白の聖騎士、イイ感じのセリフチャンスをスルーしない
「ようこそいらっしゃいました。『白騎士』様。私はマルチェッラ様の執事をしておりますキンナと申します。以後お見知りおきをお願い致します」
マルチェッラの執事であるキンナはさすがにラインベイスの要人の執事として恥ずかしくない完璧な立ち振る舞いをみせているが、『白聖騎士』と一目見た瞬間、内心焦っていた。
(これは・・・合格になってしまうな)
この度の客人『白騎士』が普段付けている仮面をせずに訪ねてきたのは驚いたが、それ以上にその素顔に冷や汗をかいていた。
『白騎士』の端正な顔立ちに(これはマルチェッラ様好みの顔だ)と素直に思う。
(しかし、どうして仮面を外して来たのだ)
キンナは疑問に思う。闘技場では常に仮面をつけていた『白騎士』といえどもラインベイス七家の一つであるフルブライト家に招待されたからにはその素顔を見せるだろうとは考えていた。
しかし、マルチェッラ邸に入るまではこれまでのように仮面をつけてくると思っていたのだが、何を思ったのか素顔を晒してきたらしい。
(おかげで市中が騒ぎになっていたようだが・・・。しかし、これで『白騎士』がこの屋敷に来ることを市民に知れ渡ってしまっただろう。まさかそれが狙いか?・・・『白騎士』、ただ強いだけの男ではないようですな)
いろいろ考えているキンナだが真実は『考え事をしていたレオナルドがうっかり仮面をつけるのを忘れただけ』なのだ。
そんな事を知らないキンナは失礼だと思いながらも聞かずにはいられない。
「今日はいつもの仮面は付けられていないのですね」
「何か不都合でもあるのかな。仮面をつけていて苦情がでるならわかるが、まさか仮面を外して苦情が出るとは思わなかったな」
(うんうん、わかってるよね~。ちゃんと仮面の事に触れてきたな!最初はしれっとした顔で案内しようとしてたから、この執事、空気読めないわ~と思ってたけどちゃんとできるじゃん!せっかく仮面外してるからしっかりいじってくれよ!これはイイ感じのセリフを言うチャンスなんだからな!)
このように全く失礼だとは思っていない(むしろ上機嫌)レオナルドだが、その顔はいつものように冷たいものだったでキンナは恐縮したように
「いえ、そういうわけでは・・・」
とここで話を終わらせようとするが、
「確かに気になるだろうな。今までずっと仮面をしていた私が急に仮面を外してきたのだからね」
とレオナルドは思わせぶりな言い方をする。
(この話は終わらせないぞ~。まだまだ『イイ感じのセリフ』を言えそうな状況だからな!この『仮面を外す』というシチュエーションにはまだ先があるはずだ!)
「では、どうして仮面を外してこられたのですか?」
レオナルドの口ぶりから仮面の事をに触れていいと思ったのかキンナは質問してくる。真実は触れてもいいどころか触れてほしいのだが。
ただ、問題があった。
(あれ?そういえば俺が仮面をしなかったのは『うっかり忘れただけ』だったよな?)
レオナルドが自問しているようにとても明かせるような理由ではない事にようやく気づいていた。しかし、今更後悔しても後の祭りである。
(ヤバい、ヤバい、ヤバいー!なんで俺はこういつも後先考えずに話してしまうんだああ!くうう、この身に染みついた『イイ感じのセリフ』がどうやってもまとわりついてくるう!・・・こうなったらあれしかない!あのセリフしか!)
「その質問にはいずれ答える事になるだろう」
いかにも考えがあるように言うレオナルドにキンナは息をのむが、このセリフの役割は何も考えついていないレオナルドがとりあえず答えを先延ばしにするためによく使うあのセリフだった。
思い付きで書いた『チトリ ~チート取締官の嘆き~』 という連載を始めました。毎日更新予定です。興味があったら覗いてみてください。




