七人衆②
開始の合図とともにマルチェッラはレオナルドに語りかける。
「本当は剣でお相手したかったのですけど、あいにくあなたの剣と戦えるほどの武器はこの槍しか持ち合わせていなかったの。すまないわね」
マルチェッラは剣に対して槍という有利な武器で戦うことをレオナルドに素直に詫びている。それ以前に全身を高価な魔道具で固めているのだが、そこに触れるのは野暮というものだろう。いくら正々堂々戦おうしていると言っても所詮は平和になれた自由都市ラインベイスの大貴族に過ぎないのだ。
そんな自由都市という国ですらなく、仕えるべき王もいないラインベイスにおいて騎士道らしきものを体現しようとするマルチェッラにレナナルドは好感を抱く。
それまでの相手と言えば騎士ですらない魔獣使いは別としても、騎士であってもとにかく勝敗にこだわるような相手が多かったのだ。騎士としての振舞いよりも勝利を優先するのはいかにも商業が発達したラインベイスらしい現実主義だ。
そして現実主義者相手にはいまいち『イイ感じのセリフ』が映えないのだ。やはり『イイ感じのセリフ』には少しくらい夢見がちな方が相性がいい。
(こういう真面目で騎士道を大事にするタイプなら間違いなお花畑な発言をするはずだからな!こちとら『イイ感じのセリフ』を言うチャンスが増えるってもんよ!)
と騎士道どうこうよりも、それによって『イイ感じのセリフ』を言えるという意味での好意だった。
「どんな武器でも構わない。どんな武器であっても私の武器よりも有利である事はありえないのだから」
(この『闘技場で目立って戦う』という条件下で白の聖剣よりも強い武器なんてないだろうからな)
レオナルドの本心からの言葉だったが、マルチェッラはそれを謙遜だと受けとっていた。
「あなたは武器の力なんかには頼っていないでしょう。確かにすごい剣だけど、自由都市ラインベイスをなめないでよね。そのレベルの武器は世界中の物資が集められているこのラインベイスでも数少ないけど、ちゃんとあるのよ。この『霊器・霧の魔槍』のようにね!」
マルチェッラは褒めたつもりだろうが、この発言は逆鱗に触れていた。
『霊器』は魔導武具の中でも特に力のある武器で、聖王国の十の聖剣、帝国の魔槍などの『神器』に次ぐ力を持っているとされている。
つまり『神器』である『白の聖剣』に比べて『霊器』の『霧の魔槍』は一段劣る性能だと言っていい。
そして『霊器』程度と同程度に見られた『白の聖剣』の怒りはヤバかった。
そう、マルチェッラの発言は『白の聖剣』の逆鱗に触れていたのだ。
(うっわー。白の聖剣さんめちゃくちゃ気合入ってるわ。今までの試合でたっぷりと目立てて力が充填されているうえに、前回の戦いでは白雲が活躍したから出番が少なくてその分、力があり余っているところに『霊器並み』あつかいだもんな。『あの程度の武器と同等を思われるのは心外だ!』と言わんばかりの力がビンビン伝わってくる。今まで色んな状況で白の聖剣の力を引き出してきたけどこういうパターンもあるんだな。でも・・・この力の高まりはマジでヤバいかも)
レオナルドは異常なまでの高まりを見せる白の聖剣の力に、少しビビっていた。
(これは、ガス抜きの必要があるなあ。久しぶりに『あれ』をしてみるか・・・)
レオナルドはマルチェッラに問いかける。
「防御魔法は使えるな?」
「え?」
「防御魔法は使えるかときいている?」
「そうね。一応使えるわよ。魔道具の力もあるから、ちゃんと使えば魔導部隊一個大隊の一斉攻撃にも一度は耐えれるわよ」
自慢げにいうマルチェッラに、レオナルドはにこりともせずに言い放つ。
「それを聞いて安心した。では、ちゃんと使うのだぞ」
レオナルドはマルチェッラの返事を待たずに高まりつつあった白の聖剣の力を収束させていく。
「え?・・・・」
マルチェッラは最初は何の事かわからなかったが、すぐに自分が危機的状況に置かれていることに気づく。いや、気づかされたのだ。レオナルドから(正確には白の聖剣からだが)発せられている強力な力によって。
「あ、あれはなんですか?」
その膨大な力は離れたところから見ている普通の観客にすら感じられるほどだ。そして戦闘経験がある者ならなおさらだった。
「さあねえ、マジでヤバい感じはするが・・・」
アリアスは観客にそう答えながら小声で「ありゃなんだ?お前なら知っているんだろ」とタイユフールに尋ねる。
タイユフールも周りには聞こえないように小さな声で「『聖断』、聖剣使いの最強の技です。本来は聖剣使いが複数人で使う者なのですが、まさか単独で使えるとは思えませんでした。どっちにしてもこんなところで個人相手に使うような技ではないですよ。本来なら軍団相手に使用する技です」と答える。
(さすがに本来の威力では使わないでしょうが、あのがちがちの魔導武具なら防げると判断したのでしょうか?)
と心中で付け加える。
「ホーリーシールド!」
そうこうしている間にマルチェッラが防御魔法を完成にさせて魔法盾を前に出して防御姿勢を完全に整えた事を見届けて、
「それではいくぞ・・・。『聖断!』」
レオナルドは渾身の一撃をマルチェッラの手前の地面にぶつける!
(外れた!?)マルチェッラは一瞬そう思ったが、すぐにそれが間違いだと思い知る。
防御魔法を使ってなおかつ、強力な魔法盾で防御姿勢をしていたのにもかかわらず、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。しかもラインベイスの最高級の魔導鎧や魔道具で全身を固めていたにも関わらず立ち上がれないほどのダメージを受けてそのまま気絶してしまったのだ。
「少し本気になりすぎたか・・・」
闘技場(観客席を除く)の半分以上を吹き飛ばして開けた大穴を見ながらしっかり『イイ感じのセリフ』を言いながらレオナルドは
(『防げるか?とあらかじめきいてから相手に防御魔法をあえて使わせてからの強大な一撃を放つ』という一連の流れ。一回やってみたかったんだよな~!意外と条件を満たすのが難しいから今までしたことなかったけど、やはり気持ちいいな!)
真顔でこんなことを考えていた。




