白の聖騎士、無条件にイイ感じのセリフを言う
強固な城壁に囲まれて絶対的な防衛力を誇っていた自由都市ラインベイス。
元々自由都市の名のもとに各国と適度な距離感をもって中立を保っていたラインベイスだったが、反帝国の旗印である『神聖同盟』への加盟を決めたことで帝国と敵対することになる。
ラインベイスの『神聖同盟』加入には様々な思惑があったのだが、国とは言えない規模の一都市とはいえその敵対行為は帝国にとって放置しておくことはできなかった。
ただ、四方に敵を抱えている帝国の現状としてラインベイス攻略に大軍を差し向ける事ができない中で、新設された帝国遊撃隊がその任に当たることになるが、帝国上層部は誰も攻略を成功させるとは思っていなかった。
帝国の戦略としてはラインベイスを攻略できなくても敵対行為を許さないという強い意志を内外に示すために壊滅しても惜しくない帝国遊撃隊を差し向けたにすぎなかった。
負けてもともと。そんな絶対的に不利な状況下で全く損害を出さずに帝国側にラインベイスを寝返らせた帝国遊撃隊長レオナルドの名声は高まっていた。
「一体どうやって無傷であのラインベイスを攻略したというのだ」
「しかもほとんど一人で成し遂げたというではないか。とても信じられん」
「その上聖王国の聖騎士を捕えて聖剣を奪ったというではないか。これほどの功績は将軍クラスでもあまりないだろう」
そんな賞賛の声をもって話を聞きに来る者たちにレオナルドは自分のとった作戦を惜しみなく語ったので、「これほどの知略を隠すことなく話すとは。優れた戦術家は自らの策を隠すというが、レオナルド殿はそんな事すら超越しているらしい」とますます名声は高まっていた。
しかし、レオナルドは話を聞きに来た者を拒むことなく語っていたが、隠していないわけではなかった。ラインベイスの攻略はそっちのけで、ただひたすらに『イイ感じのセリフを言う』ために行動していただけでいつの間にか攻略できていた事を・・・。
*
白の聖騎士レオナルドは帝国第三皇子ガラハドの自室に呼び出されていた。
身分の高い者の部屋に呼び出された。それだけではレオナルドは平然とした顔を崩さない。内面と外面を分けるのはこの聖騎士の得意技だ。とても得意だ。それこそその卓越した剣技よりも本人は自分の強みだと思っている。
しかし、この時レオナルドは珍しく緊張していた。いや、この聖騎士は緊張自体はよくするのだがそれを異常なまでの見栄っ張りで表情に現すことがないのだが、この時は見た目にも少し緊張しているように見えた。
ガラハドの部屋にはレオナルドとガラハドの他に誰もいないからだ。
今でこそ帝国遊撃隊の隊長になっているレオナルドだが、元々は帝国と敵対している聖王国に所属していた聖騎士だ。しかも、帝国に捕らえられる前に3000人もの帝国兵相手に大立ち回りをした事もある。
そんなレオナルドと二人きりになる事にガラハドの側近たちは当然反対したがガラハドは「余を誰だと思っているのじゃ!」と一蹴した。実際、ガラハドはそう言えるだけの実力があるが、それえでも不用心には違いない。
そうまでしてレオナルドと二人きりで会おうとしたガラハドの真意は一体なんだろうかとレオナルドは心配していたのだ。
身に覚えがあるのは全く策などなかったのにたまたま上手くいったラインベイス攻略をいかにもに作戦通りだったとそれらしく語っていることだ。
レオナルドのそんな緊張を知らずにガラハドは全てを見透かしたように問いかけてくる。
「お前に来てもらったのは他でもない。黒の聖剣の適合者についてじゃ。我らが帝国としてもせっかく手にいれた聖剣をいつまでも遊ばせておくわけにはいかないからのう。お前はボードワンに『適合者は帝国にはいない』そう言っていたそうじゃが本当は心当たりがあるのではないか?」
レオナルドは内心ほっとする。実際、何の策もなく『イイ感じセリフを言う』ためだけに滞在している間に攻略できていた『ラインベイス攻略作戦』の事ではなかったのだ。
(殿下~、脅かさないでくださいよ~。てっきり俺はラインベイス攻略の策に「そこんとこおかしくねえ?そんな作戦矛盾してねえ?」ってツッコミが入るのかと思っていましたよ!いや、それはツッコミがいれたい気持ちはわかりますよ?だって、本当は作戦なんて全くなかったですからね?たまたま攻略できただけですからね、そりゃー、矛盾はありますよ!)
そんな事を全く顔に出さないで
「・・・さすがですね。殿下の眼はごまかせませんか」
白の聖騎士レオナルドはいかにも観念したように答えているが、本当は、
(と言ったものの・・・本当に全くもって黒の聖剣の適合者には心当たりがないんですけどー!)
このように本心から心当たりがなかったりするのだが、それらしい言葉が口から出てしまっている。もはやこれは白の聖騎士レオナルドにとっては人が炎に手を触れた時にとっさに手を引っ込めるのと同じように無条件反射でしていることだ。
これが単なる無条件反射だと気付かないガラハドは「そうじゃろう」と満足そうにうなづきながら、
「相変わらず、器用な生き方ができない男じゃのう。いまだに聖王国に義理立ているのか?そういう所は余は嫌いではないがあまり強情を張るものでないぞ。聖剣は使う者がいればかなりの戦力になる。お前自身がそれを証明しているのじゃからな」
苦笑しながら暗にレオナルドを褒めているガラハドに、
(こんな『イイ感じセリフ』で話しかけられて「いやー、全く心当たりがなありません」なんて、そんなイイ感じじゃない言葉なんて、言えるわけない。言えるわけないー!)
「わかりました。では、私から適合者に話をしますので少し時間をいただきたい」
「この場で適合者を聞かせてもらえればこちらで話をつけてもよいのじゃぞ?」
ガラハドはレオナルドにそこまで手を煩わすつもりはなかったが、レオナルドはあくまで自分で伝えると主張する。
「いえ、聖剣とは扱いの難しいものです。それなりの手順があるのです」
「そうか。ではこの件はお前に一任することにしよう」
ガラハドはレオナルドの提案をあっさり認める。聖剣の事は聖騎士であるレオナルドに任せるのが一番だろうと思ったのだ。
「ありがとうございます」
レオナルドはいつもの冷静な顔で礼を述べているがその心中は・・・。
(あっぶねええ・・・・。これでなんとか時間稼ぎできたわ!この場で言えって言われてもマジで知らんから!知らんものは言えないから!でも、どうするかなあ・・・。タイユフールあたりに相談してみるか)
このありさまだった。
再開しました。週一回のペースになります。




