白の聖騎士、なんとかなる。
「将軍にはならない」というレオナルドの発言にフローラやアリアスといった百戦錬磨の者たちも思わずレオナルドの方を見てしまう。特にアリアスはカウニッツとは部族こそ違うが同じ南方の反乱部族の出身なので、簡単にカウニッツたちを見捨てたように見えたレオナルドの行動に不信感を抱いて厳しい視線を向ける。
一方レオナルドが将軍になるのを選ばない事で忠誠を示したはずのガラハドもなぜか残念そうな顔をしている。
しかし、当のレオナルドは普段と変わらない涼しい顔だ。
そのあまりの落ち着き様に何か考えがあるのかと皆は思い直すが、実際のレオナルドの心中は・・・
(また、やっちまった・・・。カウニッツ達には悪いけど、あれだけ『イイ感じのセリフ』を言った後に今更ガラハド殿下を裏切る様な『イイ感じじゃないセリフ』なんて言えるわけない・・・。どー考えてもそんな事は俺には不可能だよねえ・・・。帝国将軍の地位は『イイ感じのセリフ』を言えることに比べたらどうでもいいし、帝国将軍になった場合に上司になる第一皇子がガラハド殿下のように『イイ感じのセリフ』を言う機会をくれるような人物かどうかわからないしなあ・・・。噂では結構な堅物らしいから望みは薄そうだ・・・。でも、カウニッツ達は反乱軍として処罰されたらさすがに可哀そうな気がする・・・。俺を信じて大人しく投降したわけだし・・・。まあ、『イイ感じのセリフ』には代えられないけど・・・。おっ、そうだ!こういう時のフローラ様だな。うまい事フォローを入れてくれるだろう。何しろ第八軍団の将軍だからな。責任もってなんとかしてくれるだろう)
頭をフル回転させて『イイ感じのセリフ』を言ったことを正当化?して自分に都合のいい事を考えているレオナルドだがフローラに対して素直に救いを求めるような態度を取らず、あくまで冷徹な姿勢を崩さない。
フローラはそんなレオナルドに(さすがはレオナルド様)と感心して、
「レオナルド様の覚悟はわかりました。一時の情に流されるのを良しとせずに、非情な者だと思われても忠義を貫く事を優先するその姿勢は私には欠けているものです。余計な甘さをなくす。これこそが誠の騎士の姿ですね」
完全に勘違いしている。しかし、反乱部族から帝国に降伏した立場であるアリアスは、
「騎士としてのプライドのためにカウニッツ達を見捨てるのか?」
納得できないといった口調でレオナルドに詰め寄っている。
(ち、ちがうんですけどー!そんな騎士の忠義とかそんなのは全く考えてなかったんだー!ただ、『イイ感じのセリフ』を言いたかっただけで・・・)
と心の中ではめちゃくちゃうろたえているのだが目を閉じてレオナルドは「決めた事だ」と静かに言い放つ。
その迫力にアリアスは悔しそうに押し黙るが、ハッキリと詐欺にあっている。何しろレオナルドは、
(ヤバい・・・どんどん取り返しのつかない事を言ってしまっている。どうしよう・・・。どうしよう・・・。どうしよう・・・)
こんな状態だった。
だが、追い詰められてもなぜか不敵な態度をとるレオナルドにこの世界の神はとことん甘いのだ。すぐに救いの一言がでる。
「見捨てる?お前たちは何か勘違いをしているのう。余は部族の者達を残さずレオナルドの配下にするには将軍になるしかないといっただけじゃ。レオナルドが将軍にならない場合の命令も受けているのだ」
視線が集まったガラハドはさらに続ける。
「レオナルド、お前を帝国遊撃隊長に任命する」
「遊撃隊長?」
聞きなれない言葉にフローラが不審がる様子に(帝国将軍であるフローラ様でも知らない役職なのか)とレオナルドも密かに驚く。
「兵数が軍団の半分以下だが、権能としては軍団同様に任務の範囲内で独自の戦闘行動をとることが許されている部隊じゃ。フローラは知らなかったようだが過去にも帝国内で編成されたことはあるのだ」
「兵数は軍団の半分以下なのですか?」
「そうじゃ。だからカウニッツが率いていた反乱部族のすべてを帝国に受け入れる事は出来ないからのう。その代り兵数が少ないから遊撃隊の場合は余の配下のままでよいそうじゃ。後はお前に任せるから上手くやるんじゃぞ」
レオナルドはガラハドの言葉の意味をすぐに理解したかのように
「わかりました。上手くやります」
と答えて「タイユフール、任せるぞ?」と腹心の部下に指示をする。
言われたタイユフールの方はレオナルドほど反射的に答える事はできなかったが、しばらく考えた後に納得したようで
「そう言うことですか。わかりました。すぐに選別に入りましょう」
と部屋を出ていく。
「優秀な部下がいるみたいじゃのう?」
「自慢の副官です」
まだよくわかっていない者たちを置き去りにしてガラハドとレオナルドは笑いあう。もっともレオナルドは、
(選別ってなんの事だろう?まあ、タイユフールに任せて上手やるだろう)と『まだよくわかっていない』のだった。
*
要件は済んだとばかりに砦を去るガラハドを門で見送っていたレオナルドは疑問に思っていたことを口にする。
「私が将軍になる事を拒んだときに殿下の顔が曇っていたのでもっと困ったことになるのかと思いましたよ」
「もし、お前が余から離れると言ったら餞別代りに一度手合わせをしようと思っていたのだができなくなったのじゃ。それが残念だったのじゃ」
白の聖騎士レオナルドと手合わせをしようというガラハドの実力は十分で個人の戦闘力としては帝国最強なのだ。まだ十代の少年だが、それこそ帝国の神器『闇の魔槍』を受け継いでいる第一皇子と普通の武器で互角以上に戦うことができるのだ。これも兄たちに疎まれている理由なのだろう。
「それは残念ですね」
(あっぶねええええええ!ガラハド皇子は強すぎて誰も相手をしてくれないレベルらしいからな)
「まあ、余の配下ならまた手合わせをする機会もあるじゃろう」
「その時を楽しみにしておきますよ」
(手合わせは嫌だが、やっぱりガラハド皇子の配下だと『イイ感じのセリフ』を自然に言えるな!ついていくぜ!皇子!)
レオナルドの忠誠がさらに上がるのだった。
*
「これでよろしいですか?」
「君に一任したんだ。それでいいよ」
タイユフールが差し出した名簿を見もしないでレオナルドは答えている。
名簿は帝国遊撃隊3000名に選ばれた者たちの名前が書いてある。
もともとレオナルドが率いていた1000名に加えて、カウニッツが率いていた中で精鋭の2000人がそのままカウニッツとともにレオナルドの部下として残ることになったのだ。
残りの部族の者たちは元の居留地に帰された。もちろん元の居留地に帰った者たちもただ帰したわけではない。ただ帰しただけではまた反乱を起こすと帝国上層部に言われるだろう。そのため帝国に人質を残しているのだ。そしてその人質こそレオナルドの元に残した精鋭というわけだ。
タイユフールが『上手く』精鋭たちと帰る者たちの関係を操作した結果だった。
「これでいつでも出征できますね」
「ああ。それがちょうど今、攻略目標が知らされたところだ。目標は自由都市ラインベイスだ」
こうしてレオナルドは帝国遊撃隊隊長として自由都市ラインベイスに旅立つことになったのだった。
『帝国・反乱部族編』は以上で終わりです。読んでくださってありがとうございます。
もともとはレオナルドがすんなり第九軍団将軍になってカウニッツ達を全部配下にして『帝国・自由都市攻略編』にいくはずだったのですが、主人公が余計な事を言ったために『帝国・反乱部族編』のラストを「どうしよう・・・」でした。後先考えないのは作者ゆずりの様です。
『帝国・自由都市攻略編』はそのうちボチボチ書いていきますのでいつの間にか再開しているかもしれません。ではまた。




