白の聖騎士と帝国第三皇子ガラハド
その日、帝国軍南方砦はかつてない緊張感に包まれていた。
南方軍総司令官である第八軍団将軍フローラはもちろんのこと、その配下の一兵卒に至るまでこれから来る人物に緊張せざるえなかったのだ。
その中でも唯一普段と変わらないのはレオナルドだけだ。(例によって異常な見栄っ張りために平静であるように見せていただけだが)
帝国第三皇子ガラハド。
カウニッツ以下反乱部族の処遇を伝えるためにわざわざガラハドが来るという。
帝国の裁定次第ではカウニッツ達は再度反乱を起こす可能性があるので拘束しておく必要があると考えるのが第八軍団の主だった者の考えだったが、レオナルドの強硬な反対にあってフローラは彼らを軟禁するだけで拘束まではしていなかった。
いずれ帝国に組み込まれる事になったときに拘束していたという事実は足かせにしかならないというレオナルドの意見を取り入れたのだったが、この決断が正しかったかはまだこの段階ではわからない。ただ、ガラハドの到着を待つしかなかった。
*
ガラハドとの面談は第八軍団フローラとその副官、レオナルドとその副官であるタイユフール、反乱部族だったが正式に帝国に組み込まれているアリアスが出席していた。
「久しいのう・・・というほどは時は経っていないかの。白の聖騎士、レオナルド。お前の活躍はきいているぞ。命を買ってやった元はとれたようじゃな」
笑いながら言うガラハドという帝国の第三皇子はその由緒ある生まれからか、『イイ感じのセリフ』を言うことに慣れている。
「私がこの場にいるの殿下のおかげです。まだ、元がとれるほど恩は返しきれていませんよ」
レオナルドも微笑んで『イイ感じのセリフ』で返す。
「その言葉に偽りはないじゃろうな?」
「もちろんです」
人に恩を着せるような性格ではないガラハドにしてはくどいなと思いながらレオナルドはハッキリと答える。
「まあ、今のは気にするな。一応確認しておきたかっただけじゃ。白の聖騎士という男がどんな男かを知るためにな」
わかったようなわからないような言いまわしをするガラハドに、普通の者ならその真意をはかりかねてとまどってしまうところだがレオナルドは逆に好感を抱く。
(こういう持って回っていうような言い方をしてくれると助かるな。これはいずれ『イイ感じのセリフ』を言うための布石になるとみた!どうとでも取れるような言い方って使いやすいんだよな。まさに理想の上司だ!俺はこのままガラハド殿下について行くぜ!)
と独特の感性でガラハドにこれからもついていくことを決意している。
そんな事とは知らないガラハドは早速本題にはいっていく。
「今回の反乱部族だが、フローラの第八軍団に組み込むには人数が多すぎる。かといって部族の者たちを他の軍団に分けて帝国に迎え入れるわけにもいかぬじゃろう。それでは部族の者たちが不満を抱くだろうからのう。反乱部族どもを残さず帝国の兵として迎え入れる道は一つ。レオナルド、お前が部族の者たちを全て受け入れて第九軍団の将軍になるのじゃ!」
「私が将軍になるのですか?!」
これにはレオナルドだけではなく周りの者も皆、驚愕している。こんな短期間で帝国の将軍になるなど聞いたことがない。まさに前代未聞だ。
「ただし、その場合は余の配下ではなくなるがのう」
「どういうことですか?」
「余にはすでに第三軍団と第八軍団がいるからのう。その上でさらに新設の第九軍団が編成されて余の配下になってしまっては兄上たちがうるさいのじゃ。もともと一年前に第八軍団を作った際にも少し揉めているのじゃ。こうも立て続けに余の軍団が増えると面白くないのじゃろう。第九軍団が設立された場合は一番上の兄上の軍団として編成されることが内定しているのじゃ」
ここに来てレオナルドは先ほどガラハドがわざわざ「その言葉に偽りはないじゃろうな」と言った意味を理解する。
カウニッツ達を全員無事に帝国に迎え入れるためにはレオナルドが将軍になって新たな軍団を編成しなくてはいけない。しかし、そうなると大恩あるガラハドの元を離れて第一皇子であるエグザリオの指揮下に入ることになる。
レオナルドは難しい判断を迫られた事になる。
反乱部族だったカウニッツ達を見捨てないためには将軍にならないといけないし、何より帝国の将軍になれるという好機を逃すバカなどいないだろう。むしろカウニッツ達を救うという大義名分があるためにガラハドの元を離れて将軍になることを正当化できるのだ。ここでレオナルドが将軍になる道を選んでも批難するものはいないだろう。
その場にいた者たちは皆、レオナルドの答えはイエスに決まっていると思っていた。
「レオナルド、余の元を離れて将軍になるかのう?」
ガラハドの確認の言葉に皆が息をのむ中、
「いえ、私は将軍にはなりません」
レオナルドはキッパリと言い放ったのだった。
あと一話で帝国・反乱部族編完結です。




