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白の聖騎士、馬上試合に参加してイイ感じのセリフを言う

 今、自由都市ラインベイスの市民たちは二週間前に現れたある人物に熱狂している。


 闘技場で行われる馬上試合に彗星のごとく現れた騎士、その白を基調とした出で立ちから『白騎士』と呼ばれている男だ。


 「君は確かに強い。しかし、今はまだ私の方が強いようだ」


 聖剣を突き付けながらの『白騎士』のいつものセリフが決まると大観衆がどっと歓声を上げる。


 尽きる事のない賞賛の言葉を受けながらも『白騎士』は表情一つ変えることなく(ここは天国かな?一生ここに住みたーい!!)と心の中で絶叫しており、その愛馬である白馬も誇らし気に(めちゃくちゃ気持ちいですね!旦那!)といなないている。


 そんな『白騎士』を闘技場の関係者席から見守っている二人の男がいる。


 「いつまで『白騎士』様はここで戦い続けるつもりなんだ?」


 巨漢の男が話しかけると、小柄な男は肩をすくめる。


 「さあねえ、なかなか大物が食いつかないからね。でも、そろそろ出てくるんじゃないかな。『白騎士』の名前も売れてきたし、よそ者にラインベイスで大きな顔をされたら面白くないだろうからね」


 そう、二人とは帝国遊撃隊のアリアスとタイユフールだった。そうなると『白騎士』の正体もおのずと知れてくる。


 「しかし、よく気づかれないものだな。あれだけわかりやすい格好をしているのだが」


 半ば呆れたようにいうアリアスに、タイユフールも苦笑して、


 「まさかラインベイスに敵対している帝国の部隊長が単身乗り込んできているとは思わないんでしょうね。人間、自分の想像外の事には考えが及ばないものですよ」


 「それにしてもあの格好はなあ・・・」


 アリアスはまだ納得できないと首をひねっている。白い鎧に白い兜に白仮面、白馬にまたがり強力な魔法剣を装備した『白騎士』と名乗っている正体不明の騎士が『白の聖騎士レオナルド』だとバレていないのはアリアスでなくとも不条理に思えてくるだろう。


 「逆にあの格好だから誰も本物のレオナルド様だと思わないのではないですかね。いかにも『白の聖騎士』らしい特徴をマネた偽物みたいですからね」


 「この状態を見ているとあの時本気で反対した俺たちが馬鹿みたいだな」


 二週間前の作戦会議でレオナルドが自由都市ラインベイス攻略のために単身乗り込んで馬上試合に出場すると言い出した時にはその無謀な行為をタイユフールやアリアス、カウニッツだけでなく会議に参加していなかったフローラも反対したものだ。


 だが、レオナルドの意志が固くそれを覆す事ができないと知ると、せめて単身ではなく護衛を連れて行くように頼み込んでタイユフールとアリアスが無理やりついてきたのだ。


 そして馬上試合に出場する際の格好についても白の聖騎士とわからない装備をするように主張したタイユフールたちを押し切って「私は白の聖騎士レオナルドなのだよ」とイイ感じに言いながら今のスタイルを貫いて出場していた。

 

 そして二週間が経つうちにタイユフールたちにもレオナルドがラインベイスの馬上試合に出場している意図がわかってきていた。おそらくレオナルドは馬上試合で名を上げてラインベイスの名士と知り合うつもりなのだろう。


 ラインベイス市民の娯楽の一つである馬上試合は闘技場で行われる他の剣闘試合と違って、ある程度身分の高い者が出ている。自前で馬を用意して、きらびやかな装備を整えて出場できる騎士は限られている。もっとも、レオナルドが出場できているようにラインベイスの騎士に限らず、旅の騎士たちが腕試しに出場することも認められているのだ。

 

 そうした旅の騎士たちの中には対戦したラインベイスの名士たちと交流を持ち、そのまま仕官した者もいる。


 「しかし、うまいことラインベイスの名士と知り合えたとしてもそのあとはどうするんだ?」


 「そこは私にもわからないな。レオナルド様は今回の作戦の概要を教えてくれないから『ラインベイスの名士とのつなぎを付けるために馬上試合に参加している』っていうのもここまで見てきた私の想像にすぎないしね。でも、この想像はたぶんあってるよ。さすがに他に馬上試合に参加する理由がつけようがないからね。ただ、その名士をどうやって籠絡するかは私程度ではわからないな」


 タイユフールはお手上げというポーズをとっているが、レオナルドの本当の考えなどわかるはずがなかった。


 『娯楽は各種揃っており、特に闘技場で行われる馬上試合が人気がある』


 作戦会議で追い詰められていたレオナルドは苦し紛れに見ていたタイユフールの報告書に載っていた一文を見てこう思ったのだ。


 (市民に人気のある馬上試合!これって『イイ感じのセリフ』を言うチャンスが盛りだくさんじゃないか?これは出るしかない!絶対に出る!出るったら出るぞ!)


 ラインベイス攻略など全く関係なく馬上試合に出てイイ感じのセリフを言う。それだけがレオナルドの頭を占めていた。


 そして今に至るのだが、

 

  (いいな~。ここは。このままここでずっと戦っていたいよ!)


 そんな喜びに満ち溢れたレオナルドの脳内にはタイユフール達が考えている『名士たちと知り合った後にどうするか』どころか、『馬上試合に参加して名士と知り合う』すらまだ頭の片隅にもなかったのだった。


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