伝令
レオナルドはカウニッツにラインベイス近郊での帝国遊撃隊の指揮を任せていたが、定期的に帝国遊撃隊から伝令を来させるようにしていた。
伝令になる兵士には一応商人の身なりをさせていたが、疑われることもなくすんなりとラインベイス内に入れていた。レオナルドたちが入り込めた事といいラインベイスは経済のまわりを良くするために、少人数での人の流れにあまりこだわらないところがあった。
ここ最近はカウニッツからはラインベイスの攻略を待ちわびる伝令が増えていたのだが、今回の伝令にはいい報告を持たせることができるとレオナルドたちは上機嫌だ。しかし、逆に伝令の表情は緊張したものだった。
「西部のルティア要塞が陥落したというのですか・・・」
帝国遊撃隊からの伝令の報告にタイユフールは絶句する。
帝国の事をまだ詳しく知らない、というか知ろうとしていないアリアスはピンときていないが、帝国に来てからの日が浅くても情報をしっかり分析していたタイユフールにはその重大さがわかっていた。
(ルティア要塞いえば帝国西部の防衛の要。以前私たちが守っていた南部の砦とは比べ物にならないほど帝国にとって重要な拠点の一つです。あそこが落ちたとなれば帝国全体にとっての影響は計り知れないでしょう・・・)
いつも斜めに構えたタイユフールもこれにはさすがのレオナルドも動揺しているだろうと思いその様子を横目で見るがそこにはいつもと変わらない様子のレオナルドがいた。
(さすがはレオナルド様です。こんな報告を聞いても落ち着いておられる。やはり英雄の器ですね)
とレオナルドの泰然とした様子に感心するが、レオナルドもまたアリアスと同じ理由で反応していないだけだった。
(ルティア要塞?よくわからんがそこが落ちるとヤバいの?)
こうである。
レオナルドも『イイ感じのセリフ』を言うために情報収集に余念がないが、それはあくまで『イイ感じのセリフ』を言うために必要な事を優先しており帝国全体の戦略にはあまり興味がなかった。
(まっ、よくわからんでもその場の雰囲気に合わせて『イイ感じのセリフ』を言う事はできるからな!今回もタイユフールがいたからちゃんとこれが『重大な事』という事はわかったし、それらしい事を言えばいいな!)
「しかし、あそこを落とすとなるとかなりの戦力が必要になるだろう。いったいどこの軍が落したのだ」
ルティア要塞の事など何も知らないくせにレオナルドはもっともらしい事を伝令にたずねる。
「聖王国です。聖騎士数名がいたようです」
伝令の答えに、
「・・・やられましたね」
タイユフールが苦々しくレオナルドを振り返る。
「そうだな」
やはり何がやられたわからないレオナルドだったが重々しく答えている。
「なんだ?何がやられたんだ?俺にはさっぱりわからんぜ」
こちらもよくわかっていないアリアスが正直に口を挟んでくる。
「タイユフール」
「わかりました。アリアス、あなたにもわかるように説明しましょう」
レオナルドに促されてタイユフールが解説をはじめる。
タイユフールとアリアス。この二人をレオナルドが連れている理由はその剣士としての強さでも忠誠心でもなく、解説役とその聞き手としての役割なのだ。
タイユフールがアリアスした解説はこうだ。
恐らく聖王国は帝国の目を引き付けるためにラインベイスと神聖同盟を結んだのだ。
帝国がラインベイスに軍を向けている間に他の帝国領を攻めるつもりだったのだろう。
ただ、帝国がラインベイスに帝国遊撃隊という新参部隊を向かわせたのは誤算だったに違いない。それでは帝国の戦力を削ぐという目的からしたらあまり意味がないからだ。
そういう意味では帝国遊撃隊がラインベイスを神聖同盟から離脱させることに成功すれば帝国遊撃隊としては与えられて責務以上の仕事を果たしたことになるだろう。
しかし、ラインベイスに帝国主力を向かわせるという陽動に失敗しても聖王国はルティア要塞という帝国の要所を落とした。神聖同盟、ひいては聖王国の攻勢はレオナルドがいた頃よりも確実に積極的になっているようだった。
帝国も情報が入っていないわけではなかった。
ここ数か月の間、帝国西部に不穏な動きがあることは掴んでいたのだ。そしてその裏にどうやら聖王国が主導となっている神聖同盟があることもわかっていた。
現に神聖同盟の動きを牽制するためにフローラの第八軍団は兵力を増強して動いていたのだ。
レオナルド達の隊が抜けたがその分帝国の属国から戦力を加えていた第八軍団は数だけで言えば以前よりも増えていたくらいだ。
「フローラ様はご無事なのか」
直にルティア要塞にいたわけでないが、神聖同盟の動きを牽制するために軍を動かしていたフローラの動向は気になるところだった。
 




