レオナルドの実際の心境は・・・
(やっべえええええ!言われてみればまさにその通りだわ・・・。せっかく帝国の物になった聖剣を帝国以外の者に持たせるとか普通に考えてありえないわー。ないわー。やらかしたわー。そりゃ、ありえないわー。俺だってないわーっていうわー)
この通り「ないわー」であふれていた。
(・・・でも、『イイ感じセリフ』を言うためにはしかたなかったんだよねえ。必要な犠牲ってやつ?)
いや、少しだけ開き直っていた。
『イイ感じセリフ』言うために貴重な聖剣を勝手に犠牲にされた帝国はたまったものではない。
しかし、レオナルドの開き直りは止まらない。
「もし、私の人選が気にくわないのであれば他の者で適合するか試されてはどうでしょう。私はガラハド殿下旗下の第三軍団と第八軍団と帝国遊撃隊の者しか知りません。この中では適合するものはいませんのでその他の軍団から探されたらよろしいのではないですか」
一度開き直れば肝がすわったのか、その口調は滑らかだ。オドオドした物言いをするなど、この命よりも『イイ感じセリフ』を言う事が大事な白の聖騎士レオナルドに出来るはずがないのだ。
そんな事とは知らないガラハドは真面目に答える。
「いや、その必要はない。兄上たちは散々自分の配下の者で試した後で余の所に話がきたのじゃ。余の配下であるお前が手に入れたというのに余は後回しにされていたが、まあそれも仕方なかろう。余は第三皇子じゃからな」
ガラハドは自嘲気味に第三皇子という立場を語りだす。
第三皇子ながらガラハドは自分の名声が兄たちをしのいでいる事に気付いている。
戦の上手さは二人の兄より上で、さらに個人の戦闘力においては十代の少年に関わらず帝国最強とも言われるほど英雄的な資質を持つガラハドに期待を寄せる者が多くなっているのだ。
もっとも、上の二人の兄も決して無能ではなく第一皇子は内政においては抜群で、第二皇子な外交を得意としているのでそれぞれに優れた点を持っている。しかし、戦に強いという世間的に最もわかりやすい長所もつガラハドは帝国の一般国民からの人気が高いのだ。
ただ、ガラハド自身は兄たちに対して反逆するつもりなど毛頭ない。
自分に対する過度な期待をかえって迷惑に思っているくらいだ。
そして第一皇子であるエグザリオもガラハドに二心ありと疑っているわけではない。この戦に強く、まっすぐな気持ちをもった弟を頼もしく思っているが、強すぎるがゆえに周りの者に担ぎ上げられることを恐れているのだ。
そのためにガラハドの名声が上がりすぎる事に不安を覚えて、それを意図的に抑えようとしている。
それがわかっているだけにガラハドは自分の勢力が兄たちを超えないように人一倍気遣いをしている。
ガラハドはレオナルド相手にその気持ちを素直に語った。帝国における自分の立ち位置を理解してもらいたかったのだ。
「それゆえ余は聖剣の適合者を選ぶにあたっても慎重にすすめなくてはならんのじゃ。下手な者を選んでは兄上たちの機嫌を損ねかねん」
だが、せっかくガラハドが腹を割って話したにも関わらずこの辺りの複雑な人間模様はレオナルドには難しすぎてよくわからなかった。
(よくわかんないんだよねー。なんか色々話してたけど長すぎ。どんな事情が殿下にあるかは知らないけど、結局のところ俺の知ってるやつで黒の聖剣の適合者になりそうなのはシンゴしかいないし、それしかないんだって!)
よくわかんないんだよねー。ですましている。
この聖騎士は『イイ感じセリフ』を言うことに全能力の99%を使っているので、その脳みそは難しい事を考えるようにできていなかったのだ。
ただ、顔はいかにも深い考えがあるような面持ちで
「シンゴは下手なものではありませんよ」
しれっと言ってのけた。
この時のレオナルドには当然深い考えもなく(下手なものって、またまた~。シンゴはめちゃくちゃ強いから、大丈夫!)といった単純に剣術の上手さを言っただけだったが、帝国の内情を語った自分にまさかそんな底の浅い事を言うとは思っていないガラハドはその一言にハッとなる。
「そうか・・・あえて余の配下に聖剣を持たせぬということか。確かに余の直属の配下に持たせるよりは余に関係ない者に持たせる方が兄上たちの心証はよいかもしれんな。確かにそのシンゴという外国人なら下手なものではなく最適な者か」
ガラハドは感嘆して「うーむ」とうなっている。
「わかって頂けたようですね」
何一つわかっていないくせにレオナルドは『全てをわかっている男』の顔ができるのだった。




