白の聖騎士、伝記作家に意味ありげなセリフを言う
「黒の聖剣の適合者ですか…」
帝国遊撃隊の副官タイユフールはレオナルドの自室に招かれていた。
「ああ。私もある程度の見当はつけているが、タイユフールの意見も聞いておこうと思ったのだ」
帝国遊撃隊隊長のレオナルドには多数の配下がいるが、その中でも聖王国出身で聖騎士候補生だったタイユフールに聖剣の適合者についての意見を求めるのは不自然ではない。
「私の意見など参考になるのでしょうか」
聖剣の適合者を指名する、そんな重大な決断に自分などが関わっていいのかとタイユフールは逡巡するが、
「当然だ。私はタイユフールを頼りに思っている」
そう言いながらも必死に頼むわけでもなく、いつものように冷静な態度のレオナルドに、
(レオナルド様は本当に私を頼っているわけではない。私を褒めて、難事に当たらせる事で私に自信を付けようとされているようだ)
とレオナルドに都合の良い解釈をしているが、もちろんそんなわけはなくレオナルドは
(頼むよ~。タイユフール。君だけが頼りなんだから!ホント、お願いします!)
と本気で頼っている。
そんな事とは知らないタイユフールは質問を続ける。
「ところでレオナルド様はどなたに見当をつけられておられるのですか?差し支えなければ教えていただけますか」
「いや、それは言うまい。私の意見を聞いてしまえばそれが先入観になるだろう。私はタイユフールのそのままの意見を聞きたいのだ」
もっともらしい事を言っているが、黒の聖剣の適合者に全く心当たりがないからタイユフールにその答えを押し付けているレオナルドがまともに答えれるはずがないのだ。
(ヒントはなしか。レオナルド様は私を役に立つ者か試そうとされているのだ。当然だ。レオナルド様ほどの方の副官として仕えるからにはそれくらいの事はできて当たり前なのだろう)
白の聖騎士レオナルドの伝記作家としての側面をもつタイユフールは今回の自由都市ラインベイス攻略を2日前に書き終えたばかりだ。
誰も予想しなかった奇想天外な方法でラインベイス攻略を単騎で行い、しかも黒の聖騎士を生け捕りまでしている。その活躍を書き終えたばかりなので、タイユフールの頭にはレオナルドの言葉には必ず意味があると思い込んでいる。
(聖剣を使うとなればかなりの実力のある者に限られますね…)
聖剣使いは各聖剣の適合条件に当てはまっているだけではなれない。聖剣なしでも相当な実力がある者でなければ使いこなすことなど到底できないのだ。
そう考えると帝国軍の中でも聖剣に選ばれる可能性のある者は絞られてくる。
「そうですね…。まず、聖剣を使えるレベルにある者で考えると…」
タイユフールは聖剣の適合レベルにある者たちの名前を上げながらレオナルドと話し合っていく。
帝国遊撃隊副隊長アリアス・・・レオナルドが魔法を使わずに剣術のみで戦ったとはいえ白の聖剣の力を引き出したレオナルドと互角の戦闘を繰り広げていた。聖剣の種類によっては聖剣に選ばれる可能性はあるだろう。しかし、300人の辺境部族を部下にもっており、かなり慕われているので『狷介孤高』の黒の聖剣の条件には当てはまらないだろう。
帝国遊撃隊隊長代理カウニッツ・・・レオナルドがラインベイスに潜入していた際に帝国遊撃隊の指揮を任されていた。アリアスと同じく辺境の反抗部族出身だが単騎での実力はアリアスに劣る。決して弱くはないが聖剣の適合者としては微妙なラインの強さだと思われる。また、アリアス以上に多くの反抗部族たちをまとめていた事からも黒の聖剣の適合条件から外れている。
タイユフールが知る限り帝国遊撃隊で可能性があるのはこの2人くらいだが、一応聖騎士候補生だった自分も入れてみる。
帝国遊撃隊副官タイユフール・・・元聖騎士候補生だけに実力は折り紙付きだか、部隊をまとめる能力があり、性格的にも社交的で友人も多いのでやはり黒の聖剣の適合者にはらなれないだろう。
「どうやら帝国遊撃隊の中にはいそうにないですね」
嘆息するタイユフールに、
「タイユフール、もっと視野を広げる事だ」
レオナルドの意味ありげな言葉にタイユフールはハッとする。
もし帝国遊撃隊の中から黒の聖剣の適合者を選んでしまえば、レオナルドが自らの配下に聖剣を持たせて自軍の戦力を底上げしようとしていると思われかねない。
いや、実際にそう疑われるのは間違いないだろう。しかし、ラインベイス攻略の功績によりただでさえ勢威の上がっている帝国遊撃隊のこれ以上の増大を望まない帝国上層部はレオナルドの配下に黒の聖剣を持たせる事は認めないだろう。
(視野を広げる…。帝国遊撃隊の外に適合者を求めるべきだったんですね。確かに私は前提条件から間違っていたようです)
タイユフールはレオナルドの言葉をこう解釈しているが、実際は…。
(さっきから名前が上がるのが黒の聖剣の適合者に当てはまらない者ばかりじゃないか。タイユフールちゃん、しっかりしてよ!ホント、お願い!君だけが頼りなんだから!もっといろんな人を考えてみてよ!)
レオナルドはこう思っていただけだった。