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白の聖騎士、作戦会議でイイ感じのセリフを言う①

 「君は確かに強い。しかし、今はまだ私の方が強いようだ」


 聖剣を突き付けながらのレオナルドのいつものセリフが決まると大観衆がどっと歓声を上げる。


 尽きる事のない賞賛の言葉を受けながらもレオナルドは表情一つ変えることなく(ここは天国かな?一生ここに住みたーい!!)と心の中で絶叫していたのだった。



                                 *


 

 自由都市ラインベイスは大陸南西部の湾岸部に位置する貿易都市である。


 自由都市ラインベイスはその名のとおり国ではない。あくまで一都市である。しかし、どの国家にも属さず、それでいてその交易で培われた経済力はそこらの小国をはるかに超えるほど豊かなものだ。


 君主制ではないので王はおらず貴族はいるがその権力は絶対的なものではなく、すべては『市民議会』とラインベイスを代表する七つの有力な家からなる『七人衆』で決められている。もっとも市民議会と言ってもラインベイスに住んでいる者すべてに市民としての資格があるわけではなく、ある程度の資産がある者に限られている。


 市民議会には政策等の議決権があるが実際に政治実務を担当して行政を動かしているのは『七人衆』だ。 


 七人衆はラインベイス七家と呼ばれる七つの有力な家からなるが、それが貴族だけでなく中には大商人やギルド長などからも選ばれているのがラインベイスが他の国とは違うところだ。


 軍事的な側面からラインベイスをみると、兵数的には決して十分といえないが強固な城壁に囲まれており、また防衛用の最新鋭の魔導武器も豊富なので実際の防衛力はかなりのものがある。他国に攻め込む能力はないが守りに入るとちょっとやそっとでは落ちないだろう。


 その戦力は金で雇った傭兵が主体だが常時3000程度の兵力を有している。そしてそれを率いるのは七人衆の中で軍事を担当する二つの家が担当しており、どちらかの家の長が戦死したとしてもすぐに対応できるようにしている。


 もっとも軍事を担当していてもその家が七人衆の中で優位に立つことはない。あくまでラインベイスの金で雇った傭兵の指揮権があるだけで直属の兵を多くはもてないようになっているのが自由都市としての在り方なのだ。


 経済的には交易都市として栄え、莫大な資産を持っており、文化的にも最先端のモノが集まっている。娯楽も豊富でこの世界で楽しめるものは全てあると言っていい。


 次に対外的な関係を見ていくと帝国にもその他のどの周辺国にも属さないで、全ての国と平等にそして自由に取引をしている。


 帝国は他の国に思われているほど侵略主義ではない。現に自由都市ラインベイスに関してもその自主性を重んじて無理に従わせるつもりはなかった。交易都市としてその役割をはたしていれば帝国としては十分に利用価値があり、わざわざ戦争をしかけて併合するほどの事はないと思っていたのだ。


 しかし、ここで問題が起こった。自由都市ラインベイスが聖王国の提唱する神聖同盟への参加を決めたという情報が入ったのだ。


 ラインベイスが帝国に従わなくて自立しているだけだったら問題はなかったが、帝国に明らかに敵対している神聖同盟の一員になるのは捨て置くことができなかった。


  中立は許すが敵対勢力への参入は許されない。それがラインベイスが帝国の侵略目標になった理由だった。

  


                  *


 「少々長くなりましたが以上が自由都市ラインベイスの概要になります」


 タイユフールの報告に皆、一様に難しい顔をしている。南方砦の一室で行われているラインベイス攻略の作戦会議にはレオナルドの副官であるタイユフール、アリアス、そして今回から参謀役としてカウニッツも参加して四名でしていた。


 「この短期間でよくここまで調べたな。さすがはタイユフールだよ。おかげで攻略の糸口が見えてきたな」


 レオナルドがねぎらいの言葉をかけるが、タイユフールは浮かない顔だ。それは自由都市ラインベイスに吟遊詩人として潜入してきたことの気疲れからだけではなかった。


 「・・・攻略できますかね」


 タイユフールが浮かない顔の理由をそのまま口にする。自分で調べてきたわけだがレオナルドの率いる帝国遊撃隊3000名だけでラインベイスを攻略できる気がしない。それこそ帝国の正規の軍団でも単独では難しく、いくつかの軍団が合同でしなければ無理だというのがタイユフールの見解だった。


 「これを陥落させるのはことだぞ」


 いつもは威勢の良いアリアスもいい顔をしていない。戦術的な事に疎いアリアスでさえタイユフールの報告書にあるラインベイスの防衛設備からここを落とす事の難しさはわかっているようだ。


 「総兵数は我らが帝国遊撃隊と同等くらいなのでしょう?都市からおびき寄せて会戦に持ち込めば勝てるかもしれないですが、籠城されたらどうにもならない事になるでしょうな」


 反乱部族から投降したばかりに関わらずレオナルドの幕僚に抜擢されているカウニッツの発言にタイユフールが答える。


 「どんなに挑発しても出てくることはないでしょうね。あちらさんは強固な城壁に守られているし、食料も武器も豊富で、いざとなったら港があるから外部からも補給も難しくない。その上籠城戦でもっとも重要になってくる『援軍』の当てまでありますからね」

 

 「神聖同盟ですな?」


 「はい。籠城して時間を稼いでいれば必ず神聖同盟から援軍が来るはずです。間違いないでしょう」


 聖王国出身で元聖騎士候補生だったタイユフールは聖王国の動きに確信を持っている。


 「まあ、そうだな。聖王国は神聖同盟の同盟国を見捨てないだろう」


 元聖騎士のレオナルドも同意する。


 「包囲しているところを挟み撃ちされるのは面白くない事ですな」


 自らが帝国の砦を攻めた時は帝国軍の動きを探ってしばらく援軍が来ない事がわかっていて攻めていたカウニッツらしい意見だ。


 「聖王国って事は聖騎士が出てくることもあり得るって事だな」


 アリアスがレオナルドを見る。自分を倒したレオナルド並みの者が来たら苦戦は免れないだろう、だが楽しみでもあるな。とそんな事を考えていると、


 「聖王国相手に隊長は戦えますかな?」


 カウニッツはアリアスと違いもっと大局的な心配をしている。帝国に寝返ったとはいえ元聖王国の聖騎士であるレオナルドには同じ聖王国の者たちに対して刃を向ける事にためらいがあってもおかしくはない。自分たち帝国の反乱部族と戦うこととはわけが違うのだ。だが、指揮官に対して失礼な発言でもあった。


 「無礼だぞ!カウニッツ!」


 これにはタイユフールが声を荒げるが、カウニッツはさらに続ける。


 「私は必要な事を確認したまでだ。もし、隊長が聖王国の者と戦うときに心理的に遠慮するものがあるなら知っておかなくてはいけないだろう」


 (いざとなれば我ら部族の者が盾になって前面で戦わなくてはならないからな。それが隊長への恩返しになるだろう)


 カウニッツの決意をよそにレオナルドはタイユフールを抑えて静かに答える。


 「タイユフール、構わないよ。カウニッツの心配はもっともだ。だが、その心配はいらない。・・・私は聖剣の聖騎士である前にレオナルドなのだ。そしてレオナルドは戦場では迷うことはない。それがどんな戦場でもな」


 「それならば問題ありませんな。失礼しました」


 レオナルドの毅然とした物言いにカウニッツは素直に頭を下げている。


 このやり取りは一見激昂したタイユフールをレオナルドが冷静になだめたようにみえるが、もしここにレオナルドの妹のマリーがいたらこう思ったかも知らない。(兄さんたちのやり取りはなにかあやしい・・・)と。


 そう、これはレオナルドにイイ感じの決意表明をさせるためのレオナルドとタイユフールによる壮大な茶番だったのだ!


 (いやあ、さすがはタイユフール!いいところで『無礼だぞ!』と言ってくれたよ。おかげでイイ感じのセリフを言う前に『構わないよ』とひと呼吸おけたからそのあとのセリフが引き立ったよね!)


 レオナルドはいろいろと台無しになることを心の中で思っており、タイユフールはタイユフールで


 【『自分はレオナルドである。戦場では迷うことはない』と宣言した白の聖騎士レオナルドはまさに英雄そのものだったのである】と白の聖騎士の伝記に新たなエピソードが書けることを喜んでいる。


 この作戦会議で真面目に作戦を考えているのは元反乱部族のアリアスとカウニッツだけという恐ろしい状態になっているのを実直な元反乱部族の二人は知る由もないのだった。


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