白の聖騎士、敵の将軍にイイ感じに褒められる。
「なかなか大したものだ。噂にたがわぬ武勇だな」
帝国軍のボードワン将軍がその口を覆っている髭をなでながら前線の様子を眺めている。
「のんきなものですな?金色の姫騎士を逃してしまいましたが・・・」
あきれたように言うのは実年齢は中年に差し掛かったばかりだが、二十代にも見える年齢不詳の参謀ジルだ。
「なに、金色の姫騎士の軍団なんぞよりあの白の聖騎士一人の方はよっぽど価値があるわ。・・・と言ってもあれほど好き放題にされるのはちとおもしろくないのう」
参謀ジルの方をチラリと見るボードワン将軍に、
「しかたありませんね・・・。私が行ってきますよ」
やれやれと首を揺らすジルだが、
「あの・・・差し支えなければ僕に任せて頂けないでしょうか?」
15、6歳の礼儀正しそうな黒髪の美少年が遠慮がちに口をはさんでくる。
「ほう、君が行ってくれるというのか?願ってもないことだが・・・」
ボードワン将軍が意外そうな顔で言うが、少年はまっすぐな瞳でボードワンに向き直ると、
「はい!お祖父様からできるだけ多くの強い者と手合わせするようにと言われていますので!」
「その割にはわしの隊の中ではわしとジルとしか手合わせをしてないようだが?」
「はい!お祖父さまは強い者と言われたのでお二人のみ手合わせをお願いしました」
「一応今のわしの隊には3000人ほどいるんだがなあ・・・」
「はい!強い者ですからお二人のみにお願いしました!」
純真そのものの少年は同じセリフを屈託なく繰り返す。
全く悪気の見られないその姿に参謀ジルはあきれながら
「将軍がレイミア様に主力のほとんどをお預けするからこういうことになるんですよ・・・」
「いや・・・ほら孫は女の子だし・・・。やはり多少過保護になるじゃろう」
帝国軍ボードワン将軍の軍団は今二手に分かれているのだが、ベテラン勢はほとんどボードワンの孫のレイミアの隊につけられており、ボードワン自らの隊には新兵が中心になっているのだ。
「あの・・・任せていただけるのでしょうか?」
話がそれそうになったので少年が確認してくる。
「うむ、シンゴ君ならば大丈夫だろう」
ボードワンが太鼓判を押す。
この少年はシンゴといい東方の剣術流派の一つ、心童流の総師範の孫で武者修行の旅に出ていたところ、祖父の友人であるボードワンのところに身を寄せていたのだ。
まだ年少ながらその剣才は歴代最強と言われた祖父をもいずれ凌ぐと言われているほどでボードワンもジルもその強さを認めている。
「では、行ってまいります!」
少年は嬉しそうにうなづくと一目散に戦場に向かっていった。