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マルチェッラ①

 レオナルドは悶々としていた。


 結局一晩中寝ないで『レオナルドの作戦』を考え続けていたのだがわからずじまいだったのだ。


しかし、わからないからといって『自分の作戦』をタイユフールにきくことなどできないのがレオナルドだ。


 (こうなったらいっちょ出たとこ勝負で行くしかない!)


 いつものように装備を整えながらレオナルドは決断したのだった。


 

          

                              *


 

 支度を終えて宿の自室から出てきたレオナルドに、 

 

 「レオナルド様、それでいいのか?」


 アリアスが驚いたように声をかけてくる。


 確かにラインベイスの大貴族であるマルチェッラの屋敷を訪ねるにしてはいつのように白い鎧に身を固めているのは少し不作法かもしれないが、平服で行くほど警戒を解くのも賢いやり方とは言えない。敵地である以上用心に越したことはない。


 (つまりこの格好で間違いはないのだ)そう確信して


 「問題ない」


 睡眠不足であることを全く面に出さないで普段通りに振舞うレオナルドだったが、


 「でも、それじゃあレオナルド様の正体がバレるんじゃないのか?」


 アリアスに言われてようやく気づく。自分がいつもの白仮面をつけていない事に。


 (やべえ・・・。『作戦』のことに頭がいっぱいでついうっかり仮面をつけるのを忘れていた・・・。だけど「問題ない」とカッコつけて言ってしまった以上今更「忘れてた」とも言えないぞ。どうする?どうすれば・・・)


 レオナルドのすごいところはこのように心中穏やかでもないにも関わらず、常に余裕の笑みを浮かべる事ができるところだ。まあ、それだけでは何の解決にもなっていないのだが。


 ただ、解決策が自分からやってくることが多いのだ。


 「アリアス、その様子では結局レオナルド様の『作戦』がわからなかったようですね。レオナルド様の格好はこれでいいんですよ。もう、顔を隠す必要はないのですから』


 と解決策(タイユフール)がもっともらしく言うと、


 「そういうことだ」


 どういうことかもわからず同意しているレオナルドだった。


                                   *


 

 一方こちらはレオナルド達を待ち構えているマルチェッラ屋敷だが、こちらでもマルチェッラの服装について執事が確認していた。


 「マルチェッラ様、その格好で会われるのですか?」


 「そうよ。悪い?」


 何か文句があるのかしらとばかりに答えるマルチェッラの格好は鎧に身を固めていたレオナルドと違ってとても戦いには向かない胸のあいた高価なドレスに身を包んでいる。


 「もう少し警戒した方がよいのでは?」


 「大丈夫よ。『彼』だっているんだからそんなに警戒しなくてもいいでしょ。せっかく招待したのだからやっぱりおしゃれしないとね」


 笑顔で答えるマルチェッラに


 (またマルチェッラ様の悪い癖がでましたね・・・)


 執事は苦い顔をしている。


 「もお、いいじゃない。私だって年頃なんだしこういうことを意識してもいいでしょ」


 「それは構いません、というよりもぜひ意識してほしいところですがお相手を選り好みしすぎるのです」


 ラインベイス七家の一つフルブライト家の若き当主であるマルチェッラは今だ独身で婚約者もいないが、今まで縁談を全て断っている。


 何しろその条件が自分より強い事。まずこの段階でほとんどの者はこのラインベイスでは除外されるのだが、その上、マルチェッラは面食いなので「私、美形でないと嫌だわ!」と言い張っている。


 かといって普通の美青年では「もやし野郎には用はないの!」とこれまた拒否だ。

 

 (マルチェッラ様の好みは無理がある。強くて美形の者など現実にはいないのだ。いつまでも物語の中のお姫様気分ではこまるのだが・・・)


 執事の考えていたことがわかったのか


 「あら、私は美しくないとでもいうことなの?」


 強さにおいては言うまでもないということなのかマルチェッラは容姿についてだけきいてくる。


 「・・・お美しいです」

 

 執事は追従ではなく本音で答えている。


 (これだから困るのだ。マルチェッラ様は強くて美しい。そして自分が基準になっているから他人に求めるものが高くなっているのだ)


 「今回の方は強さにおいては合格。後は容姿ですわ」


 白騎士として戦っていたレオナルドは常に仮面をつけていたのでいまだにその素顔を知る者はラインベイスにはいない。

 

 「たとえ美形だったとしてのあんなどこの者とはわからない馬の骨を・・・」


 「そこまでよ。私だってバカじゃないわよ。フルブライト家当主の自覚だってあるわ。ただ強くて美形なだけの者選んだりしないわよ」


 そうなのだ。マルチェッラは結局フルブライト家の当主としていい加減なものを伴侶として選ぶつもりはない。


 つまりこれは、


 (遊びなのだ。マルチェッラ様は選ぶつもりもないくせに着飾って楽しんでいるだけなのだ。まあ、どうせマルチェッラ様の眼鏡にかなうほどの美形であるはずもない)


 執事はそう思ってこの遊びを許容することにした。


 だが白騎士の素顔を知っていたら全力で阻止しただろう。そして、この時の甘い判断を後悔するのだった。

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