自動モード
なんとか話を合わせたレオナルドだったが話を合わせているだけでは何の解決にもなっていなかった。
(なんか、頭脳戦のやり取りみたいな展開が長すぎてつらい・・・。こういう展開が続くとあんまりスカっとした『イイ感じのセリフ』も言えないし、さっさと『強敵をボコボコにしてイイ感じのセリフを言いいまくるだけ』の展開に戻りたい・・・)
レオナルドの頭脳の99%は『イイ感じのセリフを言う事』に費やされているため、のこりの1%ではあまり難しい事を考える余力がないのだ。
(あー、もう何も考えたくない。なにもかも捨てて、ただ、イイ感じのセリフを言うだけの生活をしたい・・・)
頭脳の限界をむかえていたレオナルドは考えるのを・・・やめた。
ただ、考えなくても無意識に行動できる反射行動が幼い頃から『イイ感じのセリフ』に命を懸けてきたこの聖騎士には身についていたので、
「私がここに来たのは君に聞きたい事があったからだ。ラインベイスは帝国と敵対するような道を選んだのだ?仮に自由都市としての自立を重要視するなら神聖同盟に加入するのは矛盾していないのか?」
このようになぜかその場にあった言葉がレオナルドの口から自動的に出てきている。何も考えていないのに。
そんな事とは知らないマルチェッラはその質問の鋭さにハッとしながらも答える。
「そうしむけたのはあなた達帝国ですよ?帝国第二皇子が戦費の借款をラインベイスに求めてきたのですが、その態度は対等な相手への交渉とはとてもいえないもので借款とは名ばかりの強制徴収でした。それこそまるで属国に対するものでしたからね。そこに来られたのが黒の聖騎士、ラインハルト殿です。ラインハルト殿の勧めに従ってラインベイスは神聖同盟に加わることになったのです。同盟はあくまで同盟。帝国の属国になるよりはマシという事になったのです」
「ラインハルト様が来られたのですか?」
聖騎士の中ではそういう戦略的な働きをあまり考えない黒の聖騎士の意外な行動に声を上げるタイユフールに、
「おそらくゴドフロア将軍かポッパーあたりの入れ知恵だろう」
レオナルドに言われて「なるほど、それはありえそうですね」と聖王国出身のタイユフールも納得している。ちなみにこれも反射行動で出たセリフでレオナルドは相変わらずなにも考えていない。その後もレオナルドは思考停止自動モードで話をしていく。
「ラインハルトはまだこの自由都市にいるのか?」
「ええ。供の者を一人も連れずにお一人で迎賓館にいらっしゃいますよ」
わざと「供を連れていない」と含みを持たせて言うマルチェッラの言葉にレオナルドとタイユフールが同時に顔を曇らせる。自動モードではこのようにその場に合わせた顔つきも反射的にしてくれるのだ。
「まずいな・・・」
「まずいですね・・・」
その様子をマルチェッラは意外に思う。もはやマルチェッラにはレオナルドに敵対する気はなくなっている。だからわざと「供を連れていない」つまり討とうと思えばいつでも討てると言ったのだ。
これには黒の聖騎士に会ったことのあるシンゴも疑問に思ったようで、
「そんなに黒の聖騎士殿は手強いのですか?聖剣持ちとはいえ、僕の見たところレオナルドさんにはとても及ばないですし、僕でも確実に勝てそうですよ。一人でいるのなら対して脅威ではないのでは?」
「その見立てはある意味正しくて、ある意味間違いだ」
「どういうことですか?」
「ラインハルトの黒の聖剣は『狷介孤高』。敵の数が多くて味方の数が少なければ少ないほどその能力が発揮される。ラインベイスが聖王国の『味方』である今はラインハルトの聖剣はそれほどの力を発揮しない。何しろ味方だけで敵がいないのだからな。しかし、ラインベイスが聖王国の『敵』になったら敵中でただ一人の黒の聖剣は最大限にその力を発揮するということだ」
「つまりラインベイスがあなたに従って聖王国の敵になってしまえば黒の聖騎士はたった1人で敵中にいる事になるのでその瞬間に最強になるというわけですね」
マルチェッラの言葉にあまり感情を表に出さないレオナルドが珍しく思いつめたような顔でうなづく。
その様子を見てタイユフールは、
(レオンナルド様があんな表情をするのを見るのは久しぶりです。確かにレオナルド様は昔からラインハルト様の事を苦手だと言われていましたからね。ラインハルト様もレオナルド様をライバル視していましたし、私程度では計り知れないですがお二人の実力は拮抗しているのでしょう)
と思ったが、実際にレオナルドが考えていたのは
(ラインハルトのやつは苦手なんだよなあ。あいつ、暗いし、口数少ないし。あんまりしゃべらないから『イイ感じのセリフ』も言いにくいし)
という黒の聖騎士の実力とは全く関係ない事だった。
自由都市編あと少しです。




