白の聖騎士、イイ感じに正体を明かす
「ようこそいらっしゃいました。こうして会うのは闘技場以来ですね。来てくださって嬉しいですわ」
マルチェッラはキンナに連れられて入ってきたレオナルドを一目見て(合格だわ!)と気持ちが高揚するが、フルブライト家の当主として恥ずかしくないようにいつものように優雅な笑みで応対している。
「こちらこそお招きして頂きありがとうございます」
そう答えるレオナルドの視線が自分の後ろにいる少年に向かっている事にきづく。彼はマルチェッラが『白騎士』に会う際に用心としてこの場に立ち会ってもらったラインベイスで今最も強いと思われる者だ。
「彼は私の友人です。わけあって馬上試合には出ていませんが剣の腕ではあなたにも劣らないでしょう」
『白騎士』を牽制するわけではないが、あえてその強さを強調して紹介しようとするマルチェッラに、
「彼の強さは知っていますよ。久しぶりだな、シンゴ」
レオナルドが親し気に話しかけると
「お久しぶりです。まさかうわさの『白騎士』があなただとは思いませんでした」
シンゴと呼ばれた少年も懐かしそうな顔で返事をしているのを見て
「お二人はお知り合いだったのですか?」
マルチェッラはシンゴの方を振りむいて驚いている。
シンゴに用心棒を頼んだ時に「へえ、マルチェッラ様が負けたのですか?それは・・・楽しみですね」とレオナルドがきいたら『ちょっとイイ感じのセリフじゃないか?』と嫉妬しそうな返事をしていたシンゴだったが、二人が昔からの知り合いだとすると本当に自分に味方してくれるのか不安になってくる。
そんなマルチェッラの不安も知らずにシンゴは嬉しそうに話はじめる。
「以前、勝負していただいたことがあるのです。その時は僕の負けでした」
「その前に一度君が勝っているだろう」
「あの時は戦場で、僕の方には味方もいましたからね。一対一で同等の条件下では負けましたよ」
「シンゴ殿に勝たれたのですか?しかも同等の条件で?」
二人の会話を聞いてマルチェッラはさらに目を丸くする。シンゴの強さはよく知っているのだ。
シンゴが武者修行の旅をしているときいて興味を持ったマルチェッラがラインベイスの猛者たちとの立ち合いをセッティングしたのだがそのすべてにシンゴは苦も無く勝っている。正直全員がシンゴに子ども扱いされていたと言っても過言ではない。
ただ、騎乗での戦いはあまり得意ではないらしく馬上試合には出ていなかったのだ。
「シンゴ殿に勝たれた・・・それほどの方なら私などがいくら装備を整えたとしても勝てるわけがありませんわね」
マルチェッラは自分自身にあきれたようにため息をつく。はじめから勝てる相手ではなかったのだ。
落ち込んでいるマルチェッラにレオナルドは声を優しくかける。
「あなたも強かったですよ。少なくとも私が馬上試合で戦った中では一番強かった」
「お世辞でも嬉しいですわ」
「あいにく私はお世辞を言う事はありません。誰が相手でもね」
(おっ、これはなかなか『イイ感じのセリフ』だな!)
「そうですね。この方はお世辞を言わないでしょう」
レオナルドの心中も知らずにシンゴも同意している。
「ところでシンゴ殿は『白騎士』様とお知り合いと言うことはこの方がどのような方か知っているのですね?」
「ええ。というか知らないんですか?」
「『白騎士』様は仮面をつけて素性を隠していましたからね。でも、仮面を外してこられたのでそれを明かしてくれるつもりなんだと思いますが・・・」
マルチェッラはレオナルドを刺激しないように話している。頼みのシンゴが勝てなかった相手となれば下手にその機嫌を損ねたくなかったのだ。
だが、レオナルドは機嫌が悪いどころか上機嫌だった。何しろこれから言うセリフはどんな形であれ『イイ感じのセリフ』になるに決まっている。なにしろ今まで秘密にしていた正体を明かすというシチュエーションなのだから。
そして、嬉しさのあまりドヤ顔になりそうなのを必死に押さえつつ言い放つ。
「私は帝国遊撃隊隊長、人呼んで白の聖騎士、レオナルド!」
(決まった!かつてなく決まった!『人呼んで』このフレーズを使える日が来るなんて・・・嬉しすぎる!)
レオナルドは心の中で感動のあまり号泣していた。




