白の聖騎士、騙す。
「本当によろしかったのですか?レオナルド殿に協力すると約束していましたが、結局は帝国の属国になってしまっていたら目も当てられませんぞ」
マルチェッラの執事であるキンナは不安を隠せない様子だが、当の主人は軽く答える。
「白の聖騎士は帝国に従えとは言わなかったでしょ。ただ、神聖同盟からラインベイスが抜ければ不問にするって」
「それはそうですが・・・」
「それに聖王国の魂胆がわかりましたからね。黒の聖剣の能力は白の聖騎士が言っていたもので間違いなかったんでしょ?」
「まあ、そこに関しては間違いないようです。確かに黒の聖剣の能力は『狷介孤高』。聖王国に詳しいものに調べさせたので間違いないでしょう。その効力もレオナルド殿がおっしゃっていたもので概ねあっているようです」
マルチェッラの問いにキンナは言葉を慎重に選びながら答えるが、マルチェッラの顔色はわかりやすく変わる。
「ずいぶん舐めたマネをしてくれたものね・・・。聖騎士を私たちへの援軍として派遣して恩を売っているように見せかけて、その実はこちらの裏切りに対する保険として寄こしただけだったってことね」
「そう決めつけるのはさすがに早計なのでは?一応援軍としての役割もあると思いますが・・・」
「それはないわよ。あなたが今、言ったんでしょう!黒の聖剣の能力は『狷介孤高』で間違いないって。その能力だったらラインベイスが聖王国の味方であるときは大した力は発揮できないでしょ。何しろ味方の中にいるんだから。だけど、ラインベイスが聖王国を裏切ったら敵中に一人いる事で絶大な破壊力を示す事ができるようになる。つまり、こちらの敵にならなければ真の力を発揮できない黒の聖騎士を『援軍』として派遣している事自体、初めからそのつもりだったとしか考えられないわ!おかしいと思ったのよ。いくら聖騎士とはいえ、たった一人で来るなんて。普通は供を連れてくるでしょ。たった一人で来たのはこちらが裏切ったときに最大限の破壊力を出せるようにするためだったのよ!」
いつもに増して口数の多いマルチェッラにキンナは不審を抱く。
(これはまさかマルチェッラ様は・・・)
そんなキンナの考えも知らずにマルチェッラはさらに続けていく。
「だいたい、黒の聖騎士のあの陰気な顔つきは私は初めから気に入らなかったのよ!いかにも何か裏がありそうな感じがしていたわ!それに比べて・・・」
「・・・まさか、白の聖騎士の事を受け入れることになったのはあの方が美形だったからではないでしょうな?」
「そ、そんなわけないでしょう!ちゃんとラインベイスにとって最善の選択を考えての事です!」
そう言い切るマルチェッラのこめかみには一筋の汗が流れているのをキンナは見逃さなかった。
*
そのころ宿に戻ったレオナルド達も今後の方針を話し合っていた。
「レオナルド様は全てわかっていたんですね。聖王国が黒の聖騎士をラインベイスに派遣している事を知っていたから、その事実からラインベイスに聖王国に対して不信感を抱かせる作戦だった・・・。それにしてもよくそんな情報をもっていましたね」
「私にはいくつかツテがあるからな」
「さすがですね」
帝国の将の1人になったいまでも聖王国に情報源を持っている事をにおわせるレオナルドに素直に感心するタイユフールだが、もちろんレオナルドにツテなどない。
そう、レオナルドはただ『ツテ』と言いたかっただけだ。『ツテ』という言葉にはいかにもイイ感じのセリフっぽい感じがあるのだ。
そんなセリフを言えて大満足のレオナルドに冷水を浴びせるように、
「でも、黒の聖騎士がこのラインベイスにいるって言われたときに驚いてなかったか?」
アリアスが素朴な疑問を口にする。
レオナルドは心の中でぎょっとする。
(この野郎・・・アホみたいな顔で会談中はほとんど黙っていたのに変なところはみてるなあ・・・。まあ、いい。こんな時に使える汎用性の高いセリフがあるのだ)
「それも作戦のうちだ」
(『それも作戦のうち』これさえ言っておけばだいたいオッケー!うーん、便利なセリフだぜ!正直、自動モードだったし、それを差し引いても何も考えてなかったけどこの完璧なセリフには文句のつけようがないだろう)
「そうなのか?それにしてはマジで嫌がっていたような・・・」
「敵をだますにはまず味方から、と言うことだ」
「なるほどなあ。すっかり騙されちまったぜ」
そう、アリアスは今現在も騙されている。
本当は何も考えてなかったくせにこの着地点が作戦通りだったかのように言うレオナルドに。
「あとは黒の聖騎士をどうするかだが、それも考えているんだろう」
「もちろんだ」
自信たっぷりに言うレオナルドだが、当然この後の展開など何も考えていないのだった。




