七人衆①
レオナルドは闘技場で戦い、相手を打ち負かし、イイ感じのセリフを言う。そんな充実した生活を送っていた。
その乗騎である白雲も大いに活躍できる環境にかつてない喜びを感じていた。
そして白の聖剣もレオナルドの活躍に伴って「すばらしい名剣だ!」と注目を集めて満足していた。
こうしてレオナルドも白雲も白の聖剣も実に愉快で楽しい日々をラインベイスで送っていた。
しかし、その幸せも永遠ではなかったのだ。
その時は来た。
レオナルドの次の対戦相手は『七人衆』ラインベイス七家の一つフルブライト家のマルチェッラだ。
フルブライト家はラインベイス七家の中でも軍事を担当する二つの家の一つで、マルチェッラはそのフルブライト家の若き当主で美貌の女騎士だ。
もし、ラインベイスで軍事的に権勢のある者とつなぎをつけるつもりならばこの上ない相手だろう。当初のラインベイスの上層部に近づくために闘技場で戦うという目的は果たされたと言っていい。ここでうまく立ち回れば(レオナルドにとっては不本意だが)これ以上闘技場で戦う必要はなくなるのだ。
そのためには試合後にマルチェッラに関心を持たれるような戦いをしなければならないのだが、それは簡単なことではない。
だが、その心配をしたタイユフールの「次の試合は難しい試合になりそうですね」という言葉ににレオナルドは「大丈夫だ。私に任せておけ!」と自信たっぷりに答えるのだった。
*
「ずいぶんと派手にされていますね。さすがによそ者にここまでされてはラインベイスの面子が立たないという事で私が出てくることになりました」
マルチェッラはこれまでの相手にはなかった余裕のある表情だ。それだけ自分の強さに自信があるのだろう。
「派手にしたかいがあったな。私はこの瞬間、君を待っていたのだよ」
このセリフだけをきくとレオナルドもラインベイスの上層部に近づくという『目的』を理解しているように思えるがそんなわけはなかった。レオナルドが考えていたのは、
(ラインベイスの最高権力者の一人!これほど戦って目立てる相手はいないだろう。観客の入りも、いつもよりもいいし、『イイ感じのセリフ』を言う絶好のシチュエーションだよね!)
こうだ。
「すごいなあ。あれ全部魔導武具ですよ」
「そうなのか?」
観客席からタイユフールとアリアスはいつもの解説をはじめている。
「槍はかなりの力のある魔道具ですし、それには及ばないものの防具も全部魔道具です。あの黒タイツも魔具ですね。下手な金属製の脛当てよりもよっぽど防御力がありますよ。さすがは自由都市ラインベイスの権力者ですね。世界中のレアなものを集めているようです」
「ほー、タイユフールは何でも知ってるな。では、あの馬も普通の馬とは違うようだがわかるのか?」
「おっ、よく気付きましたね。あの馬もただの馬じゃないですね。おそらくユニコーンハーフです」
「ユニコーンハーフ?」
聞きなれない言葉にアリアスが聞き返す。
「ユニコーンと馬のハーフですよ。ユニコーンは通常は馬とは子を作らないのですが極まれに馬との子供ができる事があるのです。その身体能力はユニコーンには劣るものの普通の馬とは比べ物にならないくらい優れています。もっとも、ユニコーンハーフは子をなす事が出来ないので一世代限りのものになりますけどね」
「なるほど。腕前はともかく装備は超一流をそろえているってわけか」
アリアスはうんうんと頷いている。そんな二人にいつものように観客が尋ねてくる。
「では、今回はさすがの白騎士さんも不利だっていうことですか?マルチェッラ様は腕前もかなりのものですよ」
二人の周りで解説を聞いている観客もいつもと違って無条件に白騎士の応援をする気にはなれないらしい。さすがにラインベイスの誇る七家の一つが負けるのを望みたくはないのだ。
「それはどうでしょうねえ、何しろあの方ですからね」
(最悪負けても構わないんですよね。こちらは『目的』を果たせばいいんですから)
タイユフールは余裕の笑みを浮かべる。
しかし、タイユフールは知らないのだ。
こちらの『目的』を当事者であるレオナルドが知らないまま試合が開始されようとしている事を・・・。




