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白の聖剣はいろいろ誤解されている

「姫様!ご無事でしたか!」


 退却戦をしていた金色の姫騎士シエナのもとに聖王国の援軍が駆けつけてくる。

 赤の聖騎士をはじめとして黒の聖騎士、緑の聖騎士を含めた4500騎である。

 それを見た追撃してきていた帝国軍は早々に引き上げていく。

 もともと帝国軍の主力は白の聖騎士レオナルドに足止めされているので姫騎士親衛隊を追撃していた帝国軍は数的にはそれほど多くなかったのだ。

 戦慣れした帝国軍は勝てぬことを悟った時の判断はさすがに早い。


 「ゴドフロア、来てくれたのですね」


 姫騎士シエナは赤の聖騎士ゴドフロアの赤黒い顔を見てホッとする。

 赤の聖騎士ゴドフロアは聖騎士の中でも最年長だ。赤黒くていかにも猛将といった(いか)つい顔をしているが個人的な戦闘力だけでなく、戦闘指揮にも優れる聖王国の将軍である。


 「全く、無茶な事をなさる。少しはご自分の立場を考えて頂きたい。・・・しかし、無事でなによりでした」


 小言を言いながらも素直にシエナの無事を喜んでいる赤の聖騎士ゴドフロアとは対照的に

 「クレディ、貴様がついていながら姫様を危険に晒してしまうとは何事だ」

 青の聖騎士クレディに苦言を呈しているのは暗く冷たい瞳をした黒の聖騎士ラインハルトだ。

 「すまない・・・」

 「そういえばレオナルドの奴はどうしたんだ?あいつも付いていたはずだろう?逃げたのか?」

 「そんなわけないだろう!あいつは、レオナルドは・・・」

 悔しそうに顔をゆがめながらその続きを言おうとするクレディだったが


 「たった一人で帝国軍を食い止めている・・・。そんなところですか」

 緑がかった長髪をポニーテールにしている男、緑の聖騎士ホッパーに続きを言われてしまう。


 「レオナルドは私を逃がすために一人で囮になってくれたのです・・・。ゴドフロア、彼に援軍を差し向けてください!」


 シエナは必死の表情で赤の聖騎士ゴトフロア将軍に詰め寄るが、


 「姫様、落ち着いてください。まずは現状を把握しなくてはいけません。レオナルドは一人で残ったのですね?いくら白の聖騎士とはいえ、たった一人で長くはもたないでしょう。我らが援軍に行ったところでレオナルドが死んでしまっていたらそれこそ無駄足になる。ミイラ取りがミイラになりかねません」


 ゴドフロアは戦況を冷静に分析して姫騎士の願いにも簡単には頷かない。

 「しかし、ゴドフロア様。レオナルドの白の聖剣ならこのような状況でもっとも力を発揮します。まだ持ちこたえている可能性はあります!」

 クレディの言葉にラインハルトが聞き捨てならないと噛みついてくる。

 「おいおい、まさか白の聖剣も置いて来たのか?」

 「貴様・・・!」

 レオナルドよりも白の聖剣を優先するラインハルトの発言に対してクレディは一瞬で殺気を纏うが、

 「あー、まあ仕方あるまい。聖剣がなければいかにレオナルドと言え時間を稼ぐことはできまいからな」

 赤の聖騎士ゴドフロアが面倒な事になる前に割って入る。

 「まあ、帝国側に奪われたとしても使われることはまずなかろう。聖剣は使い手を選ぶからのう」

 「そうですね。特に白の聖剣はここ百年以上使い手の現れなかった難物。まず、心配はないでしょう」

 ゴドフロアに同調するように緑の聖騎士ホッパーが付け加える。


 聖王国に伝わる十本の聖剣は自らの使い手を一定の条件で選ぶ。


 そのため聖王国にある十本の聖剣のうち今現在、所有者がいるのは七本で残りの三本は所有者がいない状態になっている。

 また、聖剣に選ばれた者以外が使用しようとしても魔力供給や、体力回復、自己治癒等の加護は得られないし、普通の剣として使おうとしても振り上げることすらできないほどの重さになるのだ。

 

 また聖剣に選ばれる条件も各聖剣によって違う。


 青の聖剣は『勇猛精進』な者を選ぶ。


 赤の聖剣は『神算鬼謀』な者。

 

 という具合に聖剣によって様々な条件が聖文書に記されている。


 そして聖文書に記されている白の聖剣の条件は『自己犠牲』だ。

 ・・・とされている。


 されているというのは千年以上前に書かれたと伝えられている聖文書にはかすれた部分も多く白の聖剣の条件の部分は『自己・・・』と『・・・』の部分が読めなくなっているからだ。

 歴代の白の聖騎士が危険な状況で味方をかばったり、敵の大軍に立ち向かったりと非業の最後を遂げていることから『・・・』の部分を犠牲と当然のように置き換えるようになっていた。

 実際、当代の白の聖騎士レオナルドも自分を犠牲にするような行動をするときにこそ、聖剣の力を最大限に発揮していたのでもはや白の聖剣が『自己犠牲』を条件にしていることを疑う者はいなくなっていた。

 

 ・・・白の聖騎士レオナルド本人を除いて。


 レオナルドは正直、白の聖剣の条件が『自己犠牲』であることに懐疑的であった。自分には純粋な自己犠牲の精神がない事をレオナルド自身がよく知っていたからだ。

 (他人のために働くなら絶対『イイ感じのセリフ』を言ってやる!言わないなんてアホのすることだ)くらいに思っている。


 では、白の聖剣の条件は何だろうか?これはレオナルドにもはっきりとはわかっていない。ただ、自己犠牲っぽい行動をしている時に力を発揮しているのは間違いない。でも、自分に自己犠牲の精神はない。


 そんなレオナルドが行きついた白の聖剣の条件・・・それは『自己顕示』。


 聖文書のかすれて読めない部分『自己・・・』の『・・・』は顕示なのだ。そう考えれば全てつながる。

 『自己顕示』を満たすために『イイ感じのセリフ』を言うことに命を懸けるレオナルドが白の聖剣の所有者に選ばれたのは必然だったのだ。


 そしてたった一人で敵軍を食い止めて『イイ感じのセリフ』を連発するという『自己顕示』を思いっきり満たしている今のレオナルドの状況は、白の聖剣が最大限の力を発揮する条件に一致しているためにレオナルドは聖剣からかつてないほどの加護を受けて戦うことができているのだ。


 聖騎士たちは白の聖剣に対して誤解しているが、結果的にレオナルドには最大限の加護が与えられる条件が整っていた。

 さて、白の聖剣に対して誤解したままの聖騎士たち・・・。

 その誤解が彼らのその後の行動に影響するのだった。

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