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白の聖騎士はイイ感じのセリフを言うためならいろいろ懸ける

 第八軍団のフローラ将軍は謹慎処分になっていた。もっともこれは当面の処置でこれから本格的な処分が下るはずだった。


 ルティア要塞の援軍に間に合わなかった責任を問われての事だ。フローラの第八軍団の到着は神聖同盟の別動隊に阻まれたこともあり、予定よりも到着が数日遅れていた事もその印象を悪くしていた。


もちろんフローラにも言い分はあった。まさかこの短期間であの鉄壁を誇っていたルティア要塞が陥落すると思っていなかったのだ。


 だから神聖同盟の別動隊に阻まれたときも、軍を進める事よりもその後の要塞周辺での戦闘を考えて別動隊を討ち漏らすことで後々に遺恨を残さないためにあえて時間をかけて戦ったのだ。


 しかし、結果として第八軍団は間に合わずルティア要塞は陥落してしまったのだから何らかの処分を受けても反論はできない。フローラはそう思っていた。


 そのため第三軍団のボードワン将軍から自分の処分をきいた時に思わず聞き返してしまった。


 「そんな裁定がありえるのですか?」


 「貴公の部下、いや元部下に感謝するのだな」


 ボードワンは人の悪い笑みを浮かべて、それ以上は何も言わなかった。




                            *


 

 ボードワンは教えてくれなかったがフローラはすぐに事実を知ることになる。


 帝国遊撃隊のレオナルドが『ラインベイス攻略し、なおかつ黒の聖剣を手に入れた』という自らの功績と引き換えにフローラを不問にするように頼んだらしい。


 そんな事をレオナルドの一存で決めてしまえば恩賞が出ない事に帝国遊撃隊の部下達から不満が出そうなものだが、信じられない事に今回のラインベイス攻略と黒の聖剣奪取はほとんどレオナルドが一人でやったようなものであり、「その功績をどうするかはレオナルド隊長が決めればいい」とみんな納得しているという。


 (一人でラインベイス攻略と黒の聖剣の奪取をしたのですか?相変わらずわけがわからないほどすごい人です)


 と、レオナルドがただ単に『イイ感じのセリフ』を言うためにしていたことが結果として『ラインベイス攻略と黒の聖剣奪取』につながったと知らない(そんなバカバカしい事を想像できる者などいるわけもないが)フローラは素直に感嘆している。


 (とにかく、レオナルド様にお礼を言わなくてはいけませんね。私だけでなく第八軍団も助けられたわけですから)


 フローラはレオナルドの元に行くときはいつも心弾んでいたのだがこの時ばかりは気が重かった。



                              *


 フローラはレオナルドの元を訪ねるとすぐに頭を下げる。


 「すみません、私のためにあなたの働きを無駄にしてしまいました」


 「何をおっしゃるのです。今の私があるのはフローラ様のおかげです。このくらい何でもありませんよ」


 レオナルドは優しく微笑んでいる。そこには全く恩着せがましい様子がない。


 普通なら第八将軍のフローラに恩を売る事で軍としての見返りを求めたり、フローラの美しさに下心をもつ者もありえるだろう。しかし、レオナルドには全くそんな様子はない。


 (レオナルド様は本当に今回の件を私にありがたがらせようとしていない。普通なら、いえ、普通でなくても少しは貸しを与えたような気持ちになってもおかしくありません。でも、全然そんな様子がない。私は囚われていたレオナルド様に近づいた時少し恩恵を与えるような卑しい気持ちを持っていたというのに・・・私は自分が恥ずかしい・・・)


 フローラが自己嫌悪を感じているようにレオナルドは今回の件を恩を着せるつもりは一切なかった。


 だが、それはフローラが思っているようにレオナルドが高尚な人物だからではない。


 レオナルドには軍としての功績や、美少女のフローラの気を引くよりもずっと大事な事があったのだ。


 そう、『イイ感じのセリフ』を言うことである。


 自らの功績をなげうって元上官を救う。そんな『イイ感じのセリフ』を言えるおいしいシチュエーションをこの白の『イイ感じのセリフを言う』聖騎士が見逃すはずがなかったのだ。


 『イイ感じのセリフ』を言えることに比べたら『ラインベイス攻略と黒の聖剣奪取』でもらえる恩賞など大した事ではないのだ。


 レオナルドの目論見通り、この件を申し出た時、その後の他の将軍たちとの会話、そして今のフローラと存分に『イイ感じのセリフ』を言う機会を得ている。


 (『このくらい何でもありませんよ』これって何でもあるからこそ言える言葉なんだよねえ!ホントに大した事ない場合は言えないもんな!いやー、すごい事したわ!普通出来ないよねえ!だからこそ言える『イイ感じのセリフ』なんだよねえ!)


 いつのもように真面目な顔しながらこんな事を考えている。


 今もフローラの感謝の言葉を聞きながら、


 (この後はフローラ部下達も来るだろうからそこでも『イイ感じのセリフ』を言えるだろ。それから全く関係ない帝国一般兵たちもきっとこの話を聞きたがるだろ。あー、そうそうラインベイスの連中もきっとくるよなあ!)


 と早くもその後の事を考えて心ときめいていた。


 この後、『黒の聖剣を奪取した』事で聖王国との本格的な戦いに巻き込まれていくとも知らずに・・・。

自由都市編終わりです。聖王国編がラストになりますがしばらく休みます。

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[一言]  レオナルドには軍としての功績や、美少女のフローラの気を引くよりもずっと大事な事があったのだ。  そう、『イイ感じのセリフ』を言うことである。  自らの功績をなげうって元上官を救…
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