白と黒①
タイユフールが果たし合い場所としてラインハルトを案内したのはラインベイスの闘技場だ。
白の聖騎士レオナルドにとってはラインベイスに来てから幾度となく戦ってきた慣れ親しんだ場所だったが、黒の聖騎士のラインハルトはこの闘技場を訪れるのは初めてだった。
闘技場を囲むように設置してある観客席を見てラインハルトは嘆息する。
(こんな見世物の様な所であのバカは戦っていたのか。相変わらず目立ちたがりの奴だ)
ここに来るまでにタイユフールが一方的に話しかけてきていたが、その中でこの闘技場の話も出ていた。
闘技場での試合はラインベイスで最も市民に人気のあるエンターテインメントで、剣闘試合、馬上試合など様々な競技が行われている事。あまりの人気のために対戦カードによっては観客が入りきらないために魔道具で闘技場外に試合の様子を映し出すこともある事。特に最近では白騎士と呼ばれる騎士の試合はいつも人気で満員御礼である事。
そしてその闘技場で話題になっていた白騎士の正体がレオナルドだと聞いた時には、(仮にも聖騎士ともあろうものがなんというバカなまねをしているんだ。これだから平民は・・・)と頭が痛くなるくらいイライラしたものだ。
そういう経緯もあって闘技場で果たし合いをすると知ったラインハルトは嫌な気分になったが、さすがに今日は観客をいれていないらしい。
レオナルドの側には黒髪の少年が一人いるだけだ。
「ずいぶん大仰な場所でやるんだな」
「聖騎士同士が本気を出して戦える場所はラインベイスの街中では他にはないからな」
ラインハルトの呆れたような言葉にレオナルドは肩をすくめる。
久しぶりにあったというのに再会の挨拶もしないラインハルトにレオナルドは(相変わらず暗い奴だなあ・・・)と思う。いつものレオナルドなら自分から挨拶するところだが、したところで「ふん・・・」と鼻を鳴らされて無視されるのがオチなのだ。そしてその後には気まずい空気が流れる事が聖王国にいた頃からしばしばあった。
ラインハルトは平民出のレオナルドをあからさまに見下した態度をとる事が常だったのだ。
そんな二人とは対照的に黒髪の少年は笑顔で話しかける。
「僕はシンゴ・シンドウと言います。第三国の者としてこの度の果たし合いの見届け人をさせて頂きます。よろしくお願いします」
シンゴが丁寧に名乗るのをラインハルトは一瞥すると、
(ガキが見届け人か・・・。いや、ただのガキではないようだな・・・聖騎士級の実力があるようだ)
すぐにその強さを見抜いてる。そして疑念もわいてくる。
「貴様が用意した見届け人だが、まさか貴様に味方する事はないだろうな?」
ラインハルトの問いにレオナルドが答える前にシンゴが自ら答える。
「それはありえませんよ。僕はレオナルドさんとは確かに知り合いですが、果たし合いに水を差すような事は絶対にしません。それどころかお付きの方たちが加勢に入ろうものなら僕が責任をもって対処します。それは我がシンドウ家の家名にかけてお約束します。」
堂々というシンゴにレオナルドも「彼は歳は若いが信頼できる人物だ。人格も腕もな」とちょっとイイ感じ風に付け加えるが、
(俺に付いてきたネッツはともかく、タイユフールを止める事をいとも簡単に言ってのけるか。面白いガキだな)
とシンゴの発言にしかラインハルトの関心はなく、レオナルドの言葉はほとんど頭に入っていないようだった。
(この黒野郎!人の話聞けよ!絶対聞き流してるだろ!せっかくちょっとイイ感じのセリフを言ったのに!)
この辺がレオナルドにラインハルトが嫌われるゆえんなのだろう。
「では見届け人として問います。この果たし合いに賭ける物があるならば双方申し出てください」
そんな二人の陰のやり取りを知らないシンゴは作法通りに果たし合いをすすめていく。決着がついた後にもめないためにも戦う前に見届け人には賭け物を確認しておく義務があるのだ。
「賭け物は必要ない。果たし合いの結果が俺の目的になるだろう。俺はこの裏切り者を打ち果たして白の聖剣をあるべき場所に戻せればそれでいいのだからな」
ラインハルトは顔色一つ変えずに言っているが、要はレオナルドを殺して聖王国に白の聖剣を持ち帰るということだ。
それに対してレオナルドも平静を保っているが、
(こっっわ!マジ、こいつこっわー!怖いわー、ヤバいわー、ひどいわー、仮にも同じ聖騎士の仲間だったのにここまで割り切って殺すとか言える?俺お前になんかしたか?何もしてないのに殺したいの?こっわ!黒の聖騎士、こっわ!)
心中ではかなり怯えていた。しかし、
「私も賭け物は必要ない」
といつものように冷静そのもの表情で言うのだった。




