白の聖騎士、思い出す
レオナルドに諭されたタイユフールはあらためて帝国遊撃隊に属さない者で黒の聖剣の適合者をかんがえていく。
「タイユフール、帝国遊撃隊以外で私が親しい者たちの事を話そうか」
タイユフールが帝国に来たのはレオナルドが帝国に囚われてからしばらくしてからだったので、レオナルドが知己になっている帝国の者でもタイユフールは実際に会ったことのない者がいる。
レオナルドはタイユフールの選択の幅を広げるためにそんな提案をするが、タイユフールは首を振る。
「大丈夫です。レオナルド様が知っている方の事は私も理解しているつもりです」
確かにタイユフールが実際に会ったことのない者もいるが白の聖騎士レオナルドの伝記を書くためにしっかりとした取材をしているのでレオナルドが会ったことのある帝国の主要人物は熟知しているのだ。
そのためレオナルドが知っている者の事はタイユフールはそれ以上に知っていると言ってよかった。
「それならよいがな。クライマックスに向けてこれまでの登場人物のおさらいになるからしっかりやっていこう」
「そうですね。不思議としばらく休んでいたような気がしますからそれがいいでしょう」
・・・レオナルドとタイユフールは謎のセリフを口走っている。
そして二人は謎のセリフを口走った事を忘れたように黒の聖剣の適合者を話し合っていく。
帝国第八軍団将軍フローラ・・・銀髪ショートカットの可愛らしい容姿に合わず、実力的には聖剣を扱うレベルにある。ただし、元リンツ公国の姫でリンツ公国時代の部下たちに慕われており、今ではそのカリスマ性から帝国支配下にあるリスオー公国の『犬』たちからもアイドル的な崇拝をうけているので黒の聖剣には適合しないだろう。
帝国第三軍団将軍ボードワン・・・帝国第三軍団の将軍で高い作戦指揮能力を誇る。高齢であるにも関わらず個人の戦闘能力も高い。実際に戦った事はないがレオナルドも聖剣抜きの一対一では勝てないと思っている。将軍という高位の身分だが兵たちには気さくに接しており人気が高いので、やはり黒の聖剣には適合しない。
帝国第三軍団参謀ジル・・・第三軍団の参謀にして帝国十剣士の一人。帝国で十指に入る剣士なので当然強い。万事について大雑把な命令を出しがちなボードワンを補佐しているため、人一倍気配りができている。また、部下からの人望も厚い。第三軍団が帝国最強と言われるのはこの人物がいるからこそと言われている。適合外。
帝国第三軍団副将軍レイミア・・・ボードワンの孫にして金髪美少女。将軍であるフローラに軽口を叩いている。それは帝国外出身のフローラを下に見ている事もあるが、個人的な武勇がフローラより優れていると思っているから。実際にそれくらい強いので聖剣使用レベルに達している。かなりわがままで自分勝手に行動するので黒の聖剣の適合者の素質はあるが、そのわりに部下からは慕われているという謎の人望を持つため適合外。
「なかなかいませんねえ、孤独な人」
タイユフールは上を向いてあきらめたように言う。黒の聖騎士の適合者に関して『孤独な人』という不名誉な烙印を押しているがタイユフールらしい的確な表現だ。
実際、黒の聖剣の適合者は他の聖剣よりも探すのが難しい。何十年も適合者が現れなかった白の聖剣ほどではないが、黒の聖剣も『狷介孤高』という条件から適合者を見つけるのが難しい聖剣の一つとされている。
「そうだな。ずば抜けた実力がある者は多少性格に問題があってもたいてい慕われるものだからな」
レオナルドも無意識に黒の聖騎士ラインハルトを乏しめている。
『イイ感じのセリフを言いたい』で行動しているだけなのに何故か人望があるレオナルドに他人の性格をどうこう言う資格があるとは思えないが、この辺りが黒の聖騎士に嫌われる理由なのだろう。
「帝国の将官クラスはダメですね。いっそラインベイスのマルチェッラ様はどうですか?微妙ですか?」
タイユフールは帝国の傘下に入った自由都市の軍事責任者の名前をあげる。
「実力的には微妙だろうな。適合条件にも当てはまっていない」
実際にマルチェッラと剣をまじえた事のあるレオナルドからしても聖剣に選ばれるかは微妙な実力らしい。
「まあ、そうですよね。自由都市の軍隊をまとめているくらいですから人望はありますか。でも、他の闘技場の相手はもっと弱いですし…。あっ、わかりましたよ!適合者はシンゴ様ですね!」
タイユフールは自由都市ラインベイスで黒の聖騎士とレオナルドが一騎討ちをした際に見届け人を勤めた少年を思い出す。
確かにシンゴなら適任だろう。その剣技はレオナルド以上で、レオナルドが聖剣抜きで立ちあったときも偶然勝つことができたが本来の力では完全に負けていた。実力的には申し分ない。
そして何より帝国において東方の国出身の者はほとんどいないので、同じ仲間がいないという黒の聖剣の適合条件に合致するのだ。
「そうだ。よくそこにたどり着いたな」
余裕の態度でタイユフールの肩を軽くたたくレオナルドだったが、
(あー、そういえばあいつがいたな!確かに適任だわ!さすがタイユフール君、偉いぞ!何で俺も思い付かなかったかなあ。まあ、よかった、よかった!)
と心中でタイユフールを称賛するのだった。




