白と黒②
果たし合いの双方から確認を終えてシンゴは右手を上げる。
「それでは双方準備はよろしいですか?この果たし合いにおいてはどんな手段も許されますが、正々堂々と戦うことを期待します。では、はじめ!」
シンゴの合図がくだるやいなやレオナルドとラインハルトはともに聖剣を抜き放って交錯する。
ガキン!お互いの一撃を受け止めたと思うと、息つく暇もなく猛攻撃をどちらからでもなく開始する。
その戦いは剣術の稽古などでは絶対に見られない、まさに実戦そのものの戦いだった。攻撃を防御で受け止めるわけではなく、攻撃を攻撃で受けているのだ。
お互いに実力はわかりすぎるほどわかっているので今更探り合いの必要はない、とばかりに二人とも無駄な間合いをとることもなく接近した状態で猛烈に打ち合っている。
(す、すごい。これが聖騎士の戦いなのか・・・信じられない速さと正確さだ・・・)
ラインハルトについてきたネッツはラインベイスの騎士とはレベルの違い過ぎる二人の剣技に唖然としているが、そんな剣技だけでも超絶した戦いをしながらラインハルトはステータス低下の暗黒魔法を発動させる。
しかし、それを見抜いていたレオナルドの神聖魔法によってすぐに無効化されている。
聖騎士は基本的に剣と魔法を組み合わせて戦う。それはレオナルドとラインハルトも同様だ。
聖騎士はその武器である聖剣だけでも強いのだが、聖剣の加護によって体力と魔力が常に回復している状態になるので魔法を使えるようになっていた方が有利だからだ。
もっとも、今は二人とも聖剣の加護はあまり活かせてない状態だ。
白の聖剣と黒の聖剣。二つの聖剣はともにその力を出す条件を満たせないでいるからだ。
白の聖剣の条件は『自己顕示』(もっとも世間に知られている条件は『自己犠牲』だが)でその力を見せつける観客がいないため本来の力を発揮できず、黒の聖剣の条件である『狷介孤高』もラインベイスが聖王国と同盟を結んでいる以上その力を発揮しようがない。
「ぐっ」
ラインハルトが苦しそうに声を出す。
お互い聖剣の能力を十分に引き出せない状況ではシンゴが見抜いていたようにレオナルドにやや分があるようだった。
もともと聖剣ぬきではレオナルドの方がわずかに実力が上なのに加えて、ネッツが(すごい、すごすぎる!)と戦いを絶賛する事によって白の聖剣の力(自己顕示)を引き出しているレオナルドが押し始めていた。
ラインハルトが連れて来たネッツの存在が白の聖騎士の有利に働いているのが皮肉だが、『自己犠牲』が白の聖剣の条件だと思っている周りは気付いていない。しかし、そのおかげでレオナルドを殺すつもりで戦っているラインハルトに対して、レオナルドは多少手加減をする余裕が出てきていた。
それまでの実戦的な殺し合いから、ラインハルトを生かそうという戦い方にレオナルドがシフトしているのをシンゴは見抜いていた。
(レオナルドさんは相手を生け捕りにできそうですね)
相手を殺さずに捕える、それほどの実力差が見えることは、それは勝敗がもはや決まったといってもよかった。
「ラインハルト。降参しろ。そうすれば命まではとりはしない」
追い詰められて息が上がってきていたラインハルトにレオナルドは静かに諭すように言っているが、もちろん心の中では
(ふっふー!『命まではとりはしない』キリッ。・・・これってめっちゃかっこいいよねえ!あ-がるう!しかも相手は聖騎士だしな。歓声が聞こえないのが残念だがいい気分だぜ!)
とかなり楽しそうだ。
しかし、ラインハルトから出たのは降参の言葉ではなかった。
「調子に乗るなよ・・・。ネッツ!俺の渡していた書状を読み上げるんだ!」
ラインハルトは闘技場につく前にネッツにある書状を手渡してたのだ。それは聖王国の印証で封印されていたもので、ネッツも中身を知らないが、言われてすぐにそれを開いて読み上げる。
「聖王国は・・・ラインベイスとの同盟を破棄する!?」
ネッツが驚きの声で読み上げると、ラインハルトの黒の聖剣から膨大な魔力があふれだす!聖王国とラインベイスが同盟を破棄したことで黒の聖剣の真価が発揮されたのだ。
その魔力のすさまじさにシンゴもタイユフールもネッツも硬直状態に陥るが、レオナルドだけは違った。動揺した様子も見せずに白の聖剣をまっすぐラインハルトに向けて構えている。
その様子を面白くなさそうに見ていたラインハルトだったが、
「さあ・・・第二ラウンドを始めようか」
ラインハルトの挑発するような言い方に、黒の聖剣が本領発揮した時ですら涼しい顔をしていたレオナルドが珍しく顔色を変える。
その様子を見たタイユフールは(落ち着いてみせていましたが、さすがのレオナルド様でも全開状態の聖剣相手ではやはり緊張するのですね)と思う。
しかし、その顔色が変わった原因は、
(こいつ!ねくら野郎のくせになんか『イイ感じのセリフ』言ってない!?なんだよ『第二ラウンド』って!?カッコよくない?その言い方!!)
と、ぶれないレオナルドだったのだった。